第3話〜大胆発言!魔法学校がコロシアム!?〜前編
会議室でその事件は起きた。
生徒副会長が両手でバンッとーブルを叩く。
「先生、今の提案をもう一度仰ってください?」
怒気を含んだ声でそう言いながら、提案者である老教師の顔を睨み付けた。
「相変わらず頭の固い小僧じゃな。もう一度だけ言うからよぅ聞けよ」
老教師はまたこいつかと言わんばかりにため息をつく。
「魔物の出所を掴む一時凌ぎとして、この学園全体をコロシアムにしようと言ったのじゃよ」
その瞬間、また生徒副会長が物申そうとしたが、間髪いれずに老教師は話を先に進める。
「ええか小僧、それから生徒会の諸君!教師陣の皆さんもよく考えてみるがよい。今、このレアードは危機に瀕している。これまでのような出来事が頻繁に起こっていながら街の人々を助けに向かえんでどこが実力派の魔法学校と言える!?高等魔術士ランク以下の生徒達は現に怯えてばかりであったではないか。最近は落ち着いてきておるようじゃが、またいつ正体不明の魔物が街を襲ってくるかもわからない状態で我が校が何の対策も取れぬようでは他の魔法学校に示しがつかぬのではないか?」
「ですが、街の安全は現に今まで生徒会の我々だけで救えてきたじゃないですか!それに生徒を守るのは生徒会の役目!他の生徒達までが戦いに参加しだしたら我々の立場が…」
生徒副会長が苦し紛れの言い訳をする。
「阿呆が!この期に及んでまだそのようなたわけたことをほざくか!結局貴様は自分の立場に酔いしれ取るだけじゃろうが?」
図星をつかれただけに副会長は歯軋りをしながら引き下がるしかなかった。
「これからもあのような状態が続くと思えん。わしはあれはまだ様子見の段階じゃと思うておる。ただ群れをなしているにしては退きが見事じゃった」
確かに、と他の教師達が賛同する。
「ようはドクターの研究の手伝いを生徒にさせるということですよね?」
教師陣の中では最も若いグラッツが今回の会議をまとめる。
「その通りじゃ。流石はグラッツ、物わかりがよいのぉ」
ドクターと呼ばれた老教師は満足そうに笑う。
他の教師陣も「やはり」「またか…」といった表情をしている。
「しかし、今回のは現状を考えると承認せざるを得ませんね」
ずっと黙ったまま会議を見守っていた生徒会長がついに口を開いた。
「会長」と生徒会員達が声をあげるが、生徒会長は穏やかに微笑んだままだった。
「ドクター、私も貴方の案に賛同します。戦う以外にも生徒会の仕事はいっぱいあるからちょうど人手不足で困っていたんですよ」
生徒会長は非常に柔らかな笑みを浮かべる。
「生徒会長の今の一言でこの会議の結論は決まったの。しかし、いきなり戦闘のカリキュラムを組んでも生徒はついてこないじゃろうから一度試験運用をしてみたいのだが、生徒会の面々に依存はあるか?」
ドクターに誰も意見をするものはいなかった。
「アキト、お前に一つ仕事を頼みたいのじゃが…」
「何ですかドクター?」
アキトが怪訝そうにドクターの顔を見ると、彼は悪いことを思いついた子供のようににんまりと微笑んだ。
今日も目覚めの良い朝だ。
う〜ん、とっても清々しい。
何ていったって朝日が昇ると同時に起きたからね。
何でそんな早くに起きたのか?
それは、やっぱりこの間のことが引っかかっているからに他ならない。今のところ、あの日以来目立った襲撃はないものの、やっぱり魔物の侵入を防ぐ結界が役に立たないというのは痛い。
いざというときに自分の身を守るので精一杯では何のためにここにいるのかわからない。それに家族を救うのはお金の力だけじゃないんだ。こういう力だって、きっと必要になる。特に父親のいない僕の家族にとっては……。
「おはよう、セシル」
何故か玄関を開けると立っている寮長さん。始業時間まではまだだいぶ時間があるはずだけど……。
「もしかして、また生徒会のお仕事ですか?」
それ以外にないだろう。しかし、その問いに寮長さんは首を小さく横に振った。
「ここで待っていれば君に会えると思ってね。最近、早朝特訓をやっているらしいじゃないか?」
やばいなぁ、ばれていたのか。寮の時間規制の中に朝の外出禁止については特にかかれていなかったから大丈夫だと思ったんだけどなぁ。
「今日もいつものメンバーと?」
うわぁ、そこまでばれていますか。
僕は直感で悟った。
これはもう全てを話すしかないと。そして、僕はあの日の翌日からずっとマリノちゃん達と早朝特訓を始めていることを話した。
「なるほど。でも、こういう仕事は…」
「わかっています。でも、生徒会の皆さんにいつも守ってもらえるだけではこの学校にいる意味がないじゃないですか?」
「!!」
「実力主義の学校なのに守ってもらってばかりなのはおかしいです。他の生徒達だって口には出して言わないですけど、そう思っている人だって少なくないと思います」
「……確かにセシルの言うとおりかもしれないな。でも、俺も含めて生徒会にはそういう風に思っていない人達のほうがまだ多い。彼らは彼らなりに自分の仕事を誇りに思っているからね」
寮長さんは顔からはわからないが、明らかに動揺していた。寮長さんもそれを悟られまいとするためか軽く会釈をすると、きびすを返して廊下の奥へと歩いていった。
「そうそう、言い忘れていた。セシル、今日の昼休みに君がいつも特訓をしているメンバーを連れてコロシアムへ行くように」
「え?」
「理由は俺も聞かされていないんでよくわからないが、とにかく行ってみてくれないか?」
「はぁ、わかりました」
僕のその一言に寮長さんは安堵の息を吐きながら優しく微笑んで今度こそ去っていった。一体なんだというのだろう。
とりあえず、このことは念話で伝えておかないといけないな。僕は今日の授業が移動教室ばかりなのをいいことに移動中に彼女らに念話をすることにした。マリノちゃんは怪しそうに、ノエルちゃんもかなり怪訝そうに、リプルちゃんは元気よく承諾してくれた。
「ふぅ…」
流石に三人に連続で念話をするのはしんどいな。あと数分で授業が始まるにもかかわらず僕は近くのベンチに座りこんでしまった。
「大丈夫か、不良少年?」
「え?」
重い首をゆっくりと上げてみると、フレッドさんだった。
「おはようございますフレッドさん。不良少年は酷いなぁ」
「不良少年じゃなきゃ、授業はさぼらないだろ?」
「今回は名誉の戦死ですよ」
僕が冗談交じりに口を尖らせて言うとフレッドさんは優しく笑った。
「名誉の戦死の理由はお前が息を切らしているのと関係があるようだな」
「ええ、三人連続で念話をしたんです」
「念話か。三人にしたのならもう魔法力は空っぽなんじゃねぇの?」
「残り微かってところですかね?」
僕の現在の体調から考えるとそんなところだ。飛び級をすると、それだけ魔法力と魔力を養う期間が減ることになるから最終的に一階級ずつ上がっていった人よりも劣るのだ。
「何でまた三人も話したんだよ?」
呆れたようにフレッドさんは両手を腰に当てた。どうしよう、一応フレッドさんにもはなしておくべきだろうか。コロシアムってことは何らかの形で実技の試験が行われると予想しておいたほうがいい。何で僕らにだけなのかは置いておくとして。
「へぇ、緊急でコロシアムにねぇ」
僕は結局フレッドさんに事のあらましを話してしまった。なんとなくだけど、これは僕らだけに関連するようなことではない気がする。寮長さんも半ば首を傾けながらだったし。
「もしかすると、この間のことについて何かわかったのかもしれません」
「何だって!?いや、しかしそれだからってお前達を呼ぶ理由にはならないだろう?」
「そうなんですけど、魔物が現れた日に最初に戦っていたのは僕らだったらしいです」
「なるほど、事情聴取ってやつか」
フレッドさんの言葉に僕は小さく頷く。
「だからもし空いているのならフレッドにも来てほしいんです。先生達も多分追い出しはしないはず」
「わかった」
フレッドさんは硬い表情で頷くと、また軽微の仕事に戻っていった。さて僕も授業に……。
キーンコーンカーン。
「………」
せっかく少し疲れが取れた矢先のチャイムだった。