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第1話〜きらきらお星様、大事件つれて〜前編

「君は、本当にこの魔法学校を辞めるというのか?」

「はい…」

 一応悲しみを惜しむような目で、しかし顔でははっきりと辞める意思を目の前の大人達に伝えた。

「どうして急に辞めるなどというのかね!まだ新しいクラスに配属してから一ヶ月しか経っていないではないか。君は飛び級をするほど要領もいいし、実績もある。このまま突き詰めていけば賢者も夢ではないというのに」

「その賢者になるには一般に言う高等魔法の習得が必須……ですよね?」

 僕の一言に僕の担任がうぐっと言葉を詰まらせる。

「本来なら五年は掛かると言われている大魔導師級に入ったのに一向に高等魔法の習得ができないのはどういうことなんですか?」

「………」

「…僕があのクラスに行くのはまだ若すぎるから、でしょう?」

 僕の言葉に担任を含めたその場の先生たちは何も言わない。いや、何も言えないのだ。だって、その通りなんだから。

「僕が大人になるまで高等魔術を覚えるのを待つ時間がないことは何度もお話したとおりです。少しでも賢者になるのを遅らせるわけにはいかないんです」

「そう言うがねセシル君。高等魔術の習得は思いのほか強い魔力と精神力がないといかん。そのための力量上げを本来ならここに上がってくるまでの約五年で養うものなんだ。それなしに高等魔術の習得をするのは自殺行為なのだ」

「しかし、そういう事例は聞いたことありませんけど?」

「私があると言ったらあるのだ!」

 ついに僕に散々能書きを垂れた年配の先生が叫んだ。ついに本性を表したな。最近、ほぼ毎日学校を辞める交渉をしに職員室を訪れているせいか、どのタイミングで先生が叫びだすのかも大体わかってきた。

今日はこれで潮時だろう。一応、僕が在籍している階級の主任である人を怒らせちゃったんだ。

 職員室を出る直前、クラス担任が僕に「もう少し良く考えてみてくれないか」とまるで土下座でもしているかのような腰の低さで言う。僕はそれを適当にあしらい、職員室を出る。

「ふぅ…」

 学校から寮に戻った僕はそのままベッドの上にダイブした。ほんと、先生達とこういう話をするのは気が重くて嫌だな。僕だって本当ならあんなことは言いたくない。飛び級なんかしないでもっとゆっくりこの学校で魔法を学んでいたい。いや、そもそもそんなゆとりがあったのなら僕は今頃ここにはいないだろう。

 僕がこの学校に入学したのは十三歳の時だった。僕には、とある理由で仕事をなくしてそのまま消息不明になってしまった父親がいた。家族を破滅に追い込んだ張本人にして、僕がファトシュレーン魔法学校に入ることになったきっかけ。そう、僕は本来家族を養う父親の代わりにお金を稼ぐために賢者になろうとしているわけである。

 僕は一刻も早く魔法使いの世界では最上級であるといわれている賢者に上り詰めなければならない。そして、早くお金をたくさん儲けないといけないんだ。昔以上の大金持ちになろうとは思わない。ただ、あの頃の家族の輝きを、また母さんと妹が笑って暮らせる家族に戻したいだけなんだ。

 コツン。

 窓に何か小さなものが当たった。おそらく小石か何かだろう。そして、大抵僕の部屋の窓に小石を投げてくる人物といえば――

「おーい、セシルゥー!いるんでしょー!?」

(やっぱり……)

僕は小さなため息をついた。もちろん、このまま無視をする選択だってあるわけだけど、このまま無視を続けるのは居心地が悪いからついつい窓から見下ろしてしまうのだ。

「おー、いたいた。先生の言ってたとおりだね」

 窓の下には茶髪の女の子が二人。一人は活動的なイメージを感じさせるショートヘアで、もう一人はどちらかというと大人しめなイメージが伺える編み込みをいれたロングヘアだ。

「こんにちは二人とも。あんまり男子寮にいると危ないよ?」

 僕がそう言っているのに、ショートヘアの娘は「だいじょーぶだって」と明るく笑い飛ばすだけだった。まったく、いつもこうなんだから。

「ちょっと待ってて、今行くから」

 僕は少し曲がっていた髪型を簡単に直して寮の階段を降りて外に出た。

「お待たせ」

「ごめんねセシル君。お邪魔じゃなかったかな?」

 ロングヘアーの女の子がおどおどとした表情で聞く。

「いいや、特に何かしていたわけじゃなかったから」

「ほぅらね、ノエル。あたしの言ったとおりでしょ?」

 ノエルちゃんへの返答に「ほれみたか」と言わんばかりに胸を張るノエルちゃんの隣にいるショートヘア……。

「どうせ退学が認められなくて部屋の隅で三角座りをしてうずくまっていただけなんだから」

 う、鋭いな……。

「もう、マリノったら言いすぎだよ」

 ノエルちゃんは少し怒ったような口調でマリノちゃんに言うが、あまり怒ったように見えないため全然怖くない。

「いいんだって。今日も駄目だったらしいじゃない?」

「……グラッツ先生に聞いたの?」

 まぁね、とマリノちゃんは頷く。グラッツ先生というのはここ、ファトシュターン魔法学校の新任教師で僕の元担任で今はマリノちゃんとノエルちゃんのクラスを受け持っている先生だ。まだ二十五歳という若さのためか、とても生徒想いの先生でどんなに小さな相談でも親身になって聞いてくれる先生というよりはちょっとしたお兄さんみたいな感じの人なのだ。一見すると優男に見られがちなんだけど、ファトシュターンを首席卒業していて魔導師界でも若手ルーキーなのだ。

「セシル君、どうしてもファトシュレーンを辞めちゃうの?」

 ノエルちゃんが寂しそうな顔でつぶやく。

「うん、ここにいてもすぐに賢者になれそうもないしね。僕が賢者になる理由は二人とも知っているでしょ?」

 僕の言葉に二人の女の子は顔を曇らせる。

「でもさセシル、あたし色々情報を調べてみたんだけど過去に賢者になった人達がお金持ちになったっていう事例はなかったよ?」

「私もグラッツ先生に聞いてみたけど、魔法使いっていうのは人のためにあるものでお金儲けのための存在じゃないって…」

「だけど、魔法使いの中にはお金を儲けている人もいるじゃない?」

「それはきっと外道魔術師のことじゃないか?」

 建物の角から新たな人影がひょっこりと顔を出した。

「あ……」

「げっ」

 その人物の顔を見るや否やマリノちゃんとノエルちゃんの表情がこわばる。

「寮長さん…」

「女の子の声が聞こえたのでおかしいなと思って様子を見に来たんだよ」

「す、すみません。すぐに出て行きますので」

 ノエルちゃんが慌てて頭を下げる。

「ああ、そうしたほうがいい。生活指導の先生に見つかると大変だからな。まぁ、学校ではできない会話だろうけどさ」

「………」

 マリノちゃんとノエルちゃんは寮長さんに小さく頭を下げると、僕にも一言別れの挨拶を述べて茂みの中に去っていった。

「すみません寮長さん…」

 一応僕も謝っておくことにした。理由はどうあれ、何の警戒もせずに話していた僕も悪い。

「あの娘達、いつも君の事を気にかけてきてくれている女の子達だよね」

「はい。一人は僕と同期の女の子でその時からずっとライバルなんです」

「そうなんだ。そりゃあ、君のこともよく知っているはずだよなぁ」

 寮長さんは羨ましげにつぶやいた。

「ところで、セシルは本当にここを辞めるのか?」

「…いつから知っていたんですか?」

「ずっと前、さっきと同じように君達が話しているのを聞いちゃったんだ。その時からかな」

 なんだ、そんなところから既に知られていたのか。じゃあ、取り立てて隠す必要はないかな。

「僕は家族を養わないといけないんです。うちには父親がいないので僕がお金を稼がないといけないから」

「だから賢者になろうとしていたわけか。しかし、さっきも茶髪の女の子達が言っていたように賢者になってお金儲けをした魔術師はこの学校からは出ていないよ」

「それでもお金を儲けられることは事実なんでしょ?だったら僕は賢者にならないといけない。たとえ魔術師界に汚名を着せることになっても家族が笑って暮らせるのならそれでいいんです」

 僕の言葉に寮長さんはすっかり黙り込んでしまった。このままでは気まずいので僕は話題を変えることにした。

「そういえば、さっき外道魔術師って言っていましたけど?」

「ああ、外道魔術師っていうのは言ってみれば人のために働くことを捨てた魔術師達の総称さ。その名の通り魔術師界の道から外れた奴らのことだね。治癒の魔法を使って人を助けるのに法外な値段を提示したりね」

「ひどいですね…」

「他にも禁忌や禁呪法にも手を出している者もいるらしい。魔術師協会も逮捕するのに苦労しているらしいよ」

「………」

「家族を救ってあげることも大事かもしれないけど、俺としては君がそういう外れた道に行ってしまうのは止めなきゃいけないって思う。寮長としてではなく、同じ魔法使いの一員として」

「!!」

 僕は瞬間的に寮長さんが何を言っているのかわかった。僕が仮にそういう道に進んでしまったのなら寮長さんと真っ向から対決することになるかもしれないって事を。

「なぁーんてな」

 先ほどまでの真剣な表情を捨て去り、頬を緩めて寮長さんは笑った。

「正直、そうなったとしても俺が君を裁ききれるかなんてことはわからないよ」

「え?」

 僕は寮長さんの一言に目を丸くした。

「君の家族の話は君のお友達との話を上からよく聞いていたから半端ないものだっていうことを知っているんだ。そう思うと、君を本気で裁ききれるかなんて僕にはわからない」

「寮長さん…」

「でも今話したことは覚えておきなよ。俺以外にも魔法使いはいっぱいいる。そいつら全員が君の事情を知っているわけじゃないんだ」

「はい…」

「わかればいいよ。じゃ、俺はこれで」

 寮長さんは優しく微笑むと、角を曲がって建物の奥へと去っていった。僕は、今更ながら自分がしようとしていることがどれだけ重大なことかを思い知らされた気がした。でも、それは寮長さんが言っていたように道をはずした人の場合じゃないのか?僕の場合は別に禁呪法とかに手を出すわけではないし。そういうことさえしなければ外道とは言わないんじゃないだろうか。

 僕は自分の部屋に戻ってからずっと寮長さんの言っていたことを考えていた。確かに魔法がお金を稼ぐための手段でないことは重々承知しているし、僕も講義でそう言った内容を聞くたびに馬鹿なことをしている輩がいるものだと馬鹿にしたものだった。けれど、それなら僕が目指しているものは何なんだ。結局、賢者になってどうするんだ。賢者になれば母さんを、妹を救えるんじゃないのか?

 賢者って何なんだろう。僕は何のために賢者を目指しているんだろう。

「っ!!」

 駄目だ、考えていても始まらない。こういう時は外に散歩をしにいこう。外を歩けばきっと頭の中を渦巻いているもやもやも解消できるさ。

 僕はずっと着たままだった制服から私服に着替えると外へ出た。寮の門限はもうとっくに過ぎていたけど先生に見つからなければ大丈夫。僕はそろそろと足音を立てないように寮の外へ出た。

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