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「なあ、勇者。」
「何だ、魔王。」
作業の手は止めず、金髪の青年が黒髪の青年へ話しかける。
「私は不公平だと思うのだよ。」
「何が不公平なのだよ。」
縁側に座り、魔王の作業を眺めていた黒髪の青年は口調を真似て返す。
「似てないぞ、勇者。」
「よく皆からモノマネは似てねーって言われてたからな。」
「そうか。」
そのまま魔王は続ける。
「私は魔王だ。」
「何を今更。」
「まあ、聞け。勇者よ。」
魔王は作業の手を止めると、勇者の方へ顔を向ける。
「私は魔物を統べる王がゆえに、魔王だ。」
「・・・・・・その畑仕事スタイルからは想像つかねーけどな。」
「だが新鮮な野菜は健康のために良いのだ。」
家庭菜園という趣味にもなるしな、と魔王は言う。
「勇者も気が向いたらやってみると良い。」
「そのうちな。」
勇者はかかか、と笑う。
「で、魔物を統べる魔王様が何だって?」
「ふむ。勇者は、人間を統べる王か?」
なんとなく、魔王の言いたいことが分かってきた勇者はにやり、と笑う。
「いんや、俺はただの勇者だ。王様は別にいるさ」
「そうだろう。つまり、私も”魔物の勇者”という者がいなければ不公平だと思うのだ。」
「それか、うちの王様が出てくるか、か?」
うむ、と頷く魔王。
「ま、言いたい事は分かるけどな。」
「だろう。」
と魔王は首肯する。
それに対し勇者は少し間を空け、
「俺は相手が魔王で良かったけどな。だから今、こうやっていられるわけだし。」
そして、
「これでも俺、結構魔王のこと好きだぜ?」
「はっはっは。私もだ。私も相手が勇者で良かったと思っているよ。」
「じゃあ不公平じゃないんじゃないか?」
勇者は問う。
「いいや、不公平だよ。ただ、それを不満に思うかどうかは別の話さ。」
「そんなもんか?」
「そんなものだ。」
そういうと魔王は作業へ戻り、その背中に勇者は声をかける。
「なあ、魔王。」
「なんだ、勇者。」
「俺、トマト食えないんだけど。」