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DEATH13  作者: DEATH13
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DEATH Ⅳ 『Justice』

猫のJOKER……


弟……


僕にとってどちらも掛け替えのない大切な存在だった。


幼い頃、弟とはあまり遊べなかった。


猫のJOKERも同じだ。


奪われた時間をこれから少しずつ取り戻していこう……



晴れ渡る空の下、十字架の大剣を素振りして汗を流しているJOKERを僕は部屋の窓から頬杖を突いてのんびり見ていた。


JOKERはこちらに気付き、大きく手を振っている。


僕は外に出た。


強い陽射しに眼が眩む。


少しすると視覚が戻り、JOKERの前まで行き、

『頑張ってるね』

と僕がJOKERの肩に手を乗せて言うと

『はい』

とJOKERは笑顔で答え、袖で汗を拭った。


『ちょっといいかな』

僕はそう言うとJOKERを木陰に連れて行った。


JOKERは丁寧に大剣を地面に寝かせてその横に座り、僕はJOKERの隣に座った。


そして僕はこれまでの経緯をJOKERに話した。


それを聞いたJOKERは、

『そうだったのですね……』

と一言、感慨深く言った。


僕には気になっている事があった。


『聞きたい事があるんだけど』

僕が言うと

『何でしょう?』

とJOKERが言った。


『その十字架の大剣は?』

JOKERの横に寝かせてある大剣を覗き込みながら僕は言った。


『ああ、これですか』

とJOKERは言い、瞼を閉じて話し始めた。


『私が今の姿で倒れていた場所に黒い書物とこの大剣が落ちていました……私は黒い書物を手に取り、開きました……そして読もうと文字に目を向けた時、突然文字が動き出し、ひとりでにページが捲れ、無数の文字は浮かび上がり、やがてその文字が一つの塊になり、人物の姿となって私にその大剣の説明をしてくれました……「その時の感情や想いなどにより大剣は変化し、肉体や物など目に見えるものは一切斬れず、人間の記憶や精神など目に見えないもののみ斬る事が出来る」そう告げるとその人物の体は、ばらばらになり文字となって書物の中に戻ったのです……』


話し終わるとJOKERはゆっくりと瞼を開いた。


『話してくれて、ありがとう』

僕はそう言い、心の中で思っている事があった。


一見、何の変哲も無いあの大剣が不可思議な力を秘めていると……


気になる……


話を聞いた後の方が余計に気になっていた。


『今日は天気が良いし、少し散歩でもしない?』

僕が立ち上がりながら言うと、

『はい』

とJOKERは元気よく立ち上がった。


僕はJOKERと散歩する事にした。


たまに吹く微風がとても心地よい。


蝶がひらひらと華に止まる。


その途中、僕は思い出したように

『JOKERって名前、どう思ってる?』

僕が不安そうに聞くと

『とても気に入っています。良い名を命名して下さり有り難う御座います』

JOKERはそう言うと深々と御辞儀をした。


『良かった……』

僕は溜め息混じりに洩らした。


『これからもJOKERって呼んでいいのかな?』

僕が聞くと

『勿論です』

とJOKERは即答した。


『私は貴方の事を何と御呼びすればよいでしょうか?』

JOKERが困った表情で聞いてきたので

『何なりと御好きな様に』

と僕は御辞儀しながらJOKERの口調を真似て言ってみた。


それを聞いたJOKERは笑っていた。


笑っているJOKERを見て僕も笑った。


二羽の小さな鳥が仲良く寄り添い、僕達の前を通り過ぎていった。


成長した弟と肩を並べて歩き、こうして同じ時間を過ごしている。


他者からすればこの光景は何気無いありきたりな日常に映るかもしれないが、僕にとっては本当に貴重な時間だ。


何時までもこの穏やかな時間が続いてゆく事を心から願っていた……


その時だった……


僕の視界に何か映り、眼を凝らすと紫の煙が手招きして僕を呼んでいた。


その煙を追うと公園に辿り着いた。


煙はこの公園のどこかから出ているようだ。


煙を辿るとベンチの前で立っている一人の若者が居た。


紫の煙は、その若者から発していた。


若者はヘッドホンをして煙草を咥え、吹かしている。


ベンチには古びた服を着た老人が腕で目を隠し、仰向けになって寝ていた。


若者はナイフを取り出し、ベンチで寝ている老人の心臓に何の躊躇もなくナイフを突き立てた。



老人は即死だろう……



『もう死んじまったのか?』

若者はそう言うと老人の顔に唾を吐き付けた。


そして老人の骸をベンチから引きずり起こし、殴る蹴るの暴行を加えている。


老人は赤い涙を流している。


若者は弄ぶように老人をいたぶり続けている。

まるで、猫が鼠を捕らえた時のように……


気の済んだ若者は老人の古びた服を漁り、金目な物を探している。


金品を持っていなかった老人に対し若者は、

『この屑が』

と言い、吸いかけの煙草の火を老人の顔に押し付けた。


その後、若者は老人を突き飛ばし手を払いながら

『汚ねぇな』

と吐き捨てた。




ベンチで寝る事があの老人にとっての楽しみだったかもしれない。


あの若者さえ居なければ、明日の今頃に老人はまたいつも通り、あのベンチで寝ていたかもしれない。


老人の楽しみと生命を同時に奪ったあの若者を僕は絶対に許さない。



僕のスイッチが切り替わった……


あのグロテスク……


倍返し……


否、それ以上の苦痛を与えてやる……



俺はグロテスクの背後に立ち、ヘッドホンを引き千切った。


グロテスクは振り返り

『何だ、お前?』

と馬鹿にした口調で言ってきた。


『死神だ』

俺が答えると

『趣味の悪いコスプレ野郎が』

とグロテスクは言い、俺を指差し腹を抱え笑っている。


『貴様、今 何を聴いていた?』

俺が聞くと

『デスメタルだ、何か文句あるか?』

グロテスクは怒りを露にして言った。


「デスメタル……」


俺が心で唱えると大鎌はエレキギターに形を変えた。


『何故、俺の大鎌が……』


視線を横にやると、JOKERの大剣もエレキギターに姿を変えていた。


俺は大声で笑い

『俺が本当のデスメタルを奏でてやろう……そして貴様はヴォーカルだ』

グロテスクを指差し言い、続けて

『貴様のデスヴォイス、期待しているぞ……』

俺は含み笑いで言った。


『弱者を愚弄していますが、貴方も同じ弱者だという事に気付けていないとは本当に哀れな方です……。人間、皆……弱者なのです……勘違いも甚だしいですね。私達が身をもって教えてあげましょう』

JOKERはそう言うと空に十字を切り、グロテスクに大剣を翳した。


すると、グロテスクは眼には見えない十字架に磔にされ、身動き一つ取れない状態になった。


あのグロテスクをもっとグロテスクに……


血祭りに上げてやる……


処刑台という名のステージで思う存分、暴れるがいい……



正直、俺は生まれてこの方、一度もギターなど触った記憶は無いが、思うがまま己の想いを込めて指を動かし、掻き鳴らすと


……


俺の指が勝手に動き、不気味な旋律を奏で始めた……


JOKERはギターを弾きながら、口で低音のベースと激しいドラムを同時に、そして忠実に再現している。


それを見た俺は、

「流石、俺の弟よ……」

そう思っていた。


JOKERは全く曲を知らない筈だが、完璧に演奏していた。


兄弟の息の合った演奏。


何処からかぞろぞろと寄って来た野次馬達が頭を激しく上下させ髪を振り乱している。


JOKERの回りには沢山の猫が寄って来ていた。


『よし、そろそろヴォーカルの出番だ』

俺はそう言うと、グロテスクの右手に狙いを定めギターを振り被った。


グロテスクは首を激しく左右に振っている。


『違う、上下にだ……』


その時、ギターから大鎌へ瞬時に変わり、グロテスクの右手は弧を描き飛んだ。


グロテスクは絶叫した。


群衆はかなり盛り上がっているようだ。


ここら一帯、異様な熱気に包まれていた。


『なかなか良いデスヴォイスだ……だが、まだ甘い……。もっと激しく……唸れ、喚け、叫べ』

俺はそう言うと演奏を続けた。

蠢く轟音


「さて、次は……」

俺は声を出さずに言い、グロテスクの左手を切断……


グロテスクは再び絶叫した。


切断された左手が俺のローブを掴み、許しを乞うが俺はその左手を外し、

『汚ねぇな』

と言い、グロテスクを的に投げ捨てた。


グロテスクは血飛沫で処刑を演出している。


俺の薄白い顔は、返り血で見る見る内に赤く染まってゆく。


そして、俺は間奏のギターソロで完全に自己陶酔していた。


その酔った勢いでグロテスクの両足を一度に切断……


グロテスクの胴体が地面に跳ねて転がる。


それを見ていたJOKERは、透かさず空高く舞い上がり、ギターから形を変えた大剣をグロテスクの胸に突き立て精神を断った。


グロテスクは嗚咽している。


俺は、

『ラスト』

と叫び、群衆を煽ってから残された首を切断した。


曲が終わると共にグロテスクの断末魔が響いた……


辺りは血なまぐさい匂いが立ち込めていた。


俺は足元に転がった生首を掴み、それに顔を寄せ、

『貴様の好きなデスメタルであの世に逝けて本望だろ?俺に感謝しろよ……』

と嫌みたらしく言った。


そして、俺はその生首を高々と掲げた。


それを見た群衆は、拳を天に突き上げ、歓喜の声を上げていた。


俺は後ろに生首を放り投げた。


トイレの屋根から一部始終を見ていた一羽の鴉は嬉しそうに鳴きながらグロテスクの残骸に飛び付いた。


その鳴き声に釣られて腹を空かせた鴉が一羽、また一羽と数を増やし群がっていった。


グロテスクの残骸は一瞬にして赤から黒に染まった。


無数の鴉は首を激しく振りながら新鮮な肉を我武者羅に啄んでいる。


血塗れになった俺に何人か近付いてきて

『お疲れ様です』

と声を掛け、冷たい飲み物とタオルを差し入れてくれた。


俺が無言のまま受け取ると、その内の一人が

『次のライブは、いつですか?』

と聞いてきたので

『未定だ……』

と俺は一言、答えた。


その後、すぐに音楽関係者と名乗る男が寄って来て、名刺を差し出しながら

『デビューしませんか?』

と言ってきたが勿論、俺は断った。


群衆達は今の光景の全てをライブパフォーマンスと思っているようだ。


そして俺はコスプレしている人間だと思われているのだろう。


群衆の方から何か聞こえてきた……


『アンコール』


群衆の一人が言うと


『アンコール』


後に続けとばかりに数人が言っている。


『アンコール』


だんだんとその声は大きくなってゆく。


『アンコール』


群衆全員が心を一つにして言っている。

俺はJOKERに眼で合図した。


その声に応え、古びた服の老人に捧げる鎮魂曲を奏でた。


……


……


……


演奏が終わると俺はJOKERに処刑を見ていた群衆全員の記憶の一部を消すように頼んだ。


JOKERは首を縦に一つ振り、流れるような華麗な動きで群衆達の頭に大剣を入れ、今 行われた処刑の記憶を断った。


群衆達は一斉に倒れたが、すぐに起き上がり何食わぬ顔で散っていった。


振り返るとグロテスクの残骸は跡形も無く消えていた。

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