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最終話〜歩むべき道〜

 僕達の試験は終わった。気がついたら保健室のベッドに皆寝かされていて、敗北が伝えられた。フレッドさんも僕達がセリカ先生の魔法でやられた後、すぐにグラッツ先生の斧を受けて気絶してしまったらしい。マリノちゃんが顔を真っ青にしていたが、鎧をつけていたため体に外傷はないようだ。

「よかった…。フレッドさんが酷い怪我だったらあたし…」

「心配させてすまなかったな。でも、俺はこの通り大丈夫だ。マリノ達は?」

「あたしは平気です。先生が手当てをしてくれてるし、もともとたいした怪我もなかったですから」

 あれだけの戦いだったというのに前衛も後衛も含めて皆、切り傷や打撲などの比較的軽い怪我だけで済んでいた。

「ところで、グラッツ先生って昔何か武術をたしなんでいたとかそういう話はないのか?」

「グラッツ先生にですか?聞いたことないですけど」

「あの人はもともとここの生徒だったらしいですよ。あんまり素行はよくなかったらしいです」

「ノエルちゃん、詳しいねぇ」

「他の先生が職員室で愚痴を言っているのをたまたま聞いちゃったの」

「なーるほど!」

「でも、どうしたんですか急に?」

「いや、魔法使いの学校って言うからには体力面にはあまり自信のない人が多いのかなと思っていたから、あんな手誰に出くわすと思ってなくって。それで興味が湧いてきただけだよ」

 フレッドさんは「全然かなわなかったけどな」と悔しそうに笑っていた。

「俺の完敗だったよ…」

 完敗……か。

 フレッドさんも言ってからしまったと思ったのだろう。言い終わってからハッと口に手を当てた。

「皆、ごめんね。僕のせいでこんな痛い目にあわせてしまって。僕が先生達にわがままを言ったから…」

「もぅ、それはいいんだよセシル君。私達は皆自分の意思でセシル君に協力したんだもの」

「そうそう。あんたは何でも気にしすぎなの。もっとドーンとしてなさいよ」

「でも、結果的に負けて…」

「あぁ、もう!それは言いっこなし!今回は負けちゃったけど次を頑張ればいいじゃない!」

「次なんてあるわけないだろ?あれはきっと僕に身の程を教えるために先生達が仕組んだんだと思う…」

「残念だけど、それは違うぜ」

 保健室への突然の来客に僕達は言葉を失った。

「傷の具合を見に来たのよ。でも流石ね、二時間寝ただけで完全に回復しているなんて」

「セリカ先生の手当てがよかったからですよ」

「そんな……。グラッツ先生も手伝ってくれたじゃないですか」

「じ、自分の手伝いなど手伝ったうちに入りません。全てはセリカ先生のお力です」

「グラッツ先生ったら、私をおだてても何も出ませんよぉ?」

 何だ、このボケボケカップルみたいなフリは。この人達、わざわざこんなコントを見せにやってきたというのだろうか。

「あ〜ゴホン。今回の試験はな、実は俺が考えたことなんだ」

「グラッツ先生が!?」

 その事実には正直かなり驚いた。てっきり、学年主任が僕への身の程をわからせるために仕組んだものだとばかり思っていたのだが。

「セシル、昨日の晩のことを俺は聞いてしまっていたんだよ」

「え?」

「お、怒らないでくれよ。偶然、聞いてしまっただけなんだ。就寝時間が過ぎているのに大声がしたから様子を見に行った時に…」

「いったい、どの辺りから聞いていたんですか?」

「多分マリノの話が出た辺り……だったと思う」

 グラッツ先生の返答にマリノちゃんが「あたし?」と自分を指差して怪訝そうな顔をしていた。

「事実上、魔法の世界では大魔導師クラスの次は賢者ということになっている。だが、飛び級をしながら一気に賢者になった者というのは数えるほどしかいない。それは魔法力を養う期間がどうしても他のものより短いからだ。どんな信念を持っているやつでもそれだけは拭えない壁だ」

「ダイゴ先生の仰っていたことも最もなのだけど、それだけが問題というわけではないの。魔法力を養う訓練というのは一番難しい……というより短期間で養う方法が今のところ見つかっていないのよ」

「そんな……。じゃあ、今の僕にはどうあがいても高等魔法は手に入れられないってことですか!?」

「まぁ、お前にとっては辛い結果だろうがそういうことだ」

「私が貴方達を倒した魔法。あれは高等魔法を縮小化して放ったものよ。通常、魔法は効力が及ぶ範囲を広げようとすると必然的に威力は極端に低下してしまう。攻撃魔法を何度も使ってきた貴方達ならわかると思う。あの範囲のあの威力を出すにはそれだけ大きな魔法力が必要になる。もちろん、それを操ろうとするならそれ以上にね。高等魔法は攻撃魔法だけじゃないから必ずしも全てに多大な魔法力がかかるわけではないけど、少なくともこればかりは経験と実力がものを言うわ」

「ダイゴ先生が話していた生徒会長の話だってそうだ。今の研究を始めるまで、あいつはあまり目立たない子だったんだぞ?その頃は生徒会にも入っていなかったしな。なぁセシル、金を稼いで幸せにしてやることだけが家族を守るってことじゃないだろ?物理的に守ってあげる力も必要だ。今のお前や、マリノ達は確かにファトシュレーンの中では強豪といえる部類だ。しかし、お前が目指しているのは学校で一番になる力なのか?そんな力がほしくて賢者になりたいのか?」

「……いいえ」

「どうせならこれを機会にもっと闘いへの道を究めてみたらどうだ?さっきセリカ先生の話で魔法力を高める方法のことがあげられたが、魔法協会で最も注視されているのは闘いによって魔法の経験を積んだ者のほうが魔法力の高まりが早いという事実なんだ」

「そうなんですか!?」

「闘いの裏には悲しみや怒りといった感情的なものがある。それらが魔法力を高めているのではないかとも言われているわ」

「まぁ、何にせよ今のお前に必要なのは魔法力向上のための訓練ということだ。そして、その訓練として一番適しているのが戦闘を繰り返すということになるだろう。幸い、ドクターエックスが最近また何やら企んでいそうだからな。近いうちにお前達にもまたお呼びがかかるんじゃないか?」

「えー!?」

 マリノちゃんが露骨に嫌そうな顔をする。

「何だ、マリノは戦いが嫌なのか?そんな素振りは見せたことなかったようだけど?」

「戦いは嫌じゃないけど、ドクターエックスにこき使われるっていうのが何だかなぁ」

「でも、それで強くなれるのだったらいくらでもやりますよ。賢者になるために、僕はもっと強くならなくちゃいけない」

「日々精進あるのみ……だな?」

「ギルバート…」

「ふん、勘違いするなよ。我輩はドクターエックスに付き合えば戦いで己を鍛えることができるというところに賛同しただけだ。貴様が賢者になるのを助けるわけではないぞ?」

「うん、それでも僕に付き合ってくれてありがとう」

「ふ、ふん!」

 ギルバートが珍しく顔を朱に染めている。じっと見つめていたら機嫌損ねてそっぽを向いちゃったけど。

「なぁセシル、俺も戦いに参加させてはくれないかな」

「フレッドさんも?」

「ああ。最近は事件のこともあって忙しかったけどやっぱり騎士の俺にとって闘いがないというのは体がなまってよくないしな。も、もちろん警備の仕事が空いている範囲内でだけどな」

 セリカ先生の視線に気づいたのかフレッドさんは慌てて言い繕った。

「フレッドさんがやるのならあたしもやる!」

 やっぱりマリノちゃんも乗っかってきた。ほんとフレッドさんに弱いんだからなぁ。でも、それでもすごくありがたかった。

「ノエルもリプルも参加するでしょ?」

 マリノちゃんはあたかも「参加しろ」と言わんばかりの目で二人を見ている。

「う、うん…」

「全然いいよ…」

 と言っている二人の顔はどう見ても自信がなさそうだ。

「二人とも、こんな僕の勝手な事情に無理をして付き合なわくてもいいんだよ?二人が戦いをあまり好んでいないことはよく知っているから」

「そ、そんなことないよ!ただ、あたし達セシル君の足手まといになるならいないほうがいいのかなと思って…」

「二人が足手まといなものか!今までだって何回も僕を救ってくれたじゃない。ノエルちゃんとリプルちゃんが支えてくれたから皆でここまでこられたんだよ。僕の仲間の中で足手まといなんて誰一人としていないよ。皆、大切な仲間なんだ!」

「セシル君、本当に私たちのことをそう思ってくれていたんだ…」

「もちろんだよ。これからもずっと、ね?」

「うん!」

「ありがとう!」

 こうして、僕は志を同じくした仲間(パーティ)を持ったのだ。




 その夜、僕達はパーティ結成を記念して祝賀パーティを開いた。途中からグラッツ先生やセリカ先生、寮長さんやラウナちゃんも入ってパーティは大いに賑わった。ギルバートなんか酒に飲んで百八十度キャラが変わっていたっけ。途中から脱ぎだしてもう大騒ぎだった。

「あ〜あ、もっとパーティやっていたかったなぁ…」

 宴が終わって、寮に帰る中マリノちゃんはずっと同じ言葉を繰り返していた。

「無理言わないの。明日も普通どおり授業があるんだから」

「ちぇ〜、つまんないの」

 マリノちゃんはぷぅっと頬を膨らませる。何だか、今日のマリノちゃんはちょっと可愛く見える気がする。

「ねぇ、セシル?」

「何、マリノちゃん?」

「これで、よかったの?」

「何が?」

「だから、あたし達とパーティなんか組んじゃって良かったのかって聞いてるの。その気になればセシルは大魔導師クラスの人達と、同じクラスの人達ともパーティを組めたわけじゃない?あそこで急いでパーティを決める必要なんて…」

「急いで決めてなんかいないよ。同じクラスの人達ともパーティを組もうなんて考えもしなかった」

「どうしてよ?実力は明らかにあたし達より上の人達ばかりなのに。ノエルやリプルじゃないけどさ、あんたの足手まといにはなりたくないんだ。あんたが賢者にならないといけない理由を知っているから…」

「もういいんだよ。理由を話したら母さん達もきっとわかってくれると思う。事件が起こってからずっと思っていたんだ。マリノちゃん達と街や誰かを守るために戦っていくたびに僕は君達のことも守ってあげないと、て考えるようになったんだ」

「セシル…」

「マリノちゃんや皆は僕の大切な人だから守ってあげたい、て」

「あんた馬鹿だよ。本当に、ほんとに大馬鹿だよ。でも……ホッとしちゃった」

「マリノちゃん…」

「遠い村から入学してきて、知っている人がいない中あんたと出会って、どっちが先に賢者になるかなんて言って競争してたよね」

「今でもそのことは覚えているよ。昇級試験のたびに僕のことを目の仇のように睨みつけてさ」

「あれはこれから勝負よ、て儀式だったの!ま、結果はこの通り惨敗だけどね」

「それはどうかな。僕が賢者になるのはまだまだ先の話になりそうだからマリノちゃんにもまだチャンスはいっぱいあるよ」

「へへ、そうだったね。まだわかんないよね。よ〜っしセシル、見てなさいよ!すぐにあんたに追いついてやるからね!」

「期待しないで待っておくよ」

「このぉ!」

 マリノちゃんがふざけて僕の背中を叩く。ちなみにグーで……。昔からいつも全力疾走の子なんだよなぁ。これじゃ本当にすぐ追いつかれてしまうかもしれない。

「ん?何か言った?」

「何にも言ってません」

 たまにはこうしてのんびりしていてもいいよね。

 いいよね、ミーナ。


                                 〈END〉


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