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第五話「主人公とハーレム」

 俺は神野竜平。どこにでもいる普通の男子高校生だ。

 中学の時、あまり目立ってなかった俺は、バラ色の高校生活を夢見て、部活や友情、恋愛に打ち込んでいこうと思ってた。

 だが、俺がその考えが甘いことを知ったのは、高校一年生になってすぐのことだった…




 ――――とか考えてんだろうな。

 授業中によそ見してんじゃねえよ竜平。

 あいつって何かと窓の方向いてるから、頭の中でモノローグやってそうなんだよな…

 ていうか、アイツまだ自分のこと、普通の男子高校生だと思ってんのかな…

 そろそろ自分の異質さに気付くべきだ。うん。

 竜平が一声かけたら四捨五入して10人程度女性が集まりそうだ。


 あ、高坂先生に目えつけられたな。

 数学の高坂先生はまだ20代で、生徒との距離も近く、良い先生だと思う。

 少し口の悪いところや、仕事のやる気がなさそうなところも、人気があるらしい。

 竜平には職員室→冬休み補習のルートが見えるぞ。

 アイツ成績は悪いんだよな。たまに賢いのに。


「竜平、俺の授業で上の空とは… 喧嘩売ってんのか?」


「いえいえ、そんな…」


「そういえば、今日は16日。このクラスの出席番号16番は誰だったっけな?」


「ギクッ!」


「放課後、職員室だな」


「ついてねえな…」


 まだ高校1年生なのに竜平はいろんな先生に顔を覚えてもらっている。

 ドンマイ。



-----



 昼休み、竜平はたいてい屋上にいる。

 なんで竜平が屋上にいるときって誰も来ないんだろうか?

 屋上で飯食いたいやつって竜平以外に絶対いると思うんだけどな…


 予想通り竜平は1人で屋上にいた。


「よう」


「うす、秀人」


 今日もコンビニのおにぎりか… 優香もこれだとしたらかわいそうだな。


「そういえばさ、今、光咲は何してんの?」


「お前ん家にいる。優香のが見張ってるから、何かあったら連絡は来るはず」


 使い魔か… 便利そうだな。俺もほしい。


「記憶喪失なのに日本語ってなんでしゃべれるんだ?」


 記憶喪失にはいろんな種類があるから、わかってなくても無理はない。


「日向は、エピソード記憶と意味記憶が多少消えてるらしくてな。

 携帯電話の使い方ぐらいは、体が覚えてるそうだが、魔術とか、人間関係の記憶はさっぱりだ」


「そうか」


 なんでそんなこと聞くんだ? と言いたい衝動を抑える。聞くまでもないことだし。

 誰かがドアの前に来たようだ。おそらくってか十中八九、竜平の知り合いだろう。


「おはよう、竜平君、秀人君。何してるの?」


 今宮か… 動物が好きな穏やか系女子。苦手じゃないけど、


「ねえ竜平君。この前たぶん雑種の犬を拾ったんだけど、家に見に来ない?」


「あー、舞華の家か。日時とかによるかも。いつがいい?」


「えっ、来てくれるの///」


「当たり前だろ」


 そう、彼女、今宮舞華(いまみやまいか)は竜平ハーレムの一員、竜平ガールなんだよな…

 なんで、竜平はかわいい女子に好かれるんだ。

 茶髪身がかかったショートボブ。守りたい、その笑顔。で有名な今宮だ。

 同学年の男子の人気も高い。



 少し前、それとなく竜平のことに関するきっかけを聞いてみた


そしたら…


「彼が中学生のころだと思うんだけど、雨の日に、野良犬を魔物から守ろうとしているのを見たんだ。敵はただのスライムだったけど、私怖くて、通報とかも何もできなかった。

 彼は持ってた傘を、その犬に渡して雨の中、走って帰って行ったんだ。それで、高校に入って同じクラスになったときは、運命だと思った…」


 いい話だと思うけど、何個か言いたいことがあるんだよなぁ。

 まず、そん時俺もいたし。

 てか捨てられてる犬先に見つけたのも俺だし。

 なのに、いつも記憶に残るのは竜平なんだよな。


 俺は別にいいが、竜平を好きになった今宮に、幸せはあるのだろうか――――



-----



 誰かを愛する――――


 それはとても単純で、複雑なものである。


 ここにAとBとCの3人がいる。

 AはCのことが好きで、Bもまた、Cのことが好きだとしよう。

 このとき、Cはどちらを選んでも幸せになれるはずだ。

 自分も相手も好きな人と一緒になれるのだから。


 しかし、選ばれなかった方はどうなるだろうか?



-----



「俺なんかでいいのか? ほかのやつを誘ってもよかったのに」


「私は竜平君だからいいっていうか、竜平君じゃないとだめっていうか…///」


「すまん、なんか言ったか?」


「ううん、なんでもない///」


 帰りたーい。絶対俺いなくていいって。

 あの後結局、今宮が拾ったその犬? とやらを見に行くことになったわけですが…


 なんで俺同伴なの? 竜平と今宮の2人から「不安だからついてきて」って言われたわけだけど… うん、俺いらないね。

 ばれないようにひっそりと帰ろう。


 この風景を成瀬が見たらどう思うだろうな…


「それで、昨日拾ったばっかりなんだけど、色が銀に近くてかっこいいんだよ。まだ小さいのに捨てられるなんてかわいそうだよね」


「そうだな。舞華は優しいな」


「そ、そんなことないよ///」


 はぁ… めっちゃラブラブコメコメしてますやん。


 このままひっそりメサイア行こう、うん。

 次の交差点で右に曲がってそのまま逃げよう、そんなことを考えていたけど、もう少し早く逃げるべきだった。


「あ、」


「千春!?」


 あ、修羅場だ。

 てか成瀬の下の名前って千春だったな。

 竜平君のさりげなく女の子を下の名前で呼ぶの、素晴らしいと思います。


「秀人、何してるの?」


 お、日向もいたのか。

 見ての通り、短距離走の準備さ。


「竜平、誰なのこいつ? 」


「竜平君、この人は誰?」


「いや… これはその、ね?」


「「は?」」


「とりあえず、立ち話もなんだし、移動しよう… ね?」


「そうね」


 今だ、逃亡のチャンス!


「「秀人(君)にも説明してもらうから」」


 はい、俺に逃げ場などありません。知ってた。


 日向、笑い抑えきれてないぞ。



-----



 修羅場って怖えな。 


 ファミレスにて4人掛けの席に向かい合って座っている成瀬と今宮は火花を散らしている。

 竜平はどっちの隣に座ったらいいのか困惑しているようだ。どっちの隣でも死はまぬがれないだろうけど。

 まさに正妻戦争。二人の後ろに阿修羅が見える。


 俺の前では、日向が構ってオーラを出している。無視だな。


「私は成瀬千春。竜平とはメサイアの同僚ね」


「私は今宮舞華。竜平君とは同じ学校の同じ学年の同じクラスなの」


 張り付いた笑顔が恐ろしい…

 店員さんビビッてオーダーとりづらくなってるよ。ほんとすいません。

 竜平は半ばあきらめ状態。今までにも何度か遭遇したのだろう、こんな状況。


「ねえ、この『こーひー』っておいしいのかな?」


 こいつ緊張感ないな。

 俺は今にでも暴動がおこりそうで怖えよ。


「コーヒーは苦いけど飲めなくはないだろうな。心配だったら、キャラメルソースでもつけたらどうだ?」


「秀人も緊張感ないよね!?」


 竜平、お前そんなツッコミしてる場合か。

 正妻戦争がヒートアップしてるぞ。


「すいません、このコーヒーのモカにキャラメルソースつけたやつください」


「あとエスプレッソも1つ」


「じゃあ、俺はこのカフェラテを」


 お前も頼んでんじゃん。

 てかもはや現実逃避か…


「私、竜平と一つ屋根の下で暮らしてるし!」


 爆弾発言投下しちゃったよこいつ。

 事実だけど。

 竜平、社会的に死んじゃうだろ。


「そ、そんな、ふしだらな…」


 今宮、キャラがぶれるぞ。

 ふしだらって何だふしだらって。


「どういうことなの竜平君! そんな人だとは思ってなかったよ!」


「いや、誤解なんだ…」


「しゅうとー、これすんごく苦いよー」


 日向、それは俺のエスプレッソだ。てか空気読め。


「あの、お客様…」


 すいませんマジすいません。

 いつの間にか店内の人の大半に注目されていた。


 俺とこいつらは他人ですオーラを出して逃げよう。うん。


「大変だ、魔物が出たらしいぞ!!」


「何!?」


 竜平が駆けだす。

 それに合わせて成瀬も声のした方向へ急ぐ。


「成瀬、状況がわかったら連絡してくれ。場合によっては、本部に連絡して、避難勧告を出す。」


「わかった!」


 あいつらは正義感の塊だ。

 魔物を許さず、人間を救う。まさに正義。


「今宮、日向、取りあえずお前らはここから動かずにいてくれ。

 俺はここから一番近い支部に連絡する。今宮?」


「成瀬さんは、私の届かない、竜平君に近いところにいるんだね…」


 今宮は下を向いて動かない。


 竜平は、人々を幸せにしたいはずだ。

 しかし、そんな自分が、誰かから好かれるがゆえに、いつか誰かを不幸にするかもしれないと、気付いているのだろうか。



----- 



 誰かに愛される――――


 それはとても単純で、複雑なものである。


 ここにAとBとCの3人がいる。

 CはAとBの両方から好かれている。

 好きでいる間は、AとBは困難はあっても幸せだろう。

 自分が好きな人と、一緒にいられるのだから。


 しかし、いつか必ずどちらかを選び、不幸にするCは、

 ―――――今、幸せだろうか?

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