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第4話〜またまた大事件!謎の機械とエセ軍人〜中編

僕は教会でのバイトを終え、ファトシュレーンの寮に向かって街を歩いていた。

「あれ、先生じゃないですか?」

 先生という言葉に僕は一瞬反応した。自分ではないのは明らかなことだが、辺りを見回してもとても先生といういでたちの人は見当たらなかった。僕が周囲を見回しているのを見ていたのか相手は「やっぱり先生でしたね」と言ってと近よってきた。

「えっと君は…」

 誰だっけ?とボケをかましたいのを必死でこらえて僕は一生懸命声をかけてきた女の子を思い出そうとする。

「今日の授業で術式読解のことを尋ねた者です」

 ああ、あの女の子か。まさか臨時教師の僕のことを覚えてくれているなんて思っていなかっただけにちょっと嬉しかった。

「こんなところで会うなんて奇遇ですね」

「そうですね。ところでその格好は?」

 実を言うと出会ったときから彼女の服装は気になっていた。ファトシュレーンの制服よりも地味だけど清潔感があり、胸元と頭のデカリボンがチャームポイントといえるだろう。

「や、やっぱり目立ちますかこれ?」

 女の子は恥ずかしそうに顔を赤く染める。

「新らしく始めたアルバイト先の制服なんです」

「へぇ、何となくお菓子屋さんみたいなイメージですね」

「わかります?実は、この先なんですけどちょっと寄っていきませんか?」

 特に断る理由はなかったからついていくことにしたんだけど、よく考えたら男が一人でお菓子屋さんに入るのはちょっと抵抗がある行為だったかな。しかし、ついていくと言ったのだからここは腹をくくろう。僕は前を歩く女の子の後ろをついて歩いていった……のはいいんだけどだんだん中央の商店街から離れていっているような気がする。

「ここです。さぁ、どうぞ」

 女の子はそう言って先に入り口の奥へと入っていく。

「ただいま戻りました。卵と小麦粉を買ってきました」

「ご苦労様。それじゃキッチンに閉まってきて……あれ、セシル君?」

「ノエルちゃん?」

 意外なところで出会ったものだ。

どうしてここにノエルちゃんがいるのだろう。

 今まで彼女からアルバイトをしているなんて話を聞いたことがなかったからてっきりしていないものだと思っていたのに。僕が訳を聞くと、ノエルちゃんは恥ずかしそうにここが自分の実家だということを告げた。

「私はずっとこのお店で育ってきたの。ファトシュレーンへもここから通っているのよ」

「そうだったんだ。でも、たまに僕の部屋にマリノちゃんと来るときはどうしているの?夜遅いときもあるじゃない?」

「その時はマリノの部屋に泊めてもらっていたの。マリノってああいう性格だから一人でいるのは性に合わないって言って」

 なるほど、マリノちゃんらしい発言だな。

「あの、お二人はお知り合いだったんですか?」

 しまった。この娘のことをすっかり忘れていた。

「長い付き合いだよ。もう二年半くらいになるのかな。セシル・マトレウス君。セシル君、この子は少し前からここで働いてくれているラウナちゃん」

「ラウナです。セシルさんって言うんですね。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね、ラウナさん」

「セシルさん、私のことは呼び捨てでいいですよ。そのほうが親しみがわきますから」

「じゃあ、ラウナちゃんって呼んでいいかな?」

「はい」

 ラウナちゃんは嬉しそうに頷いた。

「あらあら、賑やかだと思ったらお友達が来ていたの」

 お店の奥から出てきたのはノエルちゃん以上に穏やかそうな女性。

きっとノエルちゃんのお母さんだ。

「お母さん、こちらは私のお友達のセシル君」

「初めまして。いつもノエルさんにはお世話になっています」

「あらあら礼儀正しい男の子ね。ノエルにはこんなお友達もいたのねぇ」

 お母さんのこの発言から察するにノエルちゃんはあまり学校の出来事を話していないようだ。最近のことを話していないのはわかるけど僕とノエルちゃんが友達になったのはずっと前のことなのに――

「せっかくだから何か食べていったらどうかしら。ノエルといつも仲良くしてくれているからお代はいらないわ」

「お母さん…」

「ありがとうございます。でも、ちゃんとお金は払いますよ」

 僕はノエルちゃんに適当に小さなお菓子を取ってもらうと一口食べてみた。ラウナちゃん、ノエルちゃん、ノエルちゃんのお母さんの三人の視線が一気に僕に集まる。

「美味しい。すごく美味しいですよこのお菓子!」

 フォークで切ったときの切れ具合、口に入れたときの甘い香り、口の中でふんわりと崩れていく。そして飲み込んだ後もしばらく口の中に残る甘い味は、思わず息をするのを忘れてしまいたくなるほどだ。

「これ、なんていうお菓子なんですか?」

「カステラっていうのよ」

 ノエルちゃんのお母さんが説明をしてくれる。とある王国で日常的に良く食べられているお菓子らしい。

「他のお菓子も食べてね」

「はい!」

 僕はあまりの美味しさにしばらくはノエルちゃん達との会話よりも食べることを優先していた。

「本当に美味しかったぁ。えっと、お代はいくらですか?」

 そう言って財布を取り出す僕の手の上にノエルちゃんのお母さんはそっと自分の手を乗せる。

「遠慮しないでいいのよ、サービスなんだから」

「ありがとうございます。でも……」

 僕はこのことはあまり言いたくなかったが、言わないとお金を払わせてもらえそうにないだろう。

「僕はもうここで一時間以上居座っちゃってますけど、誰一人お客さんが来ないですね」

 僕の一言にやはりノエルちゃんのお母さんは動きを止めた。

「失礼ですけど、あまり儲かっていらっしゃらないのでしょう。だったらサービスなんて言わないでお金を払わせてください。こんなに食べてタダにしてしまったことでお店がつぶれちゃったら僕が悲しいですもん」

「セシル君…」

「セシルさん…」

 やはり言ってはいけないことを言ってしまっただけに店全体にしんみりとした空気が立ち込めてしまう。

「おお、そこにいたか!」

 お店の扉を勢いよく開けて入ってきたのはフレッドさんだった。

「どうしたんです、そんなに慌てて」

「大変だ!街の外でへんてこな機械達が暴れているとの通報があったんだ。俺も急遽学校警備から出撃しなくてはならない。一緒に来てくれないか?お前達の魔法の力を借りたい」

 なるほど。そういうことなら――

「行くよノエルちゃん!」

「ええ!」

「待ってください、私も行きます!」

「危険だからラウナちゃんはここにいるんだ!」

 僕達を追いかけようとするラウナちゃんにそう叫び、僕は再び前を向いて事件の現場へと向かった。

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