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第5話〜迷惑上等!ギルバート奮闘記!〜後編

「行くぞセシル!」

 臨戦態勢に入ったギルバートが銃を構える。

今回の闘いで自分の武器が使えるのはファトシュレーンの生徒ではないフレッドさんだけ。彼になるべく壁として動いてもらうのがいい策だろう。ギルバートに魔法の強さというものを教えてやるんだ!

「俺が前に出る。マリノ、補助を頼むぞ!」

「は、はいフレッドさん!」

 マリノちゃん、フレッドさんの前だと本当に態度が変わるなぁ。

 それが戦闘に影響しなければいいけど。

 そんな心配をよそに、僕は素早く魔法を詠唱して力の言葉を紡ぐ。

「ライトニングアロー!」

 鋭い矢の形をした雷がギルバートの銃を狙う。

 まずは相手の得物を落とす作戦だ。しかし、魔物が邪魔をして思う通りには当たらない。それに中途半端な威力だと魔物を怒らせてしまい、かえってこっちの戦況が不利になった。その度にフレッドさんが槍を使えてよかったと思う。

「ハハハ、セシルよ!大口を叩いた割には防戦一方ではないか!」

 ギルバートの周りにはまだまだ魔物がいる。

 くそ、何とかして魔物を避けて相手の銃を狙わないと。長期戦になって体力が奪われたところを銃で狙い撃ちなんかされたらたまったものじゃない!

 ギルバートの銃の腕はピカイチで、ほとんどはずれることがない。一瞬の油断が命取りになる。

「セシル、ビビるな!魔法でしとめられなくても俺が何とかする!俺を信じろ!」

「フレッドさん……わかった!」

 こうなったら駄目でもともと!僕の魔法力が尽きるまでギルバートの銃を狙う!僕は力の続く限りアロー系の魔法を唱えた。矢の形をしているほうが発動が早く、素早い相手を捕らえるのにはうってつけだからだ。途中からリプルちゃんも参加してくれ、確率は一気に上がる。下手な鉄砲でも数を撃てば――

「当たるんだー!」

 僕の最後の一発がギルバートの銃めがけて飛んでいく。幸運なことに魔物との間を縫ってギルバートとの距離を縮めたフレッドさんが盛んにアタックを仕掛けてくれていた。今ならすぐには魔法に注意が向かないはずだ。そして、僕の放った魔法の矢は見事に銃を持つギルバートの手に命中。カシャンという音を立てて銃が地面に落ちた。

「そこまでじゃ!」

 ドクターエックスが観客席から審判を下す。

「この勝負はセシル達の勝ちじゃ!」

 その瞬間、観客席や闘技場の隅で試合を見ていた初級クラスの生徒達が大歓声を上げた。

「ハァハァ、何とか勝った…」

 思いも寄らぬダメージを受け、さらに魔法力を使い果たした僕はその場に膝をついた。

「セシル君、大丈夫!?」

 リプルちゃんが慌てて僕のほうに駆け寄ってくる。

「あまり大丈夫……じゃないかな。魔法力を使いきっちゃうなんて久しぶり……だったから…なぁ」

 僕の体は気がついたら宙を舞っていた。地面と空が逆さに映っていて、少し気持ち悪い。僕の視界はそのままゆっくりとフェードアウトしていった。




 


 気がつくと、僕はベッドに寝かされていた。

 明らかに自室のものとは違って作りが簡素なため非常に寝にくい。ということでここが保険室だということがわかった。ベッド横の窓からは心地よい風が吹いている。

「気がついたぁ!」

 リプルちゃんが僕の顔を覗き込んで嬉しそうに笑った。

「みんなぁ、セシル君が起きたよ」

 彼女のその一言で保健室が急に騒がしくなる。どうやら皆、最初からカーテンの向こうにいたみたいだな。

「おはようございます…」

 僕がおどけて言うとマリノちゃんが僕の肩に腕を回して軽く締め付けた。

「何がおはようございますだ。まったくあんたって奴は〜」

「いたたた。マリノちゃん、それ以上締めると首が折れる〜!お〜れ〜る〜!!」

「やかましい!散々皆を心配させた罰だぁ!」

 マリノちゃんはそう言うと僕の首を今よりもっと強く絞めてくる。

「セシル君、本当によかった。私、死んじゃったかと思って…」

 ノエルちゃんは泣きそうな顔になっている。

「ノエルちゃん、皆も心配かけてごめん。久しぶりに魔法力を使いすぎたものだからちょっと体が持たなかっただけ。もう大丈夫だよ」

 そういえば、僕が魔法力を使い果たした原因になったギルバートはどこにいるのだろう。保健室に姿は見えないようだけど……。

「あんたを気絶させた張本人ならきっと保健室の外にいるんじゃない?」

「うん、ずっと保健室の前で座り込んで『何てことをしてしまったんだ…』てつぶやいてた。きっとセシル君が死んじゃったって思っていると思うから早めにギルちゃんを安心させてあげて」

「融通利かずの堅物のくせしてそういうとこは妙にナイーブだよね。これじゃ怒る気もなれないよ」

 そう言うマリノちゃんの表情が少し残念そうに見えるのは気のせいだろうか。まぁいいや。ギルバートは外にいるのだったら少し話をしてこよう。僕は皆に一言断りを入れて保健室の外に出た。

 リプルちゃんが言っていた通りギルバートは保健室の扉の横で三角座りをしながら何やらぶつぶつと独り言をつぶやいている。

「ギルバート?」

「あぁ、我輩は何てことをしてしまったんだ。我輩が年甲斐も無くわがままなど言わずに訓練に参加していればこんなことには…」

「ギ〜ルバ〜ト〜?」

「セシルよ、我輩は、我輩は貴様にどう償えばいいというのだ!」

「う〜ん、じゃあさっきの戦闘の勝敗条件にプラスアルファーで学食一ヶ月間君のおごりでどう?」

「何を言うのだセシル。貴様はもう死んだのだ。死人が食事などできるわけ……うおおおおお!?」

 廊下中にギルバートの野太い叫び声がこだまして、辺りの教職員を中心に視線がこちらに集まる。

「セ、セシル!?貴様、死んだはずでは…?」

「あの程度で死ぬわけないでしょ。魔法力が空になって気を失っただけだよ」

「な、な、な……。で、では貴様は最初から死んでなぞいなかったのか!?」

「そういうこと」

「……き〜さ〜ま〜。よくもこの我輩を騙したなぁ!」

「別に騙してなんかいないってば。君が勝手に勘違いしただけだもの。それより、さっきの約束は有効だよね。僕に償ってくれるんだろ?」

「そんなものは無効だ!我輩は気分を害したので今日はもう帰る!」

 ギルバートは頭から蒸気をたてながら保健室を去っていこうとしてふと足を止めると、不服そうにこうつぶやいた。

「今日の闘いは見事だった。貴様のおかげでチームというものを再認識することができた。約束どおり、これからは実戦訓練もこの学校の方針通りに受けることにしよう。文句はないな!さらばだ!」

 まくしたてるように言うだけ言うと、ギルバートは今度こそ僕に背を向けて去っていった。もう一波乱起きるかと思ったけど、その心配はないみたいだな。ただ、ギルバートがすぐにファトシュレーンの考えを受け入れるとは到底思えないが。でも、これで一件落着かな。

「仲直りできてよかったね」

 気がつくと後ろにリプルちゃんがいた。

「うん、これで少しでもギルバートがクラスに馴染めるといいなぁ」

「だいじょーぶだよ。セシル君が体を張って説得したんだもん!きっと陰で努力すると思うよ。ギルちゃん、頑固だからなかなか上手くいかないかもしれないけど」

「違いないね。じゃなきゃ、保健室の前で三角座りなんかしないよなぁ」

「そうそう」

 僕とリプルちゃんはおかしくなって笑ってしまった。

 ギルバートがいたらどんな反応をしただろうなぁ。


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