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第6話〜あの青空の下でもう一度〜後編

 まずは得意の雷系魔法をヤクザ達の足元に落として、相手の動きを止める。

「やるわね。基本がわかっているのね」

 女の人が言った基本。

 それは敵に囲まれたときはまず、片方の足止めから入れということだ。両側の一方を塞ぎ、残る一方に攻撃を集中して包囲網を破るのだ。

「そういうことでギルバート、君はこっち側の敵を…」

「フハハハ、久々の実戦である!我輩にひれ伏すがいい、腐れ外道共がぁ!!」

 ギルバートの乱射する銃が敵は愚かこっちまで巻き込みそうになる。しかも攻撃しているのは僕が指示したのと反対の方向だし。

 キィン!

「こっちの足止めは私が引き受けます!」

 そうだ、今回は刀を使えるラウナちゃんがいたんだ。

 彼女がいてくれるのは戦力的に大きいな。

 それに、大道芸人の二人もかなりの実力者だ。次々とヤクザ達を魔法でやっつけていく。

「フハハハ、死ねぇ!死ねぇ!!」

「マリノちゃん…」

「あ、アハハ。なんだかんだ言ってギルの奴ノッているみたいだからちょっと攻撃力アップの魔法を、ね?」

「ね、じゃないでしょ!こっちまで巻き添えを喰らいそうなんですけど!」

「半狂乱状態だなぁ、おい」

 クルツと呼ばれた男性芸人も流石に呆れている様子だ。

「でも、数は確実に減っている」

 確かに。

 あれだけいたヤクザ達は半分以上が既に戦闘不能だ。殺してはいないと思うけど、ヤクザの大半をギルバートが倒しているだけにその保証がない。

「うぎゃあ!!」

 ノエルちゃんが放った氷の魔法を受けて、最後のヤクザが地面に倒れた。

「く、くそ!この魔術士きどりがぁ!」

「きどりじゃなくて魔術士なんですけどぉ…」

 ノエルちゃんがおどおどした表情で鋭いツッコミを入れる。

「ぐぐぐ……」

「おいドーマ、いきがるのもいいが、この状況をどう切り抜けるつもりだ?」

 クルツさんが言ったとおり、僕とギルバートとラウナちゃんの三人はヤクザのボスを中心に円を描いている。

「ドーマ、お前の負けだ」

「少々この子達を侮りすぎたようね」

「く、くぅ〜!覚えてやがれ!」

 ヤクザのボスは武器を向けている僕達にきびすを返すと、何とも速いスピードで広場から去っていった。

「待て!」

「いいよ、追わなくても」

「え?でも…」

「あいつはいつもあの調子だから。俺達に因縁をつけては弱い下っ端を総動員してくるんだよ。ま、その度に俺とこいつで遊んでやっているんだがな」

 何て人だろう。

 追われている立場だというのに、愉快そうに笑っている場合か?

「まぁ、でも今回は君達の助けがあったおかげでスムーズに、最善の方法で奴らを退散させることができた。ありがとう」

「たいしたことじゃないですよ」

 マリノちゃんがヤクザの一人を軽く足蹴にしながらガッツポーズを作る。

「とりあえず遅くなっちまったけど自己紹介させてくれよ。俺はクルツ、見てのとおり大道芸人として諸国を渡り歩いているんだ」

「私はその相方をしているメリッサよ」

「メリッサは君たちが通っているファトシュレーンの卒業生なんだ。しかも首席で」

「えぇ!?しゅ、首席!?」

 僕もその言葉には相当驚いたが、一番驚いているのはノエルちゃんだった。

「クルツったら茶化さないでよ。それに首席と言っても別にずっとガリ勉していたわけじゃないよ。ただ、自分が探求しているものを追い求めるために毎日研究を続けてきただけだもの」

「それが大道芸の道だったんですか?」

「ううん、本当は違うんだけどね。その過程で大道芸と出会って、クルツとも出会ったわけ。それでずっと彼と二人で芸人をやっているの」

「ちなみに俺は元から大道芸人になるつもりだったけどな」

 クルツさんは微笑しながら言う。

「実はレアードに戻ってきたのも、謎の魔物が街に侵入したって言う噂を聞きつけてきたからなのよ」

「噂って、そんなに広まっているんですか?」

「まだそれほど遠くまで侵食しているわけじゃないが、いずれは聖王都バレルまで届くだろうな」

「でも、聖王都の調査隊の人達に調べてもらったほうがいいんじゃないかな。私達だけで手に負えることではないことはわかっていることだし」

「ノエルの言うとおりだけどさぁ、それはそれで少しつまらない気がするなぁ…」

「それに、生徒会の人達も先生方も負けず嫌いな人が多いですからそう簡単にはいかないと思います」

「何にせよ、敵の出方がわからない以上は僕達としても手の出しようがないんです。クルツさん、メリッサさん、何か情報があれば教えて欲しいのですけど」

「う〜む、俺達も噂を聞きつけて来ただけだからなぁ。メリッサは何か知っているか?」

「ごめんなさい。私もまだ噂で聞いた程度の情報しかないわ」

「そうですか…」

 何か情報がつかめればと思ったのだが、なかなかそうはいかないか。少しでも早く街の人達の不安を取り除いてあげたいんだけどな。

「でも、安心したよ。君達のような勇敢な子達がいてくれて」

「そうそう。一応は名の知れているドーマ達に一歩も引かずに向かっていくなんてたいしたものだぜ。これなら安心できるだろう」

「え?お二人とも一緒に戦ってはくれないんですか!?」

 予想外の反応だった。僕はてっきりこの二人もいっしょに戦ってくれるものばかりと思っていたのに。

「俺達にも仕事があるからな。メリッサもここに来てからずっと悩んでいたが…」

「君達みたいな人がいるならわざわざ私が出て行かなくても大丈夫だと思うよ。ただ、助けが必要なときはいつでも呼んで」

 メリッサさんはそう言うと、代表者として僕に念話コードを耳打ちして教えてくれた。わざわざ耳打ちしたのは盗聴防止のための阻止だ。無論、ここにいる皆には知られてもいいことなのだが、念話を扱うにあたって念話コードは必要以上の人に知らせてはいけない義務がある。

「それじゃ、ここでの日程も終了したし、俺達は明日朝一で発つことにするよ」

「残念だなぁ。もっとクルツさん達の芸を見たかったのになぁ…」

「気づいたのが遅すぎたものね。しょうがないよ、リプルちゃん」

「大丈夫さ。しばらくこの辺りを回ったらまたここに戻ってくるよ」

「ほんとに!?」

「ああ、君達は俺達の恩人だから一番前で見てもらえるように手配もするぜ」

「わぁーい、ありがとう!!」

「辛いこともあるかもしれないけど頑張ってね」

「はい。メリッサさんもお気をつけて」

 芸に使った小道具を片付け終わった二人はそのまま宿屋に向かっていった。

「待って!!」

 マリノちゃんが急に背中を見せて歩き出した二人を呼び止めた。

「あの、クルツさんとメリッサさんはヴィクターさんって人を知りませんか!」

「ヴィクターさん?その人は俺達と同じ…?」

「大道芸人の人です!あたし、その人に弟子入りしたくてファトシュレーン魔法学校に入ったんです!何でもいいんです!何か知りませんか!?」

「う〜む、同業者のことなら詳しいんだが、そんな名前の人は聞いたことがないな」

「クルツでも知らないとなると、相当無名な人かその逆ね…」

「マリノさん、その人はどんな特徴をしているんだ?」

「えっと、確か髪の色は銀髪で背もクルツさんくらいあったと思います。あたしが幼かった頃でもけっこうなおじさんだったんですけど…」

「年配の芸人か。わかった、調べてみよう」

「ありがとうございます!もし、その人に会ったら伝えてください!『貴方が十年前に会った女の子は今、ファトシュレーンに通っています』って」

「了解。それじゃ、その人のことがわかったときもメリッサを通してセシル君に伝えるよ」

 クルツさん達は今度こそ僕達に背中を向けて広場を去っていった。

 そういえば今、思い出したけどマリノちゃんはこの街に大道芸人が来るたびに今と同じ事を聞いて回っていた。よっぽど、その人のことが忘れられなかったんだろうな。

だって、マリノちゃんはその人を追いかけるためにここに入学したのだから。

「セシル、任務重大だからね!メリッサさんから連絡が入ったら、いの一番にあたしに連絡すること!約束だからね!」

「ああ、わかったよ」

 大丈夫、きっとその人は見つかるよ。

 マリノちゃんが、その人と同じ世界に立ち続ける限り。

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