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第一話「サブキャラの邂逅」

「はぁ…」


 俺は本日何度目かわからないため息を吐いている。


 『あなたの人生は、あなたが主人公』

  

 これは誰が言った言葉だったろうか。 

 そんなことを考えながら、俺は現実逃避にふけっていた。


 この世界には「魔物」というたぐいの生物(ド○クエのスライム的な奴)がおり、そいつらを束ねる「悪の組織」的なのがある。

 そんな奴らを倒すためにできたのが「政府開発人類保障機関メサイア」である。

 ここに属する人間は、戦うべき方向性としてのクラス――通称「ジョブ」と呼ばれる役割が与えられ、毎日のように修行や鍛錬にいそしんでいる。

 

 まるでゲームのRPGのような世界だな、とつくづく思う。


 実際「メサイア」ができてから、魔物による一般人の死亡報告はゼロに等しい。素晴らしい功績だ。

 全国47都道府県の各県に置かれた(北海道は3個)「支部」から集められたエリートの集団、メサイア「本部」には、精鋭が集まっている。

 といっても、メサイアの支部隊員には、「魔物を攻撃する権利」しかなく、本部隊員にならなければ、「魔物を討伐する義務」はない。

 だから、本部隊員は強くなくてはならない。

 「本部」に成り上がりで入るとすれば、それは、「英雄」のみが持つことを許された《武器》に、《選ばれる》ことしかない。


「はぁ…」


 またもや本日何度目かわからないため息を吐く。なかなかやまない雨も、ため息の要因だろう。

 

 話を戻そう。






 いくら自分が人生の主人公といえど、誰かを救うこともしない、ただ自分とその周りの人間を幸せにして生きる、そんな人生を主人公の人生といえるだろうか。




 主人公とは、誰かのために生き、誰かのために戦い、誰かの幸せを自分の幸せにする、『正義の味方(ヒーロー)』であるはずだ。


 そういった意味で言えば、俺と同じ「メサイア」の「本部」に所属する神野竜平(じんのりゅうへい)は、まぎれもない《主人公》だと言える。

 

 その理由は数え切れない。


 1つ、自分のことを平凡だと思っている。

――平凡な男子高校生は、聖剣に選ばれしものにならない。

ましてや、ハーレムを築いたりしない。


 2つ、ブラコンな素直でかわいい妹がいる。なんか主人公っぽい。


 3つ、自称不幸体質。という名のラッキースケベ野郎。

登校中に曲がり角で女子に遭遇することを不幸とは言わない。


 4つ、鈍感で難聴。鈍感で難聴。鈍感でなn(ry 一日一回は女子に「何か言ったか?」って言ってる。


 5つ、魔術の属性が火で、『ジョブ』が剣士。主人公っぽい。


 6つ、能力チート、俺TUEEE。

  

 ツッコミが追い付かねェ。


  

 まあ、本質は、『他人のために自らの命を投げ出せる』こと、だと思う。

こんな精神があるから、彼は主人公(ヒーロー)なのだろう。

  


 俺にはとうてい理解できんが。


 とまあ、これほどゲームの主人公っぽい人間は見たことない。マジでこいつ何もんだよ…


「はぁ…」


 ため息吐きすぎだろ俺。

 

 現実逃避はそろそろやめよう。


 

 最後に一つ、何が言いたいかといえば――――

 


 そんな主人公みたいな人間がいるんだから、








 今俺の前に女の子が倒れている必要性はない。





 たったそれだけである。


 さっきまで寝息をたてていた見知らぬ少女は、今まさに起き上がろうとしていた。

―――通報されたらどうしようか。


「はぁ…」



-----



 話は数分ほど前にさかのぼる。

 

 いつも通り、メサイアにて訓練を終えた俺は、大雨の降る中、家に帰っていた。

  →家の前にそこそこかわいい少女が倒れていた。

  →雨に濡れていたので、とりあえず家の中に運び込む。

  →起きちゃった。今ココ。


 回想終了。

 

「通報しないでください、ほんとお願いします」


「ほえ?」


 そして今、俺はおそらく年下の少女に全力で土下座していた。


 体調の方に異常はないらしいが、いまいち状況がつかめてないようだ。

 周りを見てキョロキョロしている。

 

「ここはどこ? てかあなた誰?」

  

 不審がらないためにも、ここは正直に名乗りをあげるとしよう。

 はやくこんなことはやめにしたい。  


「俺は月詠秀人(つくよみしゅうと)。17歳、これでもメサイア本部で働いてる」


「メサイア?」


 驚いた。メサイアを知らない人間がこの世にいるとは。

 

 メサイアは国内唯一の魔物討伐機関ということもあり、そのネームバリューはディ○ニーランドにも匹敵するであろう。

    

「この地球上には魔物が腐るほどいるだろ?

 メサイアってのはそいつらとか、そいつらを束ねてる悪の組織を倒すための機関だ。

 割と有名だと思っていたんだけどな…」


「知らなかった」

  

 そう断言することでも無かろうに。

 なぜドヤったし。


「話戻すけど、ここは俺ん家ね。

 お前がこんな雨ん中倒れてたんで拾った」

 

「ほうほう」


 いまいち真剣みにかけるな…

 ふつうもう少し危機感持つもんじゃないのか?

 てか眠いな。


「で、名前は?」


「名前? なんの?」


「いや、だからお前の名前」


「あ、ボクの名前? ええと…」


 いやいや、逆に何の名前だと思ったし。

 てか、名前いうのにそんなに考えるか?

 やはり警戒しているのだろうか? のほほんとしてるけどなかなか頭がキレるようだ。

 てか眠いな。 


 だが、次に彼女から聞いた言葉は、俺の想像の範囲を遥かに超えていた。



「ええと… ボク、誰?」



――――知るか。



「記憶喪失なのか!?」


 どうやら俺はよっぽど面倒なものを拾ってしまったらしい。

 記憶喪失とかいう単語は久しぶりに聞いた。

 人生いろいろあるが記憶喪失の人間に会うのはなかなかないはずなんだけどな…

 こういうのは竜平のところに行けよ… わー攻略ルートまっしぐらのメインヒロインだー(棒)


「あ… たぶんそんなカンジ」


「何か覚えてることはないのか? 住んでた場所とか…」


 自分でも余計なことに首を突っ込んだ手前、このまま返すわけにもいかん。


「何もわかんない」


 なぜ腰に手を当ててドヤる。こいつの感性がいまいちわからん。


「じゃあ身分を証明するものは持ってないのか? 保険証的なヤツ」


 名前、もしくは住所程度でもわかれば幸いだ。無駄に深くかかわりたくないし。

 

「ええと…」

 

 着ているパーカーのポケットをごそごそ漁る。


「あ」


「どうした?」


「なんかこんなの入ってた」


「ん?」


 そういって差し出したのは、『政府開発人類保障機関メサイア 本部隊員証 日向光咲(ひなたみさき)』という、この少女がメサイア本部隊員であることを証明するアイテムだった。

 目が覚めたら早速サヨナラバイバイするはずだったんだけどな……

 

 どうやらこの世界の神は、どうしても俺とこいつを絡ませたいようだ。


「?」


 まずは、目の前でクエスチョンマークを浮かべている少女に、状況を説明するとしよう。


「これは俺と同じ、メサイアの隊員であることの証みたいなもんだ」


「じゃあボク、メサイアで働いてたの?」


「そうみたいだな。ジョブは聖職者。ヒーラーだったのか」


 しかも本部の人間か。こんな奴いたっけ。


「ジョブ?」


 ああ~ ジョブも知らねえのか。

 はっきり言ってめんどい。うん、めんどい。


「ジョブってのは、隊員の個人個人に与えられたクラスみたいなもんだよ。

 メサイアには剣士、射手、槍騎兵、戦士、侍、魔導士、聖職者、工作員の8つのクラスがある。

 で、聖職者ってのは神の加護を受け、ほかの隊員の治癒を担当する後方支援だ」


「へえ~」


 ホントにメサイアの人間なのか? でも確かに魔力の痕跡がある。

 多少は信用していいのだろう。


「じゃあボクは魔法とか使えたりするのかな?」


「おそらくな。まあ俺は治癒魔法は使ったことないから使い方とかは知らんけど」


「秀人のジョブは何?」


 名前覚えてたんだな…… はっきり言って意外だ。


「そんなことはいい、それより名前だ名前」

 

「名前? なんの?」


 デジャブだ。

 そしてこいつからアホの子の香りがしてきた。


「お前のだよ。

 ここに日向光咲って書いてあるだろ、たぶんそれがお前の名前なんだろう。

 なんか思い出さないのか?」


「う~ん、全く思い出せない」ドヤァ


 あ、こいつ今ドヤった。こいつ今ドヤったよ。

 まあいい。時間がたてば思い出すこともあるだろう。

 おそらくこいつは、名前や思い出のみ欠如しているはずだ。魔物という単語の意味はわかるが、どんな奴かは覚えていない、的な感じで。


「じゃあとりあえず日向って呼ぶことにしよう」


「うん」コクリ


 ふつうもう少し思い出したくなるもんじゃないのか。

 自分の体験したことない事実を想像するのはたやすくない。

 人それぞれかもしれんけど。

 

「あとは… 今後について話さないとだな」


「え? なんで?」


 こいつやっぱりアホだろ。

 

「いや、一応俺とお前は赤の他人だし、ここにいてもお前にメリットなんてないだろ。」


「え… でも…」


 少し涙目になってしまっている。

 それもそうか。

 

 今気づいたが、こいつは記憶喪失、外に行っても知り合いがいないかもしれないし、誰も頼れない。

 親に見捨てられた動物は、1人で生きていく術を知らない。

 何をすればよいのか、どうすれば生きていけるのか、それがわからないなんて、どんな気持ちなのだろうか。

 ただ1人、頼れる人間が俺だったわけだ。


「いや、見捨てるわけじゃねえけどよ、一応明日メサイアに連れていくつもりだったし。俺が言いたいのは、警察とかに言わないでここにいてもいいのかってことだ。」


 少し顔が明るくなったと思えば、また暗くなる。

 こういうときのフォローの仕方は難しい、眠気をこらえてる俺の身になってほしい。

 全く、表情筋の忙しいやつだ。


「やっぱり不安か?」


 さっきより無口になっている。これが素かもしれんが、たぶん生意気なのが本質だな。

 

「うん」コクリ


「じゃあ今日はここに泊まるか?」


「うん」コクリ


 まいったな… 想像よりめんどいことになりそうだ。

 てかこいつに危機感とかないわけ?

 仮にも今は夜。そこに上下スエットの笑う子も泣き出すギザ歯ジト目系男子と一緒にいるんだぞ。

 普通の感性でいれるわけがねえ。

 なんか悲しいな……


「そうか… なら明日はとりあえずメサイア本部に一緒に行こう。

 なんか手がかりがあるかもしれないしな」


「うん!」


 とりあえずこれで大丈夫だろう。

 てか寝床とかどうしよう… 俺はソファで寝るとs「ぐ~」…飯にするか。

 

「///」


「なんか食うか?」


「うん…///」



 こうして、俺とこいつの奇妙な関係が始まった。

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