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2.隣が当たり前だった


 高校2年生の時、進路用紙が配られた。


 みんなが時間内に書き終わって先生に提出してるのに、ぼくは出来なかった。

 放課後誰もいない教室で1人机に座り、進路用紙と睨めっこしてる。


「たろちゃんお待たせっ!帰ろっか」


 明るく元気いっぱいの声。


 委員会に行ってた凪紬くんが帰ってきた。

 凪紬くんはぼくの様子をみて、黙って机まできてそのままぼくの机に手をついてしゃがんだ。


「たろちゃん悩んでるの?」

 そっと語りかけるように聞いてくる凪紬くん。


「うん。たろうお洋服作ったりそんな勉強したいから被服科行きたいと思ってるけど……」

「たろちゃんにはぴったりだと思うよ」


 凪紬くんには珍しく、ぼくの言葉に重ねて話す。

 凪紬くんは鉛筆を握ってない方の手をそっと優しく覆ってくれた。


「うん……」


 また、あの時みたいに……言われたら怖い。

 昔のシーンが頭に浮かび、踏み出せないでいた。

 凪紬くんにどう伝えよう……。


 口を開いては閉じと繰り返す。

 


「たろちゃんが作るぬいぐるみも服もぼく大好きだよ。たろちゃんがこれからも好きなものを作ってる姿みてたいな」


 凪紬くんのこの言葉は、宝物。


 顔をあげて凪紬くんを見る。

 凪紬くんは優しく頷く。


 ぼくも頷いて、紙に進路希望を書いてそのまま先生に提出に行った。


 誰に何を言われたっていい。


 (だって……たろうには、凪紬くんがいるから)



「ありのままのたろちゃんがぼくは1番好きだよ」


 いつもそう言ってくれる。

 凪紬くんがそう言ってくれるから、好きなものを堂々と好きと言えるようになった。


「今の明るいたろちゃんがぼくは好きだよ」

 ぼくがはしゃいでも、作りたいものが浮かんだ時、興奮して一気に喋り出しても凪紬くんはいつもそう言って笑ってくれた。


 一年生の時も、二年生になっても誰もぼくに「男のくせに」と言う人はいなかった。


 好きなものを受け止めてくれるクラスメートたちで、楽しく過ごせることができた。

 



 高校3年生の時に文化祭でする劇の衣装のデザインやアレンジを任せてもらえた。


 凪紬くんがずっと「たろちゃんはすごいんだから」そう言ってくれてたから自然と衣服のことはぼくにとの流れができてた。


 ぼくも張り切って劇の衣装を作った。

 1人で作るんじゃなくてみんなで力を合わせて作る楽しみも知った。


 劇は大成功で、"衣装がすごいで賞”をもらえた。


 クラスのみんなもぼくのおかげだよと口々にそう言ってくれた。


「たろちゃんはすごいんだよ」

「たろちゃんがいてくれたからクラスの劇がもっといいものになった」


 ぼくの隣で凪紬くんがそう言って笑ってた。

 この出来後で少しだけ自信もできた。


 もっと専門的に勉強してみたい。

 もっとたくさんの知識を得てお洋服作ったりしたいそう確信にもなった。

 


 凪紬くんのカバンには、卒業するまでずっとたろうと同じようにクマちゃんがついてた。


「たろちゃんとお揃いのクマちゃんと一緒に卒業するね」


 卒業式の日にはそんな風に笑ってお互いのカバンについてるクマちゃんとも一緒に写真を撮った。



 ぼくは凪紬くんよりも身長が高い。

 でも凪紬くんの前ではすぐ甘えん坊さんになる、

 何かあったらすぐに凪紬くんに抱きつきたくなる。


「たろちゃんはぼくより身長高いのに甘えたさんだね」

 凪紬くんはいつもそう笑いながら嫌な顔せずに抱き止めてくれる。



 凪紬くんとは大学は別れた。


 お互い進みたい道が違うから、離れちゃう……そう落ち込んだ。

 偶然お互いの希望大学が、同じ駅で徒歩圏内だった。


 それがわかった時は凪紬くんと手を合わせながら飛び上がって喜んだ。


 2人で机を向かい合わせ、お昼ご飯を食べてる時に凪紬くんがお箸を置いてぼくに向き合って口を開いた。

 

「ねぇ。たろちゃんお互い希望の大学に受かったら同じマンションで暮らそうよ」

「いいの?たろうは凪紬くんと一緒だと嬉しい」

「ぼくだってたろちゃんと一緒だと楽しいと思うし、ぼくがたろちゃんと一緒にいたくて誘ってるんだよ」

 

 凪紬くんがぼくの大好きなニコニコした顔で言ってくれた。


 絶対合格して凪紬くんと同じマンションで暮らす新しい目標ができた瞬間だった。


 図書館で隣同士に座って受験勉強してる時も、学校から駅まで帰る道のりでも、2人で絶対希望の大学に合格して同じマンションで暮らそうねと言い合ってた。


 凪紬くんと一緒にいるためその目標がプラスされたことで、より勉強も頑張れた。

 

 凪紬くんは優しくて可愛いのに成績も良くて常に学年一位。

 ぼくのパパとママも凪紬くんに対する信頼は絶大。


 入学式から帰った時に心配そうな顔をしたパパとママがぼくを出迎えてくれた。


 「このぬいぐるみ褒めてもらえた。お友達のクマちゃんを欲しいと言ってくれる友達ができた」

 そう話した時、2人ともほっとしたような顔をしてた。

 


 パパもママも凪紬くんと出会って、ぼくが好きを隠さなくなったし前みたいに明るく過ごせてるのを知ってる。

 2人とも「高校で凪紬くんと出会えて太郎の人生が変わったね」とよく言ってくれる。


 希望の大学に合格したら、凪紬くんと同じマンションで暮らしたいと話した時もすぐに賛成してくれた。


 凪紬くんとパパとママは卒業式の時に初めて会った。

「凪紬くんありがとう。うちの息子を救ってくれて」

 そんなことを言ってた。

 凪紬くんは「ぼくがたろちゃんに救われてるんです」そんな嬉しいことを言ってくれた。

 

 凪紬くんは昔からお医者さんになるって夢があって、医学部に通ってる。

 ぼくは、お洋服を作るための大学に行ってる。

 


 大学に入ってから隣同士の部屋で暮らし始めた。


 朝はお互い1限がある時は一緒に行くことにしてる。

 帰りはバラバラになることの方が多い。


 凪紬くんはお勉強も大変そう。

 ここ数日は、課題が大量とかで凪紬くんあんまり寝れてなさそうだった。


 そんな凪紬くんの邪魔しちゃいけないと思ってここ数日凪紬くんのお部屋に行くの我慢してした。


 そしたら凪紬くんがぼくの部屋に突撃してきた。


「たろちゃん最近ぼくに冷たくない?なんで?」

 テーブルで新しい服のデザインを描いてた、たろうの目の前に腕組んで怒ってる顔してる凪紬くんが現れた。


 いつもニコニコしてる凪紬くんが目を細めて怒ってる。凪紬くんが怒ると怖い。


「冷たくないよ」

「じゃあなんで、ぼくの部屋でデザインしてないの?普段ならぼく部屋で描いてるのに」


 むぅとほっぺを膨らませて怒ってる凪紬くん。


「凪紬くんも課題とかお勉強あるから……たろうが邪魔しちゃだめかな?と思って」


 恐る恐る凪紬くんに思ってることを言ってみる。


「何言ってんの。たろちゃんいない方がぼく寂しんだよ?ぼくを寂しくさせたいの?たろちゃん」


 怒ったままの顔をしてぼくの顔を覗き込んでくる凪紬くん。


「違うよ……たろうは凪紬くんが1番大切だもん。凪紬くんのお邪魔虫になって凪紬くんに嫌われるの嫌だったんだもん」


「もぉ。ぼくだって同じだよ。ぼくはたろちゃんが1番大切なんだからね。クマちゃんもらった時からそうなんだよ」


 ぷうとほっぺを膨らませて拗ねた顔する凪紬くん。


 そんな顔しても可愛い。

 ぼくは、見当違いな感想を抱いてしまう。


「凪紬くんごめんね。たろうきちんと凪紬くんに話せば良かった」

 ごめんなさいと凪紬くんにぺこりと頭を下げて謝る。

「本当だよ。ぼく寂しかったんだからね!今度からこんなことしないでよ」

 

 凪紬くんがそう言ってくれたから、ぼくは嬉しくなって立ち上がって凪紬くんに抱きついた。

 

「そう、そう。たろちゃんはこうじゃなきゃ。ぼくに抱きつかないたろちゃんなんてたろちゃんじゃないよ。ぼくだってたろちゃんが抱きついてこないの寂しいんだからね」


 そんな風に言ってくれた。




 (たろうなんておバカさんなんだぁぁぉぁ――!)

 (絶好の告白のチャンスを逃してるじゃ――ん!)



 あの日のことを思い出して、おバカさん!と自分に言い聞かせる。


 凪紬くんから1番と言われて浮かれて抱きついて、そのまま凪紬くんの手を引いて椅子に座ってもらって新しいお洋服のデザインなんか説明してる場合じゃなかった……。



 (たろう決めた!ちゃんと凪紬くんに告白する!)

 (たろう男だもん!凪紬くんにもたまには男らしいところ見せるんだ。)



 そう決心した。



 

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