DEATH Ⅴ 『The Chariot』
部屋には朝日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえる。
……
僕は考えていた。
何故あの時、僕の大鎌が突然、変形したのかを……
JOKERの話では、十字架の大剣は感情や想いなどによって変化すると言っていたが、どう考えても答えが見当たらない。
僕が思考世界で迷っていると、やけに何か騒々しい。
気になり現実世界の扉を開けると……
室内で四つん這いになったJOKERが鼠を追い掛け回している。
僕の視線を感じたJOKERは狼狽えながら
『済みません、猫だった頃の本能でして……』
と申し訳なさそうに言った。
『元気そうで何よりだよ』
僕は、この部屋の有様に驚きつつ言った。
何処から手を付ければいいのか解らない程、酷く散らかっていた。
JOKERは肩を落とし、項垂れている。
それを見て僕は、
『今日、ちょうど部屋の大掃除をしようと思っていたんだ。だから気にしないで』
と言った。
僕は足元に落ちている埃被った一冊の本を拾い上げ、息を吹き掛けた。
埃が宙を舞う。
『ほらね……』
僕はそう言うと、とりあえず自分の近くから片付けていく事にした。
それを見たJOKERも自分の回りから片付け始めた。
僕は片付けながら
『何故あの時、僕の大鎌がエレキギターになったと思う?』
とJOKERに聞いてみた。
すると、JOKERは作業の手を休め、
『あの時に……私が兄さんに写真を渡して思い出せなかったあの時です。私が兄さんの頭に手を乗せると記憶が戻りましたよね?あれは私の記憶を記憶の欠片にして兄さんに分けたのです。そして、その時にあの不思議な力も一緒に渡していたのです』
と言った。
『そうだったんだね』
と僕は言い、あれだけ答えの見付からなかった疑問が呆気なく綺麗に片付いた。
僕達は部屋の片付けを続けた。
割れたカップの破片、散在した物、大人の絵本……等々。
やっと全ての片付けが終わり、壁に掛かった鳩時計を見ると丁度 二本の針が12の文字で重なり、小窓から勢いよく何度も鳩が飛び出し、12時を知らせた。
『もうこんな時間か……JOKER、お腹減ったよね?』
僕が言うと、JOKERが答える前に腹の虫が返事をした。
僕は笑いながら冷蔵庫の食材を確認した。
……
笑えなくなった。
牛乳以外、何も無い……
『お疲れの所 悪いけど今から一緒に食料を買い出しに行かない?』
と僕が言うと、JOKERが答える前に腹の虫が元気よく返事をした。
JOKERは苦笑している。
僕は机の引き出しから包帯を取り出し、姿見の前で片眼を残し、顔に包帯を巻いた。
僕達は身支度を済ませ、部屋を後にした。
他愛も無い会話をしながら商店街を目指し歩いた。
……
……
……
JOKERと話しながらだと一人の時より早く商店街に到着した気がした。
商店街は大勢の人で賑わっていた。
『何が食べたい?』
僕が色々な店を見ながら聞くとJOKERは迷わず
『魚で御願いします』
と視線は魚屋に釘付けで言った。
『了解です』
僕は挙手の礼をして言った。
JOKERに食べたい魚を選んでもらい、それらを全て購入した。
どうせ外に出たついでだと僕は牛乳も購入した。
『他に何か必要な物はある?』
僕が聞くと
『私は特にありません』
とJOKERが言ったので
『それじゃあ、早く帰って僕が腕に縒りを掛けて魚料理を作るよ』
と腕っ節を見せながら僕は言った。
『宜しく御願いします』
JOKERはそう言って舌舐めずりをした。
僕達は足早に商店街の出口へ向かった。
『それにしても人が多いな……』
人込みに押されながら僕が言うと
『今日は休日ですからね』
とJOKERは僕を見失わないように後ろから大声で言った。
そろそろ商店街から抜け出せる所まで来た時、僕達の目の前に子連れの親子が居た。
その女の子は人形と手を繋いでいる。
両親は物凄い剣幕で人目も憚らず声を荒らげて喧嘩している。
女の子はそれを見て怯え、やがて泣き出した。
両親は女の子の泣き声で我に返り、辺りを気にしながら女の子の手を乱暴に掴んだ。
その時、女の子の手から人形が離れた。
深紅のドレスを着飾ったフランス人形。
女の子は何度も振り返り、人形を見詰め涙を流しながら両親に人形の事を言っていたが、そのまま去って行ってしまった。
僕はすぐにその人形を拾い、追い掛けたが親子は人込みに紛れて見失ってしまった。
『この人形、どうしよう……』
僕が困り果てて言うと
『先程のあの様子を見ると、その人形はきっとあの女の子が大切にしていた物でしょう。取り敢えず私達が預かり、また此処へ来る時に持って来るというのはどうでしょうか?』
とJOKERは提案した。
『そうだね』
と僕は言い、食材と人形を手に帰宅した。
部屋に戻ると食材をテーブルに置き、人形を椅子に座らせた。
早速、僕は顔の包帯を外すと腕捲りをして丹念に手を洗い、お腹を空かせたJOKERの為に料理を始めた。
軽快な鼻歌と手際の良い包丁捌き等で、あっという間に魚料理数品が出来上がった。
それらをテーブルに運ぶと、今か今かと待ち侘びていたJOKERの生唾を飲み込む音が聞こえた。
全ての料理をテーブルに置き、
『はい、召し上がれ』
と右手で料理を示し僕が言うと、JOKERは襟元に白い布を挟み、
『戴きます』
と同時に手を合わせ、ナイフとフォークを手に夢中になって食べ始めた。
口元が汚れると白い布で拭きながら無言のまま、まっしぐらに食べ続け皿はすぐに裸になった。
JOKERは
『御馳走様でした』
と同時に手を合わせ、白い布で口元を拭いた。
『美味しかった?正直な感想を教えて』
と僕が聞くと
『この何も残っていない食器が全てを物語っています。本当に美味しくて最高でした。有り難う御座います』
JOKERは満足気に言った。
『それなら良かったよ。また何か食べたい物があったら遠慮なく何時でも言ってね』
安堵の表情で僕が言うとJOKERは立ち上がり、
『何時も甘えてばかりで済みません……心から感謝しています』
と言うと深々と御辞儀をした。
僕は台所に食器を下げ、後片付けをした。
それから談笑していると窓の外はすっかり暗くなっていた。
『そろそろ寝ようか?』
僕が聞くと
『そうですね……御休みなさい』
とJOKERは眠そうな顔で答えた。
『おやすみ』
と僕は言い、明かりを吹き消した。
JOKERはベッドで、僕は床で寝る事にした。
眼が慣れてきて時計を見ると午前二時だった。
草木も眠る丑三つ時……
JOKERは寝息を立てて眠っている。
それを聞きながら僕がうとうとしていた時、カタカタ……カタカタ……と音がした。
「何の音だろう……?」
僕がそう思っていると、また、カタカタ……カタカタ……と。
睡魔に襲われかけていた僕は、何とかその音の正体を突き止めるべく必死に眠気を堪えた。
起き上がろうとしたが、金縛りで体の自由を奪われていた。
コツコツ……
規則正しいリズム。
『JOKER……』
と僕は叫んでいるつもりだが全く声が出ない。
コツコツ……
小さな間隔の音で何かがこちらに近付いて来ている……
そして、その音は僕の枕元で止まった。
唯一、自由の効く視覚を上に向けて見てみると、そこにはあの女の子が落としたフランス人形が立っていて僕の顔を見下ろしていた。
その人形は哀愁の眼差しで、じっと僕を見ている。
すると、突然、
『驚かせて……ごめんなさい』
と開口一番 人形が言った。
「人形が喋った……」
僕がそう思っていると
『私の話を聞いてほしいの……』
人形はそう言うと僕に掛けていた呪縛を解いた。
僕は、すぐさま起き上がり人形の前に座った。
『僕に話があるの?』
人形は、こくりと頷いた。
『話って何かな?』
僕が人形の目を見て聞くと
『あの子の事……』
人形は視線を逸し言った。
『あの子って昨日、商店街で君と手を繋いでいたあの女の子の事?』
視点を外さず僕が聞くと人形は頷き、
『実は……あの子は……いつも両親から虐待されているの。私は何も出来ず……いつも近くで……それを見ていたわ』
と言葉を詰まらせながら言った。
『虐待……』
僕は呟いた。
『あの子はいつも人形の私に優しくしてくれて、本当の妹の様に可愛がってくれた……。どうかお願いです……あの子を助けて下さい。これ以上、あの子の苦しむ姿を私は見ていられない』
人形は哀願した。
『わかったよ』
僕が頷きながら言うと、
『ありがとう』
と人形は言い、その場にへたりこんだ。
寝付いたばかりのJOKERを起こすのは少し気が引けたが、僕はJOKERの肩を揺すって起こした。
JOKERは眠そうな目を擦りながら
『どうかしました?』
と言った。
僕はさっき聞いた人形の話をJOKERにした。
半信半疑で話を聞いているようだったが、
『そんな事が……今から急いで女の子の所へ向かいましょう』
JOKERはそう言うと立ち上がり、両手を上げ背伸びをした。
『でも、場所が解らないよ』
頭を抱えて僕が言うと
『大丈夫。私が案内するから』
と人形は言った。
それを見たJOKERは驚き、ゆっくりと人形に忍び寄り、
『初めまして、私はJOKERと申します。以後、御見知り置きを』
御辞儀をしてJOKERが言うと
『私は名も無き人形よ……』
と寂しげな面持ちで人形は言い、互いに挨拶を交わしていた。
僕達は手早く身支度を済ませ部屋を出た。
人形は僕のローブの裾を引っ張り、僕を屈ませた。
すると人形は僕の肩に座った。
『それじゃあ、案内よろしくね』
僕が肩の人形に向かって言うと
『任せて』
人形はそう言って僕に無邪気な笑顔を見せた。
『落ちないようにしっかり掴まっててね』
僕は人形に言うと、僕達は走り始めた。
……
……
……
どれくらい走っただろうか……
体感で一時間……恐らくそのくらいだろう。
JOKERは膝に手を突き、肩で大きく息をしている。
少し止まって乱れた息を整えていた時、
『ここよ』
人形が指差すその先には、堂々とした門構えの広大な洋館があった。
人里離れた閑静な場所。
洋館の大きな窓にはカーテンが閉められているが、明かりは点いているようだ。
僕達は門を攀じ登り、庭に降りると人形は僕達に裏口まで行くように言った。
手入れが行き届いていない荒廃した庭を通り、洋館の裏に回った。
裏口に着いた途端に
『ちょっと待ってて』
人形はそう言うと僕の肩から飛び降り、裏口の横にある小さな通路の格子を外し、這って中へ入っていった。
それから数分後、目の前の扉の鍵を外す音がした。
『いいわよ』
人形が扉越しに小声で言っている。
僕は取っ手に手を掛け、ゆっくりと回した。
中に入ると人形は、
『こっちこっち』
と両手を大きく振り、僕達を呼んでいる。
人形の後を付いて行くと少し扉の開いた部屋の前に辿り着いた。
扉からは明かりが洩れている。
僕達はその扉の隙間から中の様子を窺った。
すると、まず僕の眼に飛び込んできたのは、あの女の子だった。
そして、その両脇で立ち尽くす両親。
女の子は頭から流血して俯せで倒れていた。
動かなくなった女の子を見て両親は慌てふためいている。
暫くすると互いを責め始めた。
『最後に手を出したお前が悪い』
『手加減しないあなたが悪いのよ』
醜い罪の擦り合いをしている。
その時、僕の中のもう一人の僕が目醒めた。
その光景を目の当たりにした人形は声を出して泣き出してしまった。
泣き声に反応した父親は、
『誰だ』
と声を荒らげ、鬼の形相でこちらに歩み寄ってきた。
『救い様の無い鬼畜共め』
俺はそう呟くと扉を蹴破り中へ入った。
俺の姿を見るや否や顔面蒼白になり、青鬼は歩みを止めた。
赤面症の赤鬼は、そのままその場に立ち尽くしている。
俺は鬼を無視して女の子の下へ……
女の子は既に息絶えている。
女の子の着衣は、ぼろぼろに傷み、その小さな体には切り傷、打撲傷、火傷等の傷跡が顔を覗かせていた。
見るも無残なその姿……
俺は昔よく弟に歌った短い子守歌を拍子を取るように女の子の痩せた背中をとんとんと優しく叩きながら歌った。
……
歌い終わると俺は着ているローブを脱ぎ、女の子に被せた。
人形は両手で目を覆い、しゃがみ込んでいる。
『貴様等……卑劣な鬼ごっこをやっていたみたいだな。女の子の代わりに……次は俺が鬼の番だ』
そう言うと俺の大鎌は金棒になっていた。
俺がその金棒で青鬼の頭部を殴り掛かろうとした時、
『待って下さい』
とJOKERは前方に手を伸ばし慌てて言った。
その声に俺は振り上げた金棒を下ろし、
『どうした?』
とJOKERに聞くと
『此処は私に任せて頂けないでしょうか?』
JOKERはそう言うと、懐から布の小袋を取り出した。
『それは何だ?』
首を捻り俺が聞くと
『まあ、見ていて下さい。今に解りますから……』
JOKERは小袋の紐の結び目を解きながら言った。
そして、JOKERはその小袋の中身を掌に二つ乗せた。
それは黒い粒のようだった。
JOKERは親指に人差し指を掛けるとそれを弾いて飛ばし、絶妙なコントロールで青鬼と赤鬼の口内に同時に入れた。
鬼共は、いきなりの異物の侵入に咳き込んでいる。
JOKERの両手にはそれぞれナイフがあり、そのナイフを投げると勢いよく回転しながら飛び、鬼共の足の甲を突き抜けて床に刺さり、歪な声を張り上げた。
JOKERはそれを見届けると一本のナイフを取り出し、突然、自分の左手首を横に切り始めた。
『JOKER』
俺は思わず叫んでいた。
今のJOKERには俺の声が届いていないのか、その行為を続けている。
次にJOKERは横に切った傷の上から縦に切り始めた。
「十字……」
JOKERの手首から血が滴っている。
切り終えたJOKERは、左手を垂らし鬼共との距離を詰めていった。
俺はローブの女の子を抱き抱え人形の下へ行った。
JOKERは立ち止まると一枚のコインを頭上に投げ、鬼共の視線を引き付けた。
落下するコインを大きく薙ぎ払うように左手で掴み、鬼共の顔に血液を浴びせた。
鬼共は袖で顔を拭っているが、既にしてJOKERの血液は口内に流れ込んでいた。
『自分達の都合だけで何の罪も無い年端のいかぬ我が子に手を掛けるとは……
貴方方は大切な尊い生命を二人で壊してしまいました。大切な者同士、殺し合いなさい』
JOKERはそう言うとこちらに戻ってきた。
『さっき奴等の口に何を飛ばした?』
俺が聞くと
『あれは血液に反応して芽生えるという殺意の種…… 私が兄さんを訪ねる道中で怪しげな行商から購入しました』
JOKERは眉間に皺を寄せ、鬼共を見詰めて言った。
『大丈夫なのか?』
と俺が聞くと
『私は信じています』
JOKERがそう答えた後、鬼共は血走った目で奇声を発しながら爪を立てて頭や胸を掻き毟っていた。
『間も無くですね……』
JOKERが右足で秒を刻みながら言うと、鬼共の口を抉じ開け漆黒の殺意の華が開花した。
鬼共は苦痛に悲鳴を上げた。
その悲鳴で目覚めるかの如く、口の華を皮切りに鬼共の目を突き破り、体中から次々と殺意の華が咲き乱れた。
殺意の華は脈打ちながら蠢動している。
鬼共は足のナイフを抜き取り、構えた。
青鬼は右手で、赤鬼は両手でナイフを握り締めて睨み合っている。
先に仕掛けたのは青鬼だった。
青鬼は赤鬼との間合いを一息で詰めてナイフを突き出した。
それと同時に赤鬼も反射的にナイフを突き出した。
次の瞬間……
互いのナイフは胸に刺さり、鬼共は激痛に顔を歪め、倒れた。
波紋の様にじわじわと赤黒く色付く胸部。
青鬼はナイフが突き刺さったままの胸を手で宛てがうと、ローブを被った我が子を見詰め、残された片目から大粒の涙を流した。
その様子を見ていた赤鬼も残された片目から大粒の涙を流していた。
倒れている青鬼の傍に俺が行くと、さっきまで咲き乱れていた殺意の華は嘘のように萎れていた。
『今の俺は腹の虫の居所が悪い……覚悟しろよ』
俺は金棒で青鬼の両足を集中して何度も何度も一心不乱に殴打した。
金棒の棘で青鬼の着衣は破れ、肉は弾け、骨は剥き出しになり、どす黒い血液と肉片が辺りに飛び散る。
俺の体に血と肉片がしがみ付く。
青鬼は恐怖の声を上げている。
『鬼がそんな情けない声を上げるなんて、みっともないぜ?鬼なら鬼らしく何があっても堂々と構えろよ』
俺はそう言い、処刑を続けた。
気付くと青鬼の両足は原形を留めない程、破壊されていた。
その時、赤鬼が俺の足に纏わり付き、
『もうやめて』
と泣きじゃくりながら言った。
『大切なものを奪われる気持ちが解ったか?だがしかし、時既に遅しだ』
俺はそう言うと、赤鬼を振り払い側頭部を金棒で殴り飛ばした。
赤鬼は頭からどす黒い血液を噴き出しながら吹っ飛び、倒れた。
青鬼は上半身を起こし、倒れた赤鬼を見て
『俺はどうなってもいい……何でもするからこれ以上、妻に手を出すのだけはやめてくれ』
と言った。
その言葉を聞いた俺は、
『何故、その想いを我が子に向けてあげられなかったんだ?生憎、俺はそんなに都合良くないものでな』
と言い、赤鬼の傍に行った。
赤鬼の両足も青鬼同様に怒りに骨を任せて叩き潰した。
俺は数歩移動して鬼二匹を視界に捉え、
『これは鬼ごっこだよな?十数えてやるから早く逃げろよ……』
と言った。
それを聞いた鬼共は胸のナイフを抜き、両腕の力のみで体を引き摺りながら扉の方へ進み始めた。
『一つ……二つ……三つ……』
青鬼と赤鬼は何度もこちらを振り返りながら少しずつ前に進んでいる。
『四つ……五つ……六つ……』
鬼共は蛞蝓の様に床に体をへばりつけ、どす黒い血の道標を記しながらのろのろと一途に進む。
『七つ……八つ……九つ……』
青鬼と赤鬼は寄り添い、重ねた手を握り合っている。
俺は鬼共の行く手を立ち塞いだ。
そして、
『十』
その怒号は辺りを揺らし、くすんだ指輪が寄り添う鬼共の両手を金棒の頭で磨り潰し、固体から液体に変えた。
『出血大サービスだな』
俺が言うと鬼共は絶望を吐き出した。
俺は敢えて息の根を止めず、虫の息程度に鬼共を生かした。
『向こうでは家族皆で仲良く暮らすんだぞ……解ったな?』
俺は鬼共にそう告げると大鎌の峰で大きく床を擦り火を起こした。
その時、JOKERは逆手で大剣を握り、左足を前に出して腰を落とすと鬼共に狙いをつけ、体を捻り横から大剣を振り放った。
大剣は円を描きながら地を這うように空を斬り裂き、青鬼と赤鬼の魂を断ち、その後 手元に戻ってきた大剣をJOKERは掴んだ。
そして俺はローブの女の子を抱き抱え洋館を出た。
外に出ると
『ついてきて』
人形は力無く言い、覚束無い足取りで歩きだした。
赤赤と燃え上がる洋館を背に俺達は人形の後に付いて歩いた。
……
……
……
人形が立ち止まったそこは、洋館から少し離れた場所にある、街を一望出来る小高い丘だった。
『此処は?』
僕より先にJOKERが人形に聞くと、
『両親に隠れてあの子がよく連れてきてくれた私達だけの秘密の場所……』
人形はそう言いながら、どっしりと構える樹木を優しく擦っていた。
『あの子は、この木に登って眺める風景がとても好きだった……その時だけは何もかも忘れられたのかもしれないわ』
人形の頬に一粒の雫が伝う。
それを見た僕は、
『僕の我が儘を許して下さい』
そう言い、樹木に大鎌を振ると数枚の板は宙を舞い、地面に転がる尖った石を幾つか大鎌で掬い飛ばし数枚の板を打ち付けた。
地面に着地する頃には、既にそれは完成していた。
『小さな棺……』
人形は一言、呟いた。
重苦しい空気が漂う中、僕は女の子の遺体を棺に納めて
『次は幸せになるんだよ……』
と言い、皆で合掌して最後のお別れをした。
それから棺の蓋を閉め、この場所に女の子を埋葬した。
その頃、夜は明け朝日が昇り始めていた。