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第二話「主人公補正なラッキースケベ」

 今更ながらこいつの危機感はおかしいと思う。

 やっぱり、赤の他人の前でのうのうと飯を食うとか俺には無理だ。


「ムシャムシャ」


 即興で作った野菜炒めをうまそうに食べる少女は、どう見ても行き倒れた人間には見えない。


「?」


「どうした?」


「いや、箸が止まってるなあ、と思って」


「ああ、なんか、自分の作った料理を人に食べてもらうって久しぶりだなあ、って思ってな」


 実際、一人暮らしの俺には大体の家事スキルがついているが、誰かに料理をふるまうのはそうそうない。

 一番最近で、竜平に何かやったのが数週間前か。


「お父さんとか、いないの?」


「物心ついたときにはいなかったな」


「ふ~ん、そういえばさ、大丈夫なの?」


 自分から聞いておいてその反応は傷つくな。


「何が?」


「いや、こんな時間にレディ連れ込んで、彼女とか……」


 レディって言える年齢かお前。明らかに中学生だろ。

 中学生だからまずいのか。あれ、俺詰んでね?


「まあ、少し前まではいたけど、今は独り身だな」


 俺は竜平と違って「彼女ほしいな~」とか言ってハーレムを作ったりしない。

 恋愛ぐらい自由気ままにしたいよな。


「へ~ なんか意外」


「何がだ?」


 彼女がいたことか? 今いないことか?


「なんか顔怖いし、不愛想だし、彼女いない歴=年齢かと」


 失礼だなこいつ。

 まあ顔については自覚はしてる。

 ジト目、とよく呼ばれる眼に生気は少ない。また、鋭い犬歯は印象が良くない。


「顔は生まれつきなんだよ。てか」


「何?」


「お前はなんでそんな奴のこと頼ったんだよ」


 俺だったらこんな奴からはすぐに尻尾を巻くだろう。


「なんでって… なんとなく?てかボクはお前じゃない」


 質問に質問で返すなよ。

 ったく、これだから今どきの若者は…

 てか名前とか別にいいじゃん。


「じゃあボクからも質問。

 

 なんでボクを助けたの?」


「なんでって… なんとなく?」


 訂正。俺も今どきの若者でした。

 そしてこいつはなぜか満足そうだ。なんかうぜえな。


「ごちそうさま、風呂入りたいんだけど…」


「それなら廊下を出て右だな。

 服は… 悪いが今着てるのを着てもらうしかないな。」


「ええ~」


 なんだかんだ言いつつ、部屋を出てく。

 なんか飯食ったら生意気になったな。

 服は、明日メサイアに行ったら、竜平攻略ヒロインの誰かに頼もう。てか押し付けるか。


 シャワーの音がする。なんか眠くなってきた。

 無理もない。今日は訓練から帰ってきたら、よくわからないことの連続だ。頭が理解の範疇を超えている。


 ちなみにもし俺が竜平なら、なぜか風呂場に行き、なぜかバスタオルだけを身にまとった女子に遭遇し、なぜかその子のバスタオルが落ち、なぜか竜平は殴られる――――殴られるのは当然か。

 竜平はこんなラッキースケベを不幸と言う。

 いや、まず風呂場に行った時点で自業自得だし、女子の一糸まとわぬ姿とか、なかなか見れるもんじゃない。


 ―――眠い。

 俺はついに睡魔に耐えられなくなり、その場で意識を失っていった。



-----



 朝だ。

 隣で少女が寝息を立てている――――――

 俺のパーカーを着て。


「はぁ…」


 思わずため息が出る。

 竜平なら、速攻でフラグを立てるところだが、俺の場合はそうはいかない。

 むしろ自分から折っていくスタイル。俺マジ紳士。



 キモイな俺…


 自分でも自覚しているが、俺は無口でクールとかではなく、脳内で自己完結する人間なのだ。

 気楽だからいいけど。


「ん…」


 やばい、そろそろ起きそうだ。とりあえず部屋の外に出よう。

 ベランダに出て、冷たい風を浴びて頭を整理する。


「俺は中学生に手を出したりしていない俺はロリコンじゃない俺は…」


 もはや洗脳だこれ。


「何してんの」


 いつの間に起きたのか、日向が背後に立っていた。


「ああ… 目覚ましに朝の光を…」


「そう…」


 今の「そう」には「うるせえ」ていう意味があった。



-----



「で、今日はどうするの?」モグモグ


 フレンチトーストをほおばりながらしゃべるなよ。

 行儀悪い。


「メサイアには午前中に行くべきだろうな。

あとは、女性隊員にお前のこと紹介して、午後は服買ったりとか…

まあ、身元捜索とかは後になりそうだ。とりあえず生活面を優先しよう」


「そう」モグモグ


 少し思ったが、こいつは自分のことに無頓着すぎる気がする。

 記憶を戻したくないのか?


「まあ、食い終わったら出発するつもりでいてくれ」


「いいよ~」モグモグ



-----



「じゃあ、行くか」


 とりあえず、まっすぐメサイア本部へと向かう。


「そういえばさ」


「なんだ?」


「ボク、魔物見てないんだけど、ほんとにいるの?」


「魔物って言っても、野生のものはごく少数。だいたい悪の組織の手下で、そいつらが活動するのも週に一回くらいだしな」


 だからメサイアの活動なんて基本訓練とパトロールみたいなもんだ。

 

 本当はさっきから魔物の気配がする… 何もしてこないけど。


「へ~」


 そろそろ着きそうだな。

 自宅から徒歩十分。我ながらいい物件に住んでいる。


「あれがメサイア本部、数多くいるメサイア隊員の中のエリートが集まる精鋭部隊の本拠地だ。」


 警視庁顔負けの高層ビルには、職員、隊員、延べ3万人が所属している。その中に各ジョブごとの部隊があって、様々なジョブの人間で結成された小隊があったり、割と大規模な組織である。


「自分で自分のことエリートとか……」


 そこ、引いてんじゃねえ。

 てか、もしホントならお前もエリートじゃん、別にいいじゃん。


 まあ、とりあえず竜平たちのところに行くか。 


 そんなわけで、エントランスのオペレーターさんのところへ行き、入場許可を得る。


「隊員NO.162360 本部 第9小隊隊員 ジョブ:工作員 月詠秀人さんですね。

 ただいま入場許可を与えます」


 カードの番号を見ると、なんか自分が新参者なんだなぁ、って思ってしまう。

 全国にいるメサイア隊員数は、約18万人。

 てか、創立から5年にしてはなかなか大規模な機関だ。

 まあ、中には警察官が兼任しているところもあるそうだが。


「お連れの方は隊員証をお持ちですか?」


「あ、これです」


 アイツが倒れた時に持ってた隊員証を見せる。

 てかこういう時「あ、」って最初につけちゃうのって何なんだろうな。別につけなくてもいいのに。


「隊員NO.184235 本部 小隊未所属 ジョブ:聖職者 日向光咲さんですね。

 入場許可を与えます」


 へえ、俺よりも新入りなのか、それで本部隊員ってことはなかなか素質があったんだろうな。

 小隊未所属なら、いろいろやりやすい。記憶喪失のせいで小隊の隊員とか覚えてないとめんどくさそうだ。

 そんなことを脳内でつぶやきながら、入場許可がもらえるのを待つ。


「入場許可取得完了 入っていいですよ」


 そうだ、竜平のこと忘れてた。


「あ、すいません」


 また「あ、」って言っちゃったよ…


「第9小隊の隊長、神野竜平って今どこにいるかわかります?」


「はい、竜平さんなら、ただいま第9小隊のチームルームにいらっしゃいます。

同じく第9小隊の成瀬千春(なるせちはる)さん、神野優香(じんのゆうか)さんも一緒にいらっしゃいます」


 あいつらもいるのか… あ、でもあいつらに押し付ければ全部解決じゃね?一応女子だし。

 ずっと俺ん家に住むわけにはいかんだろうし、専門家に見てもらわないこととかは理解してもらえるだろう。

 こいつも今着てる服は昨日の服だしな…


 てかさっきから襟を引っ張るな襟を。


「なんだ?」


「いや、ボクこれからどこに連行されるのかなあ、っておもって」


「いや、とりあえず俺一人じゃ何もできんからな。仲間のところに連れて行こうと思って」


 そこから、あの施設はなんだとか、小隊ってなんだっけ、とか説明しつつ、チームルームに到着。


 第9小隊は実質竜平のための部隊だ。

 武器に選ばれる、というイレギュラーなできごとのせいで、上層部は対応に困り、とりあえずどこかの小隊に入れようとしたが、どこも入隊を断った。

 そんなわけで、新入りを適当に組ませた結果が、第9小隊だ。


「第9小隊のメンバーは、なかなか個性が強くてな、特にさっきの竜平は……」


 第9小隊を説明しつつ、ドアを開けると――――



 竜平が成瀬を押し倒していた。


 明らかにその左手は成瀬のつつましい胸に触れている。

 いやどうしてこうなった…

 俺がノックしなかったせいか。


 とりあえず静かにドアを閉める。


「とまあ、あんな感じにいつも女の子と触れ合っているんだ」


「ちょおおおおおお 秀人おおおおおおお」


 うるせえな竜平。


「へ、へえ~」


 こいつの顔めっちゃひきつってるよ。第一印象最悪だな竜平。


「なんかめっちゃ不名誉な紹介をされた気がするうううう」バゴォン


 あ、殴られたな。ツンデレって怖ええ。



-----



「さっきのは見なかったことにすること。いいわね?」


「おう…」


 成瀬の迫力に気おされてか、日向はものすごく首を縦に振っている。


「? ていうかあなた誰?」


 今更かよ… てかどう説明すっかな……


「あー、こいつはメサイアの新入りでな…「あなたには聞いてないの」はい…」サーセン


「?」


 めっちゃ日向オドオドしてんじゃん。大丈夫なのかよ。

 記憶喪失のこととかまだ全然言ってないんだけどな…


「ボクは日向光咲。ええっと、たぶんメサイア本部の新入りで、そのことを言ったら秀人がここに連れてきた」


 わりと大丈夫だった。敬語使う気ゼロなのが気に障るが、大丈夫だろう。


「へえ、私は成瀬千春。第9小隊副隊長、ジョブは侍、よろしく。呼び方は成瀬とでも千春とでも、どっちでもいいわ」


「ボクのジョブは聖職者、よろしく」


 なんか俺空気だな。


「なんか俺空気だな…」


 まじか… 竜平と思考が被っちまったよ。世界一アホの子の竜平と…


「秀人失礼なこと考えてないか?」


 エスパーかよ。


「…兄さん、私の方が空気…」


「おお、我が妹の優香、いつからそこに?」


「多分お前が来る前からいただろうな…」


 優香は影が薄い。それを生かして工作員になればいいのだが、体力面に不安があるから、魔導士として活動している。

 最も、基本的にクエストの受注やオペレートをするだけだが、魔力量はそこらの魔導士の数倍あるだろう。


「まじかよ…」


 いや気づけよ。鈍感難聴主人公。


「まあ、とりあえず簡単な自己紹介をしていこう。な?」


「…」コクッ


 まあ、こういうとき、場を仕切るのがうまい竜平はせこい。

 ましてや、優香が多少ブラコンなので許してもらえるのもせこい。


「ええと… 俺は神野竜平。秀人から聞いてるかもしれないけど、第9小隊の隊長で、剣士やってる。よろしく」


「…私、神野優香… そこの竜平の妹… ジョブは魔導士…」


「よろしく」


「光咲は、何か小隊には所属してないのか?」


 いきなり名前呼びかよ… こいつすげえな。

 あ、そういえば


「そういえば、ボク、記憶喪失なんだった。」


 いやお前が忘れるなよ。





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