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登塔者  作者: 敦月
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第4章 一

中国地方南部に位置するT市は、中国山脈から降りる風が無遠慮に吹きさらす平凡な一地方都市である。一九七〇年代のブルドーザ型の列島開発によって誕生したこの平野は、その誕生の由来に違わず、無機質なほこりっぽさが町じゅうに漂っていた。高速道路と国道がたんぼと民家の町を横切り、それに沿うように郊外型の量販店がポツンポツンと広がる。それらの間を埋めるのは、山奥にあるコンクリート工場や産業廃棄物場へ往来するトラックの運転手たちが休息する数々の建物だ。国道沿いに連なるトタン屋根のラーメン屋や、けばけばしい装飾のパチンコ屋、その間を数珠のように埋めるチェーンの外食店の原色ののぼりは、刺激の乏しいT市のようなところにあってはむしろ、活気や文明のしるしと見なされている。 


青乃政利は、空港で乗ったタクシーの中からこの景色を眺め、軽い吐き気に襲われた。物心つくころ父親の仕事で米国西部に渡った青乃には、殺伐としたこの風景がグロテスクに思えて仕方がない。マス目のように整然と区画されたアメリカの町で育った彼の美の基準は「統一」、「秩序」であった。もちろん、そうした雑然さは東京にも溢れている。しかし、港区にある最高級ビルの最上階に出勤し、その周辺のごく洗練された飲食店にしか出入りをしない彼にとっては、今日のような、さびれた商業広告が文化の象徴になり代わる光景は異様ですらあった。真空にいるようで、思わずネクタイをゆるめそうになったが、彼は今日の仕事のことを頭に浮かべ、顔を間抜けた青空の見える窓へむけた。タクシーを降り、ゆるゆると坂を登って行く。周囲は手入れされていない空き地だが、病院敷地内にはまばらだが木や花も植えられ、脇のプランターからは日光がたまったようになまるぬい匂いが立ち上る。ただ、そのすべてがどこか安っぽくプラスチックの香りがするのはT市の特徴なのか、それとも、これから訪れる病院の経営状態の為なのか、青乃にはわからなかった。玄関へ着くまでに、青乃は脇の下にじっとりと汗をかいていた。沼を埋めた地に建てられた病院周囲の湿気は初夏でも高く、日中、空調の効いたオフィスにいることの多い青乃にとっては、例え短い距離でもこんな時間に外へ出歩くのは慣れないことだった。時計をみると約束の時間には三〇分ある。青乃は一番混んでいる内科のほうへ回った。仕事の癖で、訪問先の細かいところまで観察する習慣が身についていたのだ。


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