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DEATH13  作者: DEATH13
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DEATH Ⅲ 『Wheel of Fortune』

笑顔……


仕草……


口調……


……


……


……


僕は、今は亡き彼女の事を想いながら、重い足取りで部屋に向かった。


部屋までの道程は気が遠くなる程、とても長く感じた……


……


……


……


ようやく部屋の前に辿り着いた。


部屋の扉が少し開いていたが、気に止めず中に入った。


吊された糸を切ったかのように僕はベッドに倒れ込み、そのまま眠ってしまった……


……


彼女がJOKERと戯れている……


そんな夢を見ていた。


……


僕は、ある事に気付き現実へ戻った。


『JOKER』


僕は咄嗟に叫んだ。


この部屋に荒らされた形跡は無く、JOKERの居る気配は微塵も感じられない。


確か僕が部屋を出る前、JOKERはベッドで眠っていた。


だが、そこにJOKERの姿は無い……


僕は突如として不安に襲われた。


何の手掛かりも無いまま重い体を引きずり、JOKERを捜す為、部屋を出た。


『JOKER……JOKER……』


僕は不吉な予感を振り払う様に力の限り声が嗄れるまでその名を叫び続けた。


色々な場所を必死に捜し回ったが、JOKERは何処にも居ない……


そして、最後に僕が行き着いた場所……


そこは鬱蒼とした森だった。


僕が森に足を踏み入れようとした時、雲一つ無かった空が突然曇り、ぽつぽつと雨が降ってきた。


雨が降る……


降り注ぐその雨は、僕の眼には赤く映っていた。


僕は森の中へ吸い込まれた。


生い茂った樹木が立ち並び、何処までも続いている……


僕は奥へ奥へと、ひたすら進んだ。


雨足が激しさを増してゆく。


進めど進めど全く風景は変わらない。


何も変わらない状況に、僕は心が折れそうになっていた。


それでも、ただ黙々と前進した。


そんな状況の中、僕は心身共に限界に達していた。


しかし、ここで諦める訳にはいかない。


残った力を振り絞り、僕は前へ進んだ。


……


……


……


僕は一度、足を休めようと思い、立ち止まった時、大鎌を繋いでいた鎖が千切れ、僕の背から離れて落ちた。


……


水溜まりの大鎌を屈んで拾い上げると、僕は全身全霊を賭して叫んだ。


『JOKER……』


その声が森に木霊する。


すると、不思議な事にさっきまで何も無かったその場所に大樹が忽然と姿を現わしたのだ。


それを見て僕は呆然と立ち尽くしていた。


……


疲れ果てた体を少し休める為、大樹にもたれ掛かり、そのまま腕を組み、俯いた。


その時、雷光が暗がりを照らした。


一瞬だったが大樹の傍らに何かがあったのが解った。


僕は、ゆっくりと近付いて見た。


……


僕の不吉な予感は的中していた……


そこには力尽きたJOKERの亡骸があった……


僕は跪き、JOKERを抱き抱えた。


小さなその体は、とても冷たく硬直していた。


『寂しい思いをさせてごめんね……』


止めどなく溢れ出る涙……


やりきれない気持ちで一杯だった。


『またしても僕の大切なものを……』


僕は震えながら叫んだ。



『僕が何か悪い事でもしたか?』


……


僕は空を仰ぎ、問い掛ける。



『何故……僕にこんな仕打ちを……?』


……


『僕が死神だからか……?』


……


僕は続けて問い掛けた。



『何か……答えろよ……』


……


虚しく雷鳴だけが響き渡っている。



『JOKER……』


僕の手に居るJOKERに向かって小さく呼び掛けた。


……


JOKERの亡骸を埋める為、大樹の前に両手で小さな穴を掘った。


その小さな穴にJOKERの亡骸を安置した。


JOKERをこれ以上、孤独にさせないように僕が昔からずっと大切にし、何時も肌身離さず御守り代わりに持っていた一枚のコインをJOKERの体の上にそっと置いた。


僕はゆっくりと後ろから土を掛けた。


……


JOKERの体は土で覆われ、顔だけが出ている状態になった。


これで最後なのに、JOKERの顔は涙で霞んでいた。



『さよなら……』


僕はそう言うと、早すぎる別れを惜しみながらJOKERの顔に土を掛けた。


そして、JOKERの名と今日の日付をナイフで大樹に刻んだ。


皮肉にもこの大樹がJOKERの墓標となった。


こうして僕はJOKERを手厚く葬った。



『またすぐに逢いに来るからね……』


僕は最後にそう言って立ち去った。




†数カ月後†


あれからの僕は哀しみに暮れ、何も手に付かない状態が続いていた。


また暗い部屋に一人……


悪夢に魘され続ける毎日……


まるで過去を繰り返しているようだった。



彼女……


そして


JOKER……



立て続けに大切なものを失ってしまった。


僕は自分を責め続けた……




†その日の深夜†


誰かが部屋の扉を叩いている……


僕はその音で夢から覚めた。


聴覚を澄ますと扉の音とは別に何か声が聞こえた。


『夜分遅くに失礼します……』

と言っているようだ。


『こんな時間に誰だ?』


僕は首を傾げ小さく言った。


ベッドに座ったままランプに火を灯し、立て掛けていた大鎌を手に取る。


左手にランプ、右手に大鎌を持ち、扉へ向かう。


未だ扉を叩く音は鳴り止まない。


僕は扉の前に着き、

『どなたですか?』

と扉越しに尋ねた。


すると、扉を叩いていた音は止み、

『夜分遅くに失礼します……道に迷ってしまいまして……』

と聞こえてきた。


僕は少し怪しく思ったが、本当に困っているような声だったので扉の鍵を外した。


そして扉を押し、僕は身構えた。


……


扉の向こうには、白装束を纏った見知らぬ青年が一人立っていた。


その青年は僕の姿を見ても全く動じていなかった。


『お久し振りです』

と青年が言う。


『貴方は……?』

と僕が問う。


……


青年は僕の問い掛けに答えなかった。


……


僅かな沈黙の後、

『中へどうぞ』

と僕が言うと、青年は律儀に御辞儀をして中へ入った。


青年の後ろ姿を見ると、十字架を象った大剣が背にあった。


僕は扉を閉め、鍵を掛けた。


『汚いですが、そこの椅子に腰を掛けて下さい』

と僕が言うと

『有り難う御座います』

と青年は、その椅子に腰を下ろした。


僕は机にランプを置き、その横の壁に大鎌を立て掛けた。


そして、青年に温かい飲み物を用意した。


『お気になさらず』

と青年は僕に軽く礼をした。


僕が対の椅子に腰掛けると青年は、

『信じてもらえないかもしれませんが、私の話を聞いて頂けますか?』

と心配そうに言ってきた。


『はい……』


突然の事で意味が解らなかったが、とりあえず青年の話を聞いてみる事にした。


……


青年は重い口を開き、

『単刀直入に言います……私はJOKERです』

そう言うと青年は一枚のコインを僕に差し出した。


僕は驚愕した。


『それは……僕が大切にしていた……コイン……?』


……


もしあれが本当に僕の持っていたコインだとすれば、裏に大きな傷がある筈だ。


僕は慌ててそのコインを手に取り、確かめてみた。


そのコインの裏にある大きな傷と僕の記憶のコインの大きな傷が一致した。


『間違いない……それは僕のコインだ』


青年は微笑みながら頷いた。


さっきまで気付かなかったが、青年の顔には大きな傷があった……


僕と青年の眼が合うと青年は語り始めた。


『あれから私の魂は行く宛も無く、この世で彷徨い続けていました……。その時、何処からともなく声が聞こえてきたのです。「お前には、まだやるべき事が残されている」と…… 。目覚めると既にこの姿で私は倒れていました。そして、私に残された記憶の一部に貴方と此処の風景が映し出されたのです』


青年の話が終わると、

『JOKER』

僕はそう言って思わず青年の頭を撫で回していた。


青年の髪は激しく乱れ、とても困惑しているようだった。


……


『ごめんね……嬉しくて、つい……』

僕が謝ると

『いえ、私も貴方とこうしてまた再会する事が出来てとても嬉しいです』

JOKERは乱れた髪を整えながら言い、続けて

『遅くなりましたが、あの時は助けて頂き本当に感謝しています』

と言い、深々と御辞儀をした。


こんな形でJOKERと再会出来るとは夢にも思っていなかった。


礼を言うのは僕の方だ。


「JOKER、ありがとう」


僕は心の中で言った。


その時、たちまち心が晴れてゆくようだった。


話し終えたJOKERは、手持ちぶさたに部屋を見回していた。


『懐かしいです』

JOKERはそう言うと飲み物に口を付けた。


……


JOKERは何かに気付いたように急に立ち上がり、カップを手にしたまま僕がランプを置いた机に向かった。


その時、部屋中に大きな音が響いた。


机に置いてあった一枚の色褪せた写真を見て、JOKERがカップを落としたのだ。


JOKERは、とても驚いているようだ。


『貴方が……』


JOKERは一言言って黙り込んだ。


……


『どうしたの?』

僕が尋ねると

『まさか、こんな事があるなんて……』

JOKERは俯き、言った。


……


JOKERは僕にその写真を渡し、そこに写った二人の内の一人を指差し、

『これは……幼き頃の私です……』

『そして、その隣に居るのは貴方ですよね?』

JOKERは今にも泣き出しそうな表情で僕に迫る。


『解らない……』


僕が答えると、JOKERは僕に右手を差し出し、受け取る様に言ったがJOKERの掌には何も無い……


『何を受け取れば……』


『そのまま動かないで下さい……直ぐに終わりますので』

とJOKERは僕の言葉を遮り、僕の頭に右手をそっと乗せた。


……


僕の幼い頃の記憶が甦る。


『JOKERが……』


僕は、その一言を言うのがやっとだった。


『思い出して頂けましたか?』

JOKERはそう言いながら僕の頭から右手を下ろした。


僕が頷くとJOKERは堪えていた涙を流し、僕に抱き付いてきた……




JOKERは僕の弟だった……


幼い頃に死別した弟……


僕の眼の前に居るJOKERは、写真の弟の面影があった。


そして、何よりの証拠がJOKERの右手にある特徴的な痣と写真の弟の右手の痣が見事に一致していた。




JOKERとの再会……


それは弟との再会でもあった。


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