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第9話〜大奮闘!高等魔法を奪え!〜後編

 放課後になり、僕はコロシアムの会場へと向かっていた。当然、コロシアム会場なのに話し合いで何かをすることはないだろうと判断し、戦闘の準備も万全に整えてきた。この間のように突然の不意打ちを喰らっても対応できるように。

「セシル!」

 後ろから声をかけられ振り向くと、いつもの面々が揃っていた。

「皆!」

「セシル君、いったいどういうことなの?何でまたコロシアムに?」

「それは僕にもわからない。ただ、僕にとって重大なことらしくて…」

「何なのだそれは?貴様、何かよからぬことをしたのではなかろうな?」

「まさか!それはいつも身近にいる皆のほうがよく知っているだろう」

『……確かに』

 全員が頷く。

「とにかくコロシアムに行こう。巻き込んでしまった埋め合わせは近いうちにちゃんとするから」

 と言ったものの、みんなの疑惑はやはり解けなかった。僕も被害者なのに何だかすっかり僕が悪いみたいな空気になっていた。

 コロシアムの円形闘技場に入ると、今回はちゃんと人がいた。

「グラッツ先生!」

「よぉセシル、来たな」

 グラッツ先生は気さくに片手を上げる。その横には大魔導師クラスの教師でもあるセリカ先生がいた。担当クラスが違うのにどうして一緒にいるんだろう?

「もうちょっと待ってくれよ。もう少ししたらドクターも戻ってくると思うからさ」

 やっぱり、今回のこともドクター絡みか。コロシアムに呼ばれた段階から予想していたから別段驚きはしないけどさ。

「グラッツ先生、もしかしてまたドクターエックスの実験のために呼び出したんですか?」

「半分はノエルが質問した答えに当てはまるな。だが、半分は違う」

『?』

 僕達全員が首を傾げていると、はるか上空から枯れた笑い声が聞こえてきた。そして、何かが落ちてくるような気味の悪い音……。

 ドズン!

 落ちてきたのは一体の巨大ロボット。そして、その頭の上にはドクターエックスとなぜかフレッドさん。

「グラッツ、遅くなってすまんのぉ。お望みどおり警備員も連れてきたぞ」

「ほ、本当に空から落ちたってのに生きている…」

 フレッドさんは半ば放心気味の表情でぶつぶつとそんなことをつぶやいている。

「ドクターエックス!」

「おぉ、セシルか。よぅ来たな」

「ドクター、僕達をまた実験のモニターにするつもりですか?」

「半分はその通りじゃよ。ただ、もう半分はお主の学年主任より説明があるじゃろう」

「え?」

 訳がわからない表情の僕に、ドクターエックスは観客席を静かに指差した。そこには担任の先生と、学年主任の先生が立っていた。

「セシル・マトレウスよ!これからお前が高等魔法を所持するにふさわしいかの試験を行う!今から行われる試合全てに仲間と共に勝利せよ!」

「な!?」

「そんな唐突な!」

「全ての試合に勝利すれば高等魔法を所有することを認める!異存はあるか?」

 もちろん大アリだ。確かに僕は早く賢者になりたくて高等魔術の取得を巡って何度も抗議をしたが、こんなやりかただとは聞いていない。

「どうして僕の友人まで巻き込むんですか!彼らには関係のない話じゃないですか!」

「このやり方が汚いと言うか?しかし、この機を逃せば高等魔法取得の機会はないかもしれないぞ?」

 くそ、脅しかよ…。

「セシル、受けちゃいなよ」

「マリノちゃん、何を言っているんだ。関係のない君達を巻き込んでまで僕――」

「関係ないなんて言うな!!」

 マリノちゃんの気迫に僕の両肩がびくっと上下に揺れる。

「どうして関係ないなんて言うのさ。あたし達は友達じゃないの?仲間じゃないの!?」

「え…?」

 気がつくと、マリノちゃんは泣いていた。どうして泣いているのかわからなかった。先生に対する僕の返答は間違っていたのだろうか。

「友達の一大事に力を貸しちゃいけないって言うの?」

「そ、そんなことは言っていないよ!ただ、僕は皆に迷惑をかけたくないから…」

「迷惑なんて誰が言ったのよ!だれも、迷惑だなんて言ってないじゃない」

「セシル君、私達も先生にあんなことを言われて驚いているけど、でも私はセシル君のためなら何だってしてあげたいと思っているよ」

「ノエルちゃん…」

「セシル君、一ヶ月前に魔物に襲われていた私を助けてくれたよね。私の迷惑をかばって助けてくれた。今度は私がセシル君の力になってあげる番だよ!」

「我輩、貴様には一つ借りがあったな。ならば、今それを返すという目的ならば少なくとも我輩には迷惑をかけたことになるまい?」

「ギルバートまで…」

「俺もいるぜ」

 いつの間にかロボットから降りてきていた。

「フレッドさん…」

「皆、お前の仲間だ。お前のためにならどんなことでもやってのける」

「仲間……」

「今、お前がやることは何だ?」

「僕がやるべきことは……」

「この戦いに勝ち抜けば家族が救えるんだろ?だったら迷うなよ。たとえお前が道を踏み外したって俺達全員が殴って止めてやる。だから、今は目の前の可能性に向かってしがみつけ。それがお前のやるべきことだ」

「セシルよ、決断は決まったか!?」

 僕のやるべきこと、それは故郷にいる家族を魔法で救うこと。そしてそのためには早く賢者にならないといけない。そのためには――

「ここで試験をクリアしなければいけない!」

 僕は観客席で立っている学年主任の先生を睨みつけた。

「受けます!どんな試験だって乗り越えて見せます!」

「よく言った!では、担任のロバート先生からルール発表をしてもらうのでよく聞いておくように!」

「セシル君、そして仲間の皆さん!これから皆さんには実戦テストという形で全三回、連続で戦ってもらいます。武器、防具の選択は自由!各戦闘間の体力回復期間は設けません。なお、最後の三戦目のみ敵の全撃破ではなくリーダーの撃破を勝利条件とします。リーダーを倒した時点で勝利です。では健闘を祈ります」

 ロバート先生が説明を終えたと同時にドクターエックスの指示でコロシアムに十数体のロボット達がそれぞれの場所に配置される。

「来たぞ、皆準備はいい?」

「ああ!」

「もちろん!」

「全然オッケーだよ!」

「愚問だな」

「マリノちゃん…」

「うるさいわね。あんたはあたし達のリーダーなんだからね。しっかりやんなさいよね!」

「う、うん!」

「では、試合開始!」

 ロバート先生の開始宣言を合図に僕達は向かってくるロボットの軍団の中に飛び込んだ。

「なっ!いきなり敵の陣中に飛び込むとは!」

「いや、よく見てみろ。ギルバートの銃撃で一度は固まった敵が四散している。各個撃破というわけか」

 僕達はまずギルバートの銃で固まってやってくるロボット達を分断させた。如何に防御が硬いロボット達でも僕の魔法とフレッドさんの槍を併用すれば簡単に倒せる相手だ。

「なるほど、ギルバートを敵の威嚇、扇動、そして後ろの女生徒達の壁として立てたか。しかし、わしが改良した機械達を全て倒すのにはそのくらいの作戦ではいささか問題があるのではないかのぉ」

 くそ、このロボットは素早いな。攻撃がまったく当たらない。

「あ…!」

「しまった!」

 なんて柔軟な機械なんだ。僕達の武器の合間をすりぬけるなんて。

「ギルバート!」

「ぬかりはないわ!」

 ギルバートには僕とフレッドさんの包囲網を抜けたロボット達への足止めを任せている。その間にマリノちゃん達の魔法が火を吹くわけだ。

「スパークダンサー!」

 リプルちゃんの雷魔法は面白い特徴を持っている。球状にした雷の魔法は対象に向かって飛んでいかずに地面を伝っていくのだ。

 バシン!

 見事、僕達の包囲網を抜けたロボットを捕らえた。しかし、威力が低すぎて致命傷を当たるには至らない。

「きゃう!」

「ぐぬぅ!!」

 ギルバートとマリノちゃんがロボットの放電攻撃を喰らい悲鳴をあげる。

「二人とも!」

「くるなセシル!作戦が狂うわ!」

「で、でも…」

「いいからお前はフレッド殿と前を守れ!ここは我輩が何とか食い止める!」

「くそ…」

 僕達が劣勢になった途端ロボット達の攻撃が激しくなる。このままじゃ一試合目からやられてしまう。

「早くも劣勢じゃな。いささか強い者を送りすぎたか?」

 つまらなさそうに試合を見守るドクターエックス。その横ではグラッツが真剣な表情で試合の行く末を見守っている。

(セシル、お前の力はそんな程度ではなかっただろう?)

 何とか突破口を切り開かないと。でも、これだけ素早いとアロー系魔法でも当たるかどうかが怪しい。闘技場全体を一度に攻撃できるものがベストだが、囲まれている今だとそれは難しい。となれば、僕の周囲の範囲だけでも消し飛ばせるような形に限定される。周囲を一度に吹き飛ばす、そう風のように!

「サンダーストーム!」

 竜巻のように渦状に回転しながら雷の嵐が僕の周囲に発生する。

渦に飲まれた機械達は雷にその体を砕かれてそのまま地面に落下した。

「うわわ、俺を巻き込むんじゃない!」

 フレッドさんを巻き込んでしまったのは予想外だったけど、これで僕の周りの機械達は一層できた。あとはギルバート達の応援だ。

「鋭く研ぎ澄まされた光の刃よ。ここに集え!シャインセーバー!」

 いいぞ、ギルバート達を攻撃することに夢中になっている今なら絶対に命中する。

「砕け散れ!」

「ふむ、背後を取るとはやりおったな」

 光の刃は機械達を数回斬り裂き、虚空へと去っていった。

「よくやった。一回戦は突破じゃ!続いて二戦目、開始!」

 観客席からドクターエックスが高らかに宣言する。コロシアムの入り口からいつから待機させてあったのか、魔獣の軍団が僕達に迫ってくる。

「ちょ、マジで休む間もくれないのぉ!」

「ぼやくなよマリノ!もう少しの辛抱だ」

「は、はい!」

 フレッドさんに激励され、何とかやる気を持ち直してくれたマリノちゃん。やっぱり好きな人の力は大きいなぁ。

「さぁ、次は魔獣の軍団じゃ!タイプはお前達が戦ってきたものと同じじゃが、大幅なパワーアップがされておる!どう切り抜ける!?」

「セシル、こいつらに打撃は効きにくいぞ!我が銃も牽制程度にしか使えない!」

「防御力も上がっているのか!?」

「牽制ができれば十分だ。近づいてきた奴は俺が引き受ける!」

「お願いします、フレッドさん!」

 打撃が効きにくいのならばとるべき手段は一つだけ。

「魔法できりきり舞いにさせてやるんだ!」

「任せて!」

 ノエルちゃんが唱えた氷柱の魔法が魔獣達の頭上を駆け抜ける。

「何度も戦ってずっと思っていたの。爬虫類なら寒さに弱いはずだって!」

 なるほど、今の今までそれには気がついていなかった。ずっと必死で戦ってきたからね。

「我が魔力により生まれし氷よ。我を守る殻となれ!ブリザードシェル!」

 マリノちゃんはなんと冷気を自分の体の回りにまとうことで魔獣達と距離をおくことに成功していた。加えて、彼女がナイフで攻撃を加えるときも周囲の冷気がナイフの攻撃力を引き上げる効果を生み出していた。

「こりゃいいや。皆もやってごらんよ!」

 ナイスアイディアだ。僕達魔術士が全員氷を身にまとうことによってかなり有利に戦えるようになった。この調子なら二戦目は楽に突破できる。

「そうくると思っておったわい!そのための対策もちゃんとこっちで練っておる」

 冷気を身にまとい楽勝が約束されていた二戦目だったが、それを覆したのが後ろから現れた赤色の魔獣。寒さをものともせずに僕達に体当たりを仕掛けてきた。さらには火を吹き、僕達の冷気を意図も簡単に消し去ってしまったではないか。

「氷のバリアが……きゃあ!?」

 呆気にとられているのも束の間、ノエルちゃん達が赤い魔物の襲撃を次々と受けていく。まずは体力の少ない者から戦闘不能にさせるつもりか?おまけに僕達が助けに向かおうとしても炎のブレスを吹かれ、こちらも足止めを喰らってしまう。

「あち、ち…!こいつら、集団でわらわらと火を吹きかけやがって…!」

 兵士であるフレッドさんは魔法に対する抵抗力が極端に薄いことをこの魔物達は知っているというのか。さすがドクターエックスが手がけた魔物達だ。頭の良さまで引き上げられている。

「感心している場合か!」

「痛いよう!早く助けてー!」

 くそ、このままじゃ手も足も出ない。奴らのブレス攻撃が続く限りこっちも炎に阻まれて動くことができない。

(今度こそ駄目か…)

 自分達の敗北を覚悟した時、同時に敵の炎攻撃も止まった。いったいどうしたというのだろう?それに、何だか動きが鈍くなってもきている。

「まさかこいつら、炎のブレスを吹き続けて体力がなくなったのか?」

 まさに運が呼んだ奇跡だった。炎を立て続けに吹き続けて僕らの邪魔をしていたがために力を消耗して歩くことすらおぼつかなくなってしまっている。

「よくも散々邪魔をしてくれたな」

 僕はここぞとばかりに体力を失った赤色の魔獣を剣で斬る。

「こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだよ!」

 最後は弱点の氷属性の攻撃魔法を放ち、魔獣の軍団を全滅させる。

「ハァハァ、何とか勝ったぞ…」

 僕達は既に全員ボロボロだった。もう立っているだけでも相当辛い。しかし、三戦目の相手は容赦なく空中から降ってくる。三戦目の相手は一戦目の機械達と二戦目の魔獣達がタッグを組んでくるのか。でも、弱点は知っているからたいした相手ではないはずだ。しかし、問題なのは三戦目で撃破すべきリーダーの存在。

「グラッツ先生!それにセリカ先生まで…」

「まさかあの二人がリーダーなの!?」

「そんなぁ、勝てっこないよぉ…」

「泣き言を口にするな!たとえ勝算がない相手でもやらねばこちらがやられるのだぞ!」

「ギルバートの言うとおりだ。安心しろ、ちゃんと手加減はしてやる」

 グラッツ先生はそう言ってギラリと光る斧を見せる。

「奴の得物は要注意だな」

「そうだな。あんな大斧を武器で受け止めようものなら一発で粉々になっちまう」

 フレッドさんの額から脂汗が滲み、頬を伝う。

「リプルちゃん、今のうちに皆の回復をお願い。皆、なるべく機械と魔獣は無視するんだ。グラッツ先生を倒せば全ては終わる!」

「かなりヘビーなお願いだけどやるっきゃないわね」

 マリノちゃんが乾いた笑みを浮かべる。

 ノエルちゃんも硬い表情で何とか頷いていた。やがてリプルちゃんがかけてくれた回復魔法がきき、僕達の体力は完全に近いところまで回復していた。

「流石に、全員を完全回復は……しんどいよぅ」

 体力は回復したが、リプルちゃんがついに立つ力を維持できなくなり座り込んでしまった。その時点で戦闘不能が確認され、リプルちゃんはタンカーに乗せられて救護室へと運ばれていった。彼女は最後まで僕に「ごめんね」とつぶやいていた。しかし、ごめんねと言わなければならないのは僕のほうだ。リプルちゃんのためにも、この試合に勝ってみせる。

「回復役のリプルがいなくなったのは正直辛いところだな…」

「確かに。慎重に行動せねば即お二人の餌食になってしまう…」

 あまりにレベルの違いすぎる相手を目の当たりにしているためか、皆の動きがかなり硬い。弱点がわかっているはずの相手にも必要以上に警戒してしまっている。これじゃ、回復してもらった体力をザコで使い果たしてしまう。

「最後の力を振り絞ってかけてもらった体力回復もあの動きでは無意味に終わってしまいそうですな」

 学年の主任はニヤニヤと笑いながら余裕の表情で戦局を眺めている。

「坊主、このまま終わってしまってよいのか?」

 このままで終わりたくない。皆のリーダーとして何とかメンバーの恐怖を取り除いてあげないと。

「はぁ!!」

 僕の気合を入れた一撃が人型ロボットの体を縦二つに両断する。

「何と言う奴だ。機械人形を一撃で!?」

「皆、ひるんじゃ駄目だ!戦場に立てば強い敵と対峙するときだってある!その度にそんなへっぴり腰では絶対に駄目なんだ!」

「セシル…」

「僕達が今までの闘いで得たものを思い出して!それをグラッツ先生にぶつけるんだ!」

 僕は剣を振り回して敵を撹乱しながらがむしゃらに叫んだ。皆、お願いだから最後まで諦めないで。

「セシル、わかったよ!」

 最初に戦列に参加してくれたのはフレッドさんだった。

「いつだってお前の目は前を見ていた。どんな局面でも決して退くことを考えなかった!」

 ドン!

 ギルバートの銃が魔獣の群れを分断させる。

「最初の印象はただの優男かと思っていたが、さすが我輩が認めた男だ。このギルバート、今はお前のためだけに全力の力を出そう!」

「ギルバート…」

 カッ!

 背中の後ろで強い魔力の流れを感じる。

「ノエル、行くよ!」

「うん!」

 これは、二人の協力魔法?

『雷の暴徒、その力を存分に見せつけよ!ギガブレイバー!』

 二人が放った稲妻の剣が真上から魔獣やロボット達に降り注ぐ。その凄まじい魔法は敵の核を全て一撃で貫くほどの威力だった。

「賢者への道はすぐそこだよ!」

「セシル君、手を伸ばして!」

「ああ!目指すはグラッツ先生だ!」

「おう!」

「心得た!」

 僕達は魔物達の屍を踏み越え、中央のグラッツ先生のところへと一気に突撃する。

「久しぶりだぜ。この感覚、この快感…」

 グラッツ先生がつぶやくながら微笑む。

「セシル、俺も全力でお前を潰しにかかるぜ!」

 ついに、戦闘が始まってから闘技場の中央で微動だにしなかったグラッツ先生が動いた。セリカ先生もバックステップで後ろに距離をとり、魔法詠唱を開始する。

「ギルバート、まずは足を狙おう!」

「おう!」

 僕があらかじめ唱えておいた雷の矢、それとギルバートの銃弾がグラッツ先生の足元目がけて飛んでいく。

「甘い!」

 グラッツ先生は急停止すると、斧を振りかざした。それにより魔法は風圧で消え去り、銃弾は斧によって二つに裂かれた。

「魔法がかき消された!?」

「あの速度の弾を見切っただと!?」

 どちらにせよ、常人のなせる業じゃない。

「いやぁー!!」

 ガキィン!

 フレッドさんの槍とグラッツ先生の斧が激突する。

「騎士の貴方とは一度刃を交えてみたかったんですよ」

「奇遇ですね。俺もグラッツさんと同じ事を考えていましたよ。事件処理の時の斧捌きはよほど鍛錬されたものと見える」

「フレッドさんの槍もこうやってじかに受けてみると……違いますね」

 グラッツ先生とフレッドさんは押し合いながら何かを話しているけど、いったい何を話しているんだろう。心なしか両者の間には笑みがこぼれている。

「呑気に試合を観戦していて大丈夫?」

『!!』

 しまった!

「ごめんねセシル君、貴方にはまだ高等魔術を教えるわけにはいかないのよ」

「僕が、皆とは違った目標を持っているからですか?」

 僕の問いにセリカ先生は答えず、代わりに雷の魔法が僕たち全員に降り注いだ。声にならない痛みが全身を襲う。これが、魔術教諭の資格を得た人達の真の実力なのか。まったく……歯が、立たなかった。




「セシル!!」

「戦闘中によそ見はいけないですよ、フレッドさん?」

(しまった!)

 フレッドが気づいたときにもう遅かった。グラッツの振り下ろした斧がフレッドの装備していたアーマーを軽々と引き裂いたのだ。

「フレッドさん、次は生徒達なしの一対一で勝負したいですね」

 倒れる間際にグラッツがそんなことを言っていたような気がした。しかし、フレッドにそれをはっきりと聞き取る力は残っていなかった。

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