第6話〜あの青空の下でもう一度〜前編
ファトシュレーンの昼下がり、僕はいつものようにマリノちゃん達と学食で食事を取っていた。たまたま生徒会の仕事から解放されていたラウナちゃんとも合流していっそう賑わった時間を過ごした。
「あ、ねぇねぇ知ってる?ニ、三日前にこの街にきた大道芸人の人達のこと」
マリノちゃんが言っているのはおそらく、二日前に街の広場で魔法を使った芸をやっていた人達のことだろう。
たまたま、その日は教会のバイトで勉強が終わった後に見に行こうとせがまれていたんだ。
「だいどーげー……てなぁに?」
「魔法を使って道行く人達にいろんな芸をして楽しませる人達のことだよ。リプルちゃんにわかりやすくいえば手品士みたいなものかしら」
「わぁ、手品!?」
ノエルちゃんの説明に、リプルちゃんの目がパァっと輝く。
「マリノちゃん、それって今もやっているの?」
「多分やってると思うよ。学校が終わったら皆で見に行こうよ」
「面白そうですね。私も手品を見るのは初めてですし」
ラウナちゃんも興味深深に頷く。
「セシルも予定はないでしょ?付きあいなさい」
「マリノちゃん、僕にも拒否権ってものを作ってよ…」
「作ったらあんた、ずっと部屋で勉強しているって言うでしょ?だから却下!」
く、さすが入学以来の友達だ。僕の性格を正確に把握している。ちなみに駄洒落ではないことを付け加えておこう。
「わーい、手品て〜じな〜。楽しみだなぁ」
リプルちゃんが手放しで喜んでいる。 一度見てはいるんだけど、大道芸はその日によってやる題目が変わっていたりすることもある。それに、あの人達の大道芸はもう一度見ておきたいと思っていたしね。
手品はやる人達によっても様々だけど、基本的には魔法を使って人々をあっと驚かせるものが多い。
一般的でかつ絶対に飽きることがないのが火の魔法を空中で爆発させて、色んな色を作り出す花火。様々な色や形で作られる花火は見ている者の心を沸き立たせるし、一度見たら絶対に忘れることはないほど印象に残る。
レアードの街に来た大道芸人達もそんな感じかと思っていた。しかし、僕が孤児院の子供達と見たのは心が沸き立つというよりもむしろ、逆に心を落ち着かせてくれる感じの芸だった。昼の中ほどから夕方近くまでその日はやっていたけど、人だかりが増えることはあっても減ることはなかった。街中が、あの大道芸人の人達に魅せられていた。
「おぉ、セシルではないか!いいいところで出会った!」
「ギルバート!えらくご機嫌だね」
「ハッハッハ、実は戦闘訓練で我輩の使った魔法が仲間の命を救ってな」
「へぇ、それはすごいじゃないか。大進歩だね」
「うむ。仲間の連中とはまだ、あまり馴染めていないのだが、助けたそいつとは少し仲良くなれた気がして嬉しいのだ」
「そういうところから友情っていうのは始まると思うよ」
「そうだろうそうだろう。これで奴には一つ貸しができたというわけだ。ハッハッハ、今度は何を奢ってもらうかな!」
ギルバートはそう言って勝ち誇ったように笑っている。
う〜ん、ギルバートがあまり馴染めていない理由は彼自身の性格というよりもそういう戦闘での貸し借りがどうのとかいう問題ではないのだろうか。毎回助けられるたびに奢らされては相手もたまらないだろうし。
もしかしなくてもまだ前にいた学校の癖が取れていないのかもしれない。とすると、近いうちにまた一悶着起きそうな気がする。
はぁ、それは勘弁して欲しい。
「ところでセシル…」
「何?」
「最近、街を巡回しているとなにやら人だかりができる時間帯があるようだが何かあったのか?」
「あぁ、それはきっと広場の人だかりのことだね」
「その通りだ。あれはいったい何なんだ。歓声が沸いたと思ったら途端に静かになる時もあるのだ」
「レア―ドでは今、大道芸人が訪れているんだよ」
「大道芸人?」
ギルバートは聞きなれない言葉に怪訝な顔をする。
「魔法を使って芸をしながら世界を渡り歩いている冒険者のことさ。旅先で芸を見せて路銀を稼ぐんだよ」
「芸というと、筋肉を見せ合ったりするあれか?」
ギルバートの目がギラリと輝く。何だか知らないけどあわよくば参戦しようとしているな。誤解をされる前に言っておこう。
「そんなんじゃないよ。魔法を使うって言っただろ」
「ぬ、そうか…」
ギルバートは残念そうに肩を下ろす。
そんなにがっかりするほどのものでもなかろうに。
「まぁ、百聞は一見にしかずというしギルバートもよかったら僕達と一緒に行かないか?」
「ふむ、興味があるし行ってみるとするか。魔法世界の芸とやらを見るのも大事な任務の一貫であるからな」
「じゃあ決まり。就業時間になったら学校の正門の前で待ち合わせだから」
「了解した!」
ギルバートは僕に向かって敬礼をすると、廊下を去っていった。さて、僕も次の授業に行かないと。