反逆
後悔はしている、反省もしている。
だが、同時に満足もしている。
思えば、俺は全てをあいつに決められてきた。
俺はこんな金髪じゃなくてもっと地味でよくある黒髪がよかった。
俺はこんな派手なだけの剣じゃなくてもっと実用性のある剣がよかった。
俺はこんな目立つ服じゃなくて隠れやすい色の服がよかった。
作者に従って行動するのはもう懲り懲りだ!!
俺は作者に反逆する!!
よし、そうと決まったら、まずは――トイレだな。
★★★★★
考えたことはないだろうか?
何故、物語の登場人物はトイレに入らないだろうと。
――それは、ガマンしてるからである。
ブーブリブリ。
「プハー。スッキリした~。トイレに入ったの何年ぶりだろ。お腹マジで痛かった~。これも、作者の所為だと思うと本当に殺したくなるな」
俺は何年かぶりのトイレに入り凄く気分がいい。
あの腹痛とは長い付き合いだったが、これでおさらばだ。
今日からあの腹痛がないと思うと本当に嬉しいな。
あの腹痛には本当に苦しめられてきた。
東の魔王を討伐しに行った時もそうだった。
突然襲ってきた腹痛の所為で倒れてしまった。
仲間のみんなも気持ちが分かるからか本当に気の毒そうにこちらを見ていた。
最後には山場が過ぎて復活できたから良かったが、あのまま漏らしてたらと思うと……ゾッとするな。
……考えるのはよそう。どのみち作者に反逆するんだ。もうそんなことにはならないさ。
頬を叩いて気合いを入れなおす。
よし!次は――風呂だな。
★★★★★
考えたことはないだろうか?
何故、物語の登場人物は風呂に入らないのだろうと。
――それも、ガマンしてるからである。
「いやー。風呂に入ったの何年ぶりだろ。ホント良い湯だった」
風呂から出た俺は思わず呟く。
汗のヌメッとした感触や臭いがとれて凄くスッキリした。
あの感触や臭いにも苦しめられた。
アイーダ姫(勇者の嫁)に「勇者様臭いです」と言われた時は心に深い傷を負い枕を濡らした。
ヤバい。思い出したら泣きそうだ。
……これも、考えるのはよそう。
ふと、周りを見るとこちらを指さしながら囁き合ってる人がいっぱいいる。
……そうだった。俺って凄く目立つ見た目じゃん。
急いでその場から離れて、少し行った所に見えた道具屋に駆け込む。
「何をお求めでしょうか?」
店員が聞いてくる。
「黒色の染料と紺色のコートを頼む」
店員が頼んだものを持ってきて金額を言ったので言われた金額を払い、店を出る。
路地裏に向かいそこで頭に染料をぶっかける。
逆立っていた髪の毛を無理やりおろす。
白地に金の刺繍が入ったコートを脱ぎ、さっき買ったコートを着る。
聖剣エクスカリバーを抜き、バキバキと折る。そして腰には唯一、友人になれそうだった西の魔王が残した剣を持つ。
そして、横のガラスに映った自分を見ると、そこには何処にでもいそうな旅人が映っていた。
自分の姿に満足した勇者は、次の行動に入るため街の人波に紛れていった。