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第9話〜大奮闘!高等魔法を奪え!〜前編

 気がつくと朝になっていた。

 僕はあの後、自分の部屋に戻ってきて泣いていて、気がついたら寝てしまっていたのか。

(かっこ悪いな僕…)

 わかってはいたんだ。クラスの皆が僕の友達が自分とは違う意味で素晴らしい目標を持って魔法の勉強をしていることに。だけど僕は……。

 いや、何を言っているんだ。家族のためにお金を稼ぐことの何が悪いんだ。今はアルバイトを二つしかやっていないから母さんと妹を養うには心もとなさすぎるけど、賢者になればきっとすぐに裕福にしてあげられるんだ。そうだ、僕はそのために頑張らないといけないんだ。ダイゴ先生に正論を言われたから熱くなって取り乱すなんて馬鹿馬鹿しい。相手が正論だろうとなんだろうと、僕は僕の決めた道を進まなくてはいけないんだ。こんなところでしおれている場合じゃない。

「さぁ、早朝特訓に出かけよう!皆、とっくに待っているだろうし」

 僕は急いで準備を済ませると寮を出た。

「おっそ〜い、セシル!」

「どうしたのセシル君。いつもは一番に来ているのに…」

「いやぁ、ちょっと寝過ごしただけだよ」

「アハハ、セシル君てば寝ぼすけさんだね」

 そういうリプルちゃんはまだ日が昇って間もないというのに元気だなぁ。やっぱり子供らしく夜がきたらすぐに寝ているのかな。

「ところでセシル、我輩は昨日の夜中にお前の怒声らしきものを聞いたのだが何かあったのか?」

 やばいなぁ、やっぱり下の階まで聞こえていたんだ…。

「何々?セシルがどしたの?」

 ノエルちゃん達と一緒に先に行っていたマリノちゃんがひょこっと首を出す。ほんとにこの人は隙がないなぁ。

「なんでもないよ。ギルバートも、聞き間違えたんじゃないのかい?僕は昨日ずっと部屋にいたよ。そもそも一日生徒会の仕事を請け負ってずっとベッドの中だったんだから」

「ふむ、それもそうだな。我輩も昨日のはだいぶこたえたからな。もはや叫ぶ力も残ってはいないのが普通だな」

 そうそう。簡単に信じてくれるところはギルバートも素敵なところだ。

 これ以上話題が進展しそうになくなったので僕はホッと胸をなでおろした。あんなところ誰にも知られたくない。

 早朝稽古を終えて、学校へ向かう。クラスのホームルームもいつもどおりのしょうもない諸連絡だけかと思いきや――

「セシル、少しいいか?」

 なぜか担任に呼ばれた。

(何かしたっけ僕?)

 何かしたことで怒られたり注意されたりするのなら昨日の生徒会の仕事のことぐらいだが。

「セシル、放課後にマリノ、ノエル、リプル、ギルバートの四名を連れてコロシアムに来るように」

「コロシアムですか。何でまた?」

「その理由は放課後にコロシアム会場で話します。今は黙って従ってほしい」

「……わかりました。皆にも連絡をしておきます」

「頼むよ。これは君にとって重大な話になるだろう」

 担任は真剣な顔でそう言うとふらついた足取りで去っていった。

(いったいなんだというのだろう?)

 僕の頭上にはたくさんのハテナが浮かんでいたが、自分にとって重大なことと言われればいかないわけにはいかない。

 流石に四人に念話をするのは体力的に問題があるので噂話が早いマリノちゃんに念話で伝えてもらうことにした。

『連絡はわかったけどさ、何であんたの重大な問題にあたし達が借り出されるのよ?』

「そんなの僕だって知りたいよ。でも、放課後に全て教えるとか言って何も話してくれなかったんだ」

『なぁんかきな臭いなぁ。いつかの時みたいにまたドクターエックスの実験台にされているんじゃないでしょうね?』

「可能性はあるね。でも、それだと僕にとって重大っていうことが意味をなさなくなるよ」

『あ、そっか』

「とにかく皆に伝えてほしいんだ。よろしく頼むよ」

『ちょ、セシル…!』

 僕は一方的に念話を切った。

 ごめん、マリノちゃん。だけど、理由がわからなくて混乱しているのはこっちも同じなんだよ。今はとにかく放課後を待つしかない。




 時間は数時間ほど遡る。

 早朝まで議論は行われていた。大魔導士クラスの教師達を説得するにあたって学年主任だけがなかなか首を縦に振らなかったからだ。

「万に一つ、いや、億に一つの可能性だが我々教師陣が彼らに負けたらどうするのだ。彼に高等魔法を教えねばならなくなるではないか!」

「何をそんなにお焦りなのですか。ただ単に彼らに勝てばいいだけのことじゃありませんか。それとも先生は彼らに勝つ自信がないとでも?」

「ぶ、侮辱は許さんぞ!だいたい貴様は学生の頃からろくでもない面倒ばかりを我々に押し付けおって!大人になって少しは大人しくなったかと思ったら――」

「面白そうじゃないか」

 ようやく起きてきたか。

 グラッツはホッとしながら彼が職員室に入ってくるのを待っていた。

「さすが、戦闘関連のこととなると頭の回転が速くなるのは変わっておらんのぉ」

「ドクター、それは俺を褒めてくれているのですか?それともけなしているのですか?」

グラッツの問いかけにドクターエックスは「どうとってくれてもかまわんよ」とひげを撫でながら答えた。

「新たな息子達が完成したので、それの作動具合も兼ねて存分にやってくれぃ」

「そうさせてもらうよ」

「ムギギィー!さっきから話を勝手に進めおって!まだ私はこの件について承認したわけではないぞ!」

「なんじゃい、ようは自信がないといっているのではないか。そんなにあの小僧共が怖いかのぉ?」

 ドクターエックスはまるで挑発するように長いあごひげで主任の頬を叩く。

「や、止めなさい!」

「いいや、止めん。お主がうんというまでは絶対に止めんー」

「わ、た……し、しかしですねドクター……ちょ、ちょっと……。わ、わかり、わかりましたから髭で叩くのは勘弁してください」

「わかればいいんじゃ。もう少し粘っていたら魔法で髭を強化するところじゃったぞ」

 ドクターエックスは満足げに笑いながら顎髭をさする。

「ドクターは確か、戦闘のトーナメントについて申請している最中なんだろ?なんなら、それの試験もかねてみたら?」

「グラッツ、お主はやはりわしの心の友じゃ。よぅ、わしの心を読みおるわ」

「へへ、昔から悪知恵だけは働くからね」

「しかし大魔導士クラスの先生方の中から誰を選抜するんです?」

 一人がそう言うとその場の教師全員がしんと静まり返る。

「候補がいないようでしたら、僭越ながら自分が出たいんですけど…」

 グラッツの申し出に他の教師が一斉にグラッツを睨みつける。ただ一人を除いて。

「やっぱりお主の魂胆はそれかい」

「タハハ、やっぱりドクターには見抜かれていたか。久しぶりに俺も自分の力を振るいたくてさ」

「主任、異存はあるか?」

「うぐぐ……。グラッツ、貴様本当に負けんのだろうな?彼らは今やだいぶ実力が上がってきている。羽目をはずせばお前とて…」

「それなら私がグラッツ先生のお守り役を買って出ましょうか?」

「セ、セリカ先生!」

「グラッツ先生は攻撃魔法、私は補助魔法に優れていますしちょうど良いコンビかと」

『確かに』と他の教師達も頷く。

「決まりじゃな。ちょうどよいコンビではないか。いろんな意味でな」

「ド、ドクター!!」

「グラッツ先生、今日は一つよろしくお願いしますね」

「は、はい!こちらこそセリカ先生には傷一つつけさせません!」

「うふふ、頼もしいですわ。それで時間はどうするのです?」

「放課後でどうじゃ?わしのほうでも色々と準備があるでな」

「わかりました。主任、勝手な振る舞いをして申し訳ありません」

「い、いやセリカ君が謝ることではない。と、とにかく担任のロバート先生はセシル・マトレウスにそのように伝えるようにお願いしますぞ」

「はい!」

 


 闘技場で時を待ちながらグラッツは今朝の会議のことを思い出していた。

(まさか、こんなにもうまくいくなんて思ってなかったぜ。それに…)

 グラッツは横目で自分の隣にいる女性を見た。

(セリカ先生と一緒の舞台に立てるなんて夢のようだ)

「どうかしましたか、グラッツ先生?」

「い、いえ何でも!」

(この声、たまらなく可愛いなぁ)

 グラッツがとろけるような顔をしていられたのも束の間、約束の時間通りに彼らはやってきた。

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