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第三話「主人公はやっぱり剣士」

「記憶喪失!?」


 意外、というかなんというか、最初に口を開いたのは竜平だった。


「う、うん」


 竜平の驚きように日向までもが驚いている。


「記憶喪失ね… 何か思い出す手がかりとかはないの?」


 成瀬はたまにオカン属性を発揮するな。面倒見がいいのはいいことだ。

 竜平はさっきとはうって変わって思案顔で無言を貫いている。寝てないよな?


「ええっと… 何にも覚えてなくて…」


「昨日こいつが俺ん家の前に行き倒れててよ。まあ雨も降ってたし、とりあえず家に…」


「家に連れ込んだの!?」


 は? 別によくね? 雨に濡れてる人を助けるのは当然のことだろ。


「そのとき病院か警察に連れてくべきだったろ…」


「あ、そっか」


 その発想はなかった。

 珍しく竜平にまともなこと言われた。なんか悔しいな。


「あなたってたまに抜けてるわよね…」


 うっせえ。ミスは誰にでもあるものだ。


「とりあえずさ、この世界について説明してほしいんだ。俺だとどこから話していいのかわかんなくてな」


「そのくらいならいいけど…」


 記憶喪失の人を直に相手するのは初めてなもんで… てかなかなか会えるもんじゃないって、やっぱり。



-----



 というわけで、成瀬先生による、簡単:魔物と人間、魔術と超能力の授業が始まった。


「ええ~と、まず魔物の意味自体はわかるのよね?」


「この世界にいるってことぐらいなら」


「じゃあ、魔物が何かっていうと… 簡単に言えば、「反」生物って感じかしら」


 なるほど。反生物とは面白いたとえだ。


「魔物は、生物とは完全に別の生態系で生きているの。もっとも、どうしてそんな風になったかは、わかってないんだけどね?」


「じゃあ、なんでメサイアがあるのさ」


「それは… 魔物と生物、主に人間が互いに干渉してしまったからでしょうね」


 本当ならばなかったかもしれない接触で、俺たちは戦わなければならないのだ。面倒なことをしてくれたな。


「じゃあさ、秀人も言ってたけど、ジョブって何?」


「ジョブは…」


 そんな感じにどんどん話が進んでいく。やっぱりここに連れてきたのは正解だった。


「とまあ、そんなわけで、人にとっての得意な部分を伸ばすためにも、ジョブでクラス分けされてるの。あと、各ジョブごとに約50人ぐらいの部隊が10個以上あるわね。基本的にはこのグループで活動することが多いわ」


 日向が聖職者ってことは、治癒魔法に関して何かあったんだろう。


「ボクも聖職者部隊に入ってたのかな?」


 それはどうだろう、新入りだし。そういえばカードには部隊未所属って書いてあったような…


「どうかしら。竜平みたいに部隊に入らないで小隊だけ、とかもあるし。小隊は100個ぐらいあると思うけど、ここは割と最近できたんじゃないかしら?」


「最近なのに9小隊なんだね」


 小隊は、隊員の期待値とか平均的な総合能力の高さで順位付けされてるからな。

 聖剣を持ってるというイレギュラーな存在。数倍の魔力量を持った魔導士。実家が剣道の道場で、侍の中でも10本の指に入るほど入団時に期待された才能の持ち主。そして、工作員として、誰からも気づかれず、上層部にも忘れられているであろう俺。そう、俺。


 期待されないわけがない。そんなわけで一気に第9の称号をいただいたわけだ。


「あと珍しいところではソロで活躍している人もいるわ。これは、よほどの実力がない人じゃないとできないことだけど…」


「あと魔術のことも聞きたいな。ボクも使えるかどうなのか、使い方とか」


「私は魔術が使えないから何とも言えないわね… ここは優香に頼みま… 寝てるわね。じゃあ竜平に… 起きなさい、竜平」


 なんだこの扱いの差。

 竜平一瞬で起き上がったよ。


「魔術使うのにやり方なんてねえよ。念じれば出る、それだけ。

 ただ、魔術が行使できるかどうかには個人差があるけどな」


「個人差?」


 世の中、どうしてもできる人とできない人がいる。生まれつき、は変えられない。

 世知辛いな…


「例えば、体内に少しでも魔力がなければ魔術は使えない。成瀬みたいに、この魔力がない人間もいる」


 竜平の説明に捕捉しておこう。


「ボクには?」


「あるぞ」


 俺だって、竜平だって魔術は使える。

 ある程度使っていれば、使える人の区別ぐらいはつくさ。


「で、さらに魔術には、四大元素の『火』『水』『風』『地』が絡んでくる。

 人によって、この元素も決まってるんだ。

 例えば、竜平は、火を作り出して戦う。

 そんな風に、魔術を応用して使うときに、この元素が絡む。」


 魔導士レベルになると、『水』の元素を持ってるだけで、体内の水分も操れるんだよ、って優香が言ってた。

 俺は半信半疑だけどな。


「ふ~ん」


 たぶんこいつわかってないな。別にいいけど。


「で、中でも、魔導士や聖職者は、普通の魔術使いよりも、一度に強力な魔術が使える」


「なんで?」


「魔術ってのは、ようはエネルギーの置き換えなんだ。

 魔術使いは、自分の体にあるエネルギーを、火や水に変えて使うけど、魔導士たちは、外の熱エネルギーや、太陽エネルギーからも魔術を使えるんだよ。それに、体内の魔力が多いほど、一度にたくさんのエネルギーの置き換えができる」


「ボクも魔術、使えるかな?」


 おそらくすぐにでも使えるだろう。そのくらい、魔術は向いているはずだ。

 でもなきゃ、聖職者になることなんてできない。


「たぶんな」


 そしたらボクも役に立てるね、と、冷静にしようとしているが、嬉しさがよく伝わってくる。

 わかりやすい奴だな。


「そういえば、魔術と違って超能力ってのがあったよな」


 竜平が思い出したように言った。なんだそれ、初耳だ。


「超能力?」


 どうやら成瀬も知らなかったようだ。


「ああ、まだよくわかってないらしいけど、人間すべてが持つ潜在能力で、なんでも魔術を超える力が使えるとか」


「へ~、どんなの?」


「確か衝撃を自由に操る能力だったかな? 超能力って呼ばれてるのは。でも、人によって違うらしいけどな」


 みんな、話すことが尽きたようで、少しの沈黙が訪れる。


 もう少し、決めなきゃならないことがあるので、そのことについて話そう。


 「話は変わるけど、日向の服とか買ってきてもらえないか? その間に、俺と竜平で寮の手続きとかするからよ。確か成瀬、2人部屋で1人空いてたろ。

 日向もそれでいいよな?」


「まあ、何とかやっていけると思うけど…」


 とりあえずメサイア本部の寮に住めばいい。

 なんか日向は成瀬と打ち解けてるし、大丈夫だろう。

 俺にしては珍しくついている。


「ああ… それなら先週から私、一人部屋にしたわよ」


 俺はいつも通りついてないな。


「じゃあ竜平ん家に住もう」


「「「え?」」」


 ハッピーアイスクリーム!……このネタ知ってる奴いんのかな。

 別にいいじゃん。竜平ん家広いし。


「な、な、なんでそんなことになるのよ!」


「いや、俺ん家何にもないし、防犯とかなってないし、

 もう竜平ん家に一緒に住めば連絡とか楽かなって……」


 自慢じゃないが、俺ん家には魔物が数回入ってきたことがある。全部倒したけど。

 魔物とか入ってきても、誰かを守りながら戦うのは苦手だし。


「ああ、なるほど」

 

 それで納得する竜平はやっぱりアホの子だ。


「ええええええ?!」


「あ、俺も住むよ。メサイア本部隊員が3人いれば大丈夫だろ」


「ええ… でも…」


 なかなか納得しない。

 成瀬にとっては、好きな奴のとこにわけのわからん女が住むわけだ。確かに心配だろう。


「ちょっとこっち来い」


「?」


 成瀬には、壁際に呼んで、本当の理由を教えるとしようか。

 竜平にはあとで説明しよう。


「実は、昨日から日向の周りを魔物がうろついてんだよ。

 理由はわからんが、いつもの数倍は魔物に出くわしてる」ヒソヒソ


「なるほど、そういうわけね… いいわ、協力してあげる。ただし…」


 なんとなくこいつも俺が何も考えずに来たわけじゃないことは察してくれていたようだ。


「ただし?」



-----



 成瀬たちが出て行ったので、部屋には竜平と俺の二人しかいない。


「で、ほんとはなんで病院に連れてかなかったんだ?」


 いや、最初はただ忘れてたんだけど…


「成瀬に入ったが、日向の周りの魔物の気配が尋常じゃない」


「つまり?」


 いや、そこは察しろよ。


「記憶喪失も魔物の仕業じゃないかってことだ」


「ああ… そんなこともあったな」


「とりあえず、困っている人がいたら、助ける―――だろ?」


 不敵な笑みを浮かべ、竜平の信念を確認するように問いかける。


「ああ!」


 竜平がやるとさわやかスマイルなのに、俺がやると不敵な笑みになるのはなぜなのか…






 




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