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第1話〜きらきらお星様、大事件つれて〜後編

 寮の外を出るや否や僕を歓迎してくれたのはまばゆいばかりの星空だった。ファトシュレーン魔法学校があるレアードの街は結構大きな街で、都市ともいえるくらいの規模だけど、星空はとっても綺麗なのだ。都市っていうとどうしてももっとごみごみしていて、夜でも星空の代わりに輝いているのは魔法で灯された人工の光だったりするイメージが強いけど、レアードはちっともそんなことはなかった。こんな日には学校だけを散歩するんじゃなくてレアードの街も歩きたくなるなぁ。

「そうだそうだ、そうしよう」

「わぁ!」

 暗がりから聞こえた明るい声に僕は思わず声をあげてしまった。

「馬鹿!しー!」

 向こうもこんなに驚くと思っていなかったのか、急いで僕の口に手を当てる。

「ま、マリノちゃん?」

 ようやく僕は口を押さえているのが彼女だということに気がついた。

「ノエルちゃんも。どうしたの、こんな時間に?」

「え、えと…」

「セシルこそこんな時間に何しているのよ。男子寮は見つかったらやばいんじゃないの?」

「そうなんだけど、なんだか散歩に出かけたくなって…」

「はぁ、何それ?」

「何それって、言われても…」

 僕は返答に困った。

「まぁ、いいや。散歩ならあたしらもついていってもいいよね?」

「え?」

「あ、連れて行かないならそれでもいいわよ。ただ、男子寮を管理している先生にあんたのことをチクリに行くからさ」

「マリノ、それを話しに男子寮まで行ったら私達が逆にこんな時間に出歩いているって事で怒られるんじゃないの?」

「あ…」

「………」

 僕らの間に冷たい風が吹いた気がした。

「と、とにかくあたしらも散歩に行くの!ノエルもいいでしょ?」

「う、うん。私は別にいいけど…」

 ノエルちゃんはそう言って僕のほうをチラリと見る。だが、僕としても断る理由は特になかったし、この二人といるのは好きだし――

「じゃあ、一緒に行こうか」

 この場合はしょうがないよね、うん。

 僕はマリノちゃんとノエルちゃんを連れての夜のレアードの街を散策しに出かける。

「この街ってさ、割合大きいほうだけど静まるのも早いよね。まだ夜更けには十分時間があるのに」

「でも、そのおかげで星が綺麗に見えるよ」

「そうだね。今日の星空は一層輝いている感じがするよ」

 僕達はベンチに座って少し星を眺めることにした。

「綺麗ねぇ」

「うん」

 マリノちゃんとノエルちゃんはうっとりとした表情で満天の星空を眺めている。こうしてみると二人とも女の子なんだなって感じがする。そりゃ、もともと女の子なのだから当然と言えば当然なのだけど、いつも一緒にいるとそういうことってついつい忘れてしまいがちになってしまうものだ。

「あ、流れ星!」

 ノエルちゃんが急にベンチから立ち上がって真上を指差した。

「どこどこ!?」

「え、え?」

 僕とマリノちゃんがノエルちゃんの指差すほうを見上げる頃には流れ星はすっかりどこかに消えてしまっていた。

「あちゃあ、見逃しちゃった」

 悔しそうにマリノちゃんは片手を頭に当てた。

「七色に光っていてすごく綺麗だったよ」

 唯一流れ星を見れたノエルちゃんが嬉しそうに語る。

「え、普通流れ星って白く輝いているんじゃなかったっけ?」

「あれ、そうだっけ?でも、私が見たのは七色に輝きながら流れていったよ」

「じゃあ、ノエルちゃんが見たのはきっと珍しい流れ星だったんだね」

「そうなのかな?」

 自分で言っておきながら首を傾げるノエルちゃん。やはり自分でも流れ星は白く輝くというイメージでもあったのだろうか。

 僕らがそんなまったりとした会話を交わしていた時だった。急に街の外が明るくフラッシュした。それはまるで先ほどノエルちゃんが見た流れ星の光のように七色に輝いていた。

「ひゃあ!?」

「きゃ!?」

「わぁ!?」

 あまりの光量に僕達は思わず目を硬く閉じた。まばゆい七色の光はしばらくの間レナードの街一帯を明るく照らすと、徐々に強さを失っていった。

「大丈夫、二人とも?」

「あんまり大丈夫じゃない、かも…」

「うぅ、目がチカチカするよ」

 二人はあまりの光量にまだ目を開けられずにいたが、外傷はないようである。いったい今のは何だったんだろう。何か嫌な予感がする……。

「きゃあああ!」

『!!!』

 ファトシュレーン魔法学校から上がった悲鳴。

「何、今の悲鳴!?」

「わからない。でも、学校のほうから確かに聞こえた」

 まさか今の光が……?わからない、わからないけど、とにかく今はいかなくちゃ!

 僕達は急いで学校に戻った。

 学校に戻ってきたが、特に変わった様子はないみたいだけど……。

「セシル、あれ!」

 マリノちゃんが指差したのはメインストリートの桜の木の奥だった。

「な、何だありゃあ…」

「どうして魔物が学校の中にいるの!?」

 レアードの街にはファトシュレーンの先生達が張った対魔物用防御結界が張ってあると聞いたことがある。しかし、現に目の前にいるあれらはどう見たって魔物だ。遠目からでよくは見えないけど、この辺りではあまり見ない種類のようだ。どうする、このまま先生達が来るまで待つか、それとも。いや、後者の選択はあまりに無謀すぎる。いかにファトシュレーンが実技主義の魔法学校だといっても高ランクのクラスにならない限り魔物を通した実戦は行われない。だからこの二人を巻き込むわけにはいかない。

「何ボサっとしてんのさセシル!助けに行くよ!」

「ま、待ってよ!マリノちゃん達のクラスではまだ実技は……」

「そんなの関係ない!今は、魔物に襲われているあの子を助けるのが先だよ!」

 確かに、魔物達は確実に彼らの中央にいる人との間合いを詰めている。このままじゃやられてしまうのはそう遅くない。それに、実戦をやったことのないマリノちゃんとノエルちゃんが戦線に立っているというのに僕だけ逃げるなんてかっこ悪い真似はできない。

「僕もやらなくちゃ!」

 護衛術の授業で習ったことを活かすため、僕のポケットには常にナイフが携帯されている。

「二人とも、僕が魔物達を引き付けるから後ろから攻撃用の魔法を撃って援護して!」

「は、はい!」

「わかったわ!」

 武器を持っていない二人を前線に出すわけにはいかない。なら、ここは僕が奴らの引き付け役になるんだ。

(幸い、母さん達の生活費をバイトして稼いでいるから忍耐力には自信がある)

「さぁこい、魔物共!」

 僕はポケットから取り出したナイフを構えながら頭の中で必死に護身術の授業内容を反復していた。幸い、魔物達は上手い具合に僕が引き付けた方向にやってきてくれたので後ろの二人も上手く魔法を使って順調に数を減らせてはいた。しかし――

「はぁはぁ……」

 僕の体力は早くも限界に近づいていた。実戦の授業も受けているとはいえ、慣れていないのと敵の数が多すぎるのは大きな誤算だった。それに敵もただやられるだけじゃない。時には僕や後ろの二人の隙を突く事だってあった。だけど、倒れるわけにはいかない。まだ、まだ先生達がこないから……。

「おいおい、そんな足取りでどうするんだ?」

「ぴギャア!!」

 声と共に魔物の悲鳴が上がった。顔を上げてみてみれば体の中央を見事に槍で刺されている。ということはあの人は――

「フレッドさん!!」

 叫んだのは僕ではなく後ろにいるマリノちゃんだった。フレッドさんは聖王都バレル騎士団の兵士の一人で、この学校の警備員として派遣されてきた人だ。ここだけの話だけどマリノちゃんは……と今はそんな時じゃない。とにかく強力な助っ人が来てくれたことに変わりはない。

「襲われていた女の子は無事に先生方が保護した。後はこいつらを倒すだけだ!」

 向こうでフレッドさんが叫ぶ。

 彼には見えないだろうが僕は小さく頷くと、ナイフを持ち直した。

 結局、戦いの後半はほとんどフレッドさんに任せるという形で終了した。はぁ、襲われていた女の子も助けられなかったし威勢よく飛び込んでいった割にはかっこ悪い結末だったなぁ……。

 魔物の処理をしている生徒会の人達の横で僕はがっくりとため息をついていた。

「何ため息なんかついているんだよ?」

 そう言って後ろから肩を叩いてきたのはフレッドさんだった。

「フレッドさん、お疲れ様です」

「まったくだぜ。何事かと思って警備室から来て見れば、いるはずのない魔物があんなに大量にいて、しかも戦っているのがお前らときたものだからさらに驚きだったぜ」

 でも、とフレッドさんはフッと口元を緩めた。

「サンキューな。お前らがある程度数を減らしてくれていたから俺も魔物達を全滅することができた。本当に助かったよ」

「いえ、それよりあの女の子は?」

「襲われていた女の子は今、マリノ達と一緒に保健室で手当てを受けているはずだぜ」

「そうですか、よかった」

「よくはないよ!」

 ヒステリックな声をあげたのは男子寮の寮長さんだった。実は生徒会の一員でもあるんだよなこの人。当然、お咎めが来るのは覚悟していた。

「どうしてあれだけの大群相手に三人で、しかも実戦訓練を受けていない二人を巻き込んで戦ったりしたんだ!結果は目に見えていただろう」

「…すみません」

「まったく、君達に何かあったら俺らの責任でもあるんだからね。先生達からもきつくお灸をすえてもらうことだ。フレッドさんもお疲れ様でした。では、作業があるので僕はこれで」

 寮長さんはまくし立てる勢いでそう言うと、形式的に頭を下げてさっさと現場に戻っていった。

「………」

「そんなにしょげるなって。今は事件の後処理でピリピリしているだけだ。お前達のしたことは認められることではないけれど、あの子を守れたことは変わることのない事実なんだ。もっと胸を張っとけ」

「……ありがとう、フレッドさん」

 僕はフレッドさんに励まさせながら、生徒会の人達が行っている戦闘の後処理をぼんやりと見ていた。結局、僕達のやったことは正しかったのかな。普通だったら正しいはずなのだから怒られるのはやっぱり釈然としなかったし、それなら何でもっと早く来てくれなかったんだろうとも思ってしまう。だからフレッドさんが来てくれた時は本当に泣きそうになった。これが本当の戦いなんだなぁ……。

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