DEATH 0 『Death』
僕には、夢や希望がない。
お金も、彼女も、友達も、地位も、名誉も……
何も……無い。
あるのは、この醜い容姿と汚れた心。
でも、それでいい。
これが僕だから……
暗い部屋に一人……
いつもと何も変わらない風景。
そして、いつも通り「死」が僕の頭を支配する。
こんな僕が、こうして現在を生きている。
この生命が、あとどれくらい残されているのか……
今日、明日、一カ月後、一年後……?
もう既に死神に睨まれているかもしれない。
今、まさにその大鎌を僕に振り翳そうとしているかもしれない。
この世界に平等なんて言葉は存在しない。
全てに於いて不平等。
否、一つだけ誰にでも訪れる平等が存在する。
死だ……。
生きる事がこんなにも息苦しく窮屈だとは……。
この人生は、予め何者かが書き綴った物語を僕はただ演じさせられているだけなのだろうか?
僕は操られているのだろうか?
煙草に火を点ける。
何気無いこの行動も僕自身の意思ではなく、何者かが僕を操っているだけなのか?
僕は用意された物語の一人形に過ぎないのだろうか……
努力しても報われない。
始めから全て決められているから……?
この世界に存在する罪人は、物語の悪として選ばれた人間が、ただ操られ罪を犯しているだけなのか?
生の意味……
そして
死の意味……
僕は今まで何度も自殺を考えた。
対人恐怖による苦痛で誰も信用出来なくなったからだ。
嘘、偽り、裏切り……
人間が怖い。
とても怖い。
でも、僕もその人間……
そう思う度に発狂する。
無駄な知識を身に付けたが故に今日もまたこの世界の何処かで争いが始まる。
生命を奪い、生命を繋ぐ……
本当に残酷な下等生物だ。
そう、僕もまたその残酷な下等生物の一人。
本当に愚かな生物。
有名、無名に拘らず同じ人間。
人間……生……死……
何も変わらない筈だが……
僕にあるこの苦しみは、僕にしか解らない。
実際にその人間と全く同じ状況にならない限り、相手の本当の気持ちなんて解る筈もないが、誰も僕の事を理解しようともしない。
僕には存在理由すら無い。
誰からも必要とされない。
もう耐えられない……
このままずっと死神に怯えて生きるくらいなら、いっその事この生命を奴に奪われてしまう前に……
……僕は自分で自分を吊しました。あれからどれだけの時間が経過したのだろう……
それを知る術は、何処にも無い。
僕は過去の記憶を辿ってみた。
……
……
……
そして答えを見付けた。
『僕はもう消えてしまったんだな……』
少し寂しい気持ちになった。
辺りを見渡してみるが、そこは何も無い空間。
人、物、音、色……
全てが無だ。
とても不思議な場所。
『此処にあるのは、僕の心だけ?』
その時、僕は何か違和感を感じた。
『まだ少しだけ体の感覚が残っている』
試しに自分の手を少し動かしてみる。
『動いた……』
そして、恐る恐るその手の方に視線を向けた。
僕は言葉を失った。
……
『何故だ……』
白骨化した僕の手がカタカタと音を立てて震えている。
その指の隙間から足元に転がる鈍く光る何かが僅かに見えた。
僕はそれに視線を移した。
一瞬、思わず眼を逸らしてしまった。
それは……
身の丈程ある大鎌が僕を鋭く睨んでいたのだ。
ようやく今、自分の置かれている立場が理解出来た。
僕は生まれ変わった。
死神に……。