第6話〜あの青空の下でもう一度〜中編
ファトシュレーンでの一日が終わり、僕は待ち合わせ場所の正門でみんなの到着を待った。
最初にやってきたのはリプルちゃんだ。よほど楽しみなのか、ポニーテールを揺らしながらスキップをしている。
「やっほー、セシル君!」
「やぁ。ご機嫌だね、リプルちゃん」
「そりゃあ、もう。すっごく楽しみだよ」
リプルちゃんはそう言ってぴょんぴょんと跳びはねる。その笑顔を見ているだけで僕まで楽しみになってきた。
次にやってきたのはマリノちゃんとラウナちゃんだ。
「やっほー、マリノちゃん、ラウナちゃん!」
「リプルちゃん、ご機嫌だね」
「そりゃそうだよ。これから大道芸を見に行くんだもん」
『ねー!』
マリノちゃんとリプルちゃんが声を揃えて「いえーい!」と手を合わせる。
最後に来たのがノエルちゃんとギルバートだ。
二人ともどうやら掃除当番に当たっていて遅くなったらしい。ギルバートは掃除当番に対しては文句を言っていなかったが「掃除当番のせいで見れなかったら掃除当番表を破壊する」とか言っていたけど、それって微妙に意味なくないか?
とにかくこれで全員揃ったので僕達はファトシュレーンを出てレナードの街の広場に向かって歩いた。
レナードの広場には既にたくさんの人だかりができていたが、芸はまだ始まっていないようだった
「ラッキー!なるべく前のほうで見ようよ」
「わぁ、待ってよマリノちゃん!」
リプルちゃんが後を追いかけようとするが、背丈の差からどうやっても前にいる人に阻まれて前に進めずにいた。
「まったく…」
「はわぁ!?」
それは僕にとってもリプルちゃんにとっても意外な行動だった。
あのギルバートがリプルちゃんを抱えて……。
(か、肩車!?)
今時、お兄ちゃんと懐く妹がいてもこんなシチュエーションは滅多にないというのに、何だこの微妙な空間は!
人だかりの中でがっちりとした極悪系顔の男に肩車された女の子。端から見たら誘拐犯にも見えそうなんですけど……。
しかし、ギルバートはそんなことはまったく気にせずぶっきらぼうに言った。
「これで見えるだろう?」
「う、うん。ありがとね、ギルちゃん」
「礼には及ばん。ほら、そろそろ始まるぞ」
ギルバートの言葉通り、すぐに芸が始まり、それまで騒がしかった広場が一気にしんと静まり返る。普通だったら、ここで団長みたいな人の挨拶とかあるんだけど、この人達にそういうものはない。
たった二人だからと言うのもあるのかもしれない。でも、すぐに芸に入ってお客さんを引き寄せられる力量があることから、素人の僕でも相当腕の立つ人達だとわかる。
最初の芸は氷の魔法を使ったミニオーロラだ。
僕自身オーロラというものを直接見たことはないんだけど、あの輝きはとても神秘的で思わず寒さも忘れてしまいたくなるくらいだった。そして、この芸もそれに負けていないくらいすごい。昼間の明るさだというのにこんなにもはっきりと幻想的な色使いができるなんて。氷の魔法を熟知していないとできないことだ。
操っているのは女の人だが、後ろの男の人が後ろで何かやっているのも気になる。次の芸は二人の立ち位置が入れ替わって男の人が前に出て芸をする。男の人が不思議な歌を歌いながら指を弾くと、シャボン玉が次々と僕達の頭上に現れた。中には小さな花まで入っている。シャボン玉が弾けると、花がゆっくりと僕達観客の頭上に落ちてくる。
「その花は今日の演目を見に来てくださった皆様への感謝の気持ちです。どうぞお受け取りください」
シャボン玉が綺麗なら男の人の声もまた綺麗だった。研ぎ澄まされたテノールに前のほうにいる女性客達はうっとりとした表情になっていることだろう。
僕達は時間を忘れ、彼らが交互に出す神秘的な業の数々にひたすら魅せられていた。しかし、それを覆すかのように突如聞こえた「見つけたぞー!」という野太い声。
彼らの持っている物に観客達は「ひぃ!」と短い悲鳴をあげる。声だけでは微動だにしていなかった芸人達も流石に芸をやめて、そちらのほうに向き直る。
「やれやれ、また追ってきたのか…」
男性がうんざりした表情で後ろ頭を掻く。
「うるせぇ!前に言ったはずだぜ!借りを返すまではどこまでも追いかけていくってなぁ!」
「勇ましいことだけどだいぶ息が荒れていてよ?」
「う、うるせぇ!とにかくここで借りを返させてもらうぜ!いくぞ、お前ら!」
『おぉー!』
まずい、あいつら街中で無差別に人を襲うつもりだ!
「奴を止めるぞ!」
最初に飛び出したのはギルバートだった。
「お客さん!?危ないですよ!」
「待ってクルツ!彼らの制服、ちょっと形が違うものもあるけど、ファトシュレーンのものよ!」
「何だって!ファトシュレーンの生徒か」
「その通りである!我輩以外の仲間達も向かっている!セシル!」
げ、何で僕の名前を呼ぶのかなぁ。まぁ、無視をして逃げるつもりなんてさらさらなかったけどね。
「おぉ、こりゃあすごい。頼もしい味方だぜ」
あのぉ、味方になった覚えはないんだけど……。
「細かいことはナシだよ!とにかくこの人達を助けよう!」
「そうですとも!街の安全を守る事だってファトシュレーンの生徒として成すべきことです!」
ラウナちゃんも刀を抜いてすっかり臨戦態勢に入っている。
「なんだぁお前ら!ガキのくせして大人の世界に首を挟むつもりかぁ?」
「子供だからって甘く見ないでよね!せっかくの時間を台無しにしてくれちゃって!本気で怒ったんだからね!」
「へ、子供が怖くてヤクザがやってられるか!かまうことはねぇ!こいつらもまとめて叩き潰せ!」
『おぉー!!』
ヤクザ達はやる気満々だな。でも、魔法を使える僕達がヤクザを恐れる理由はどこにもない。
「皆、大事にならないようにさっさとかたをつけるよ!」
僕は広く散開する仲間達に向かってそう叫ぶと、自分も魔法の詠唱を開始した。