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勇者パーティの新人が正義すぎて全部壊した

作者: ぐろ
掲載日:2026/03/22

人族と魔族の戦争は、数百年続いていた。


しかし。


勇者パックスが現れてから

人族の死傷者は、一人も出ていない。


民衆は言った。


彼こそ、真の勇者だと。



魔王城。


黒い魔気をまとった巨体が、グラスを傾ける。


「……これはいい酒だな」


三メートルを超える体躯。角。重圧。


魔王。


その隣で、パックスが慣れた手つきで酒を注ぐ。


「人間界のウイスキーでございます」


「ゴブ酒とは違う。香りがいい」


「でしょう?」


パックスは笑みを浮かべる。


「いやぁ、さすがです。魔王様――いや、お義父さん」


「やめろ」


即座に切り捨てられる。


「まだ正式に結婚はしていない。和解が成立してからだ」


魔王はそう言って、グラスを揺らした。


パックスは軽く肩をすくめる。


「その辺は任せてください。国王とも話はしてます」


そして、少し声を落とす。


「それまでは――いつも通り、傷は最小限で」


魔王は小さく頷いた。


「……ああ」



ふと、魔王が口を開く。


「……お前の剣は通らんだろうな」


「ええ、火花しか出ませんでしたね」


「当然だ」


一口、酒を飲む。


「我の魔気に対抗できるのは、聖魔法を付与した武器のみ」


パックスの目がわずかに細まる。


「それと、右目は見えていない」


「弱点バラしすぎじゃないですか」


「構わん」


間。


ほんの少しの沈黙。


「心臓は右脇腹の下だ」


パックスは、少しだけ笑った。


「……ほんとに大丈夫ですか」


「酒の席だ」


魔王は気にしない。



テーブルの端を指差す。

黒い板。


「何かあれば、それで連絡しろ」


「スマホですね。便利ですよ」



後日。


王城。


「素晴らしいぞ!! 勇者パックスよ!!」


玉座から響く声。


「ここ数年、人族の死傷者はゼロ!!」


「は、はぁ……」


「あと少しだ!!」


国王が拳を握る。


「この数百年の戦争を終わらせるのだ!!」


「……はい」



城を出て。


パックスは空を見上げた。


少しの間、そのまま。


「……今日もだめか」



「今日も魔法、頑張ります!」


元気よく手を上げる少女。


“ 大魔道”シャナ。


魔法適正15。


平均の十分の一以下。


「水魔法なら任せてください!」


ちょろ、と水が出る。


パックスが無言で頷く。


「……乾燥対策にはなる」



「怪我したらすぐ言ってくださいね!」


“ 聖女”エルザ。


だが。


「応急処置は得意です!」


手には包帯と消毒液。

パックスが確認する。


「聖魔法は?」


「……たまに効きます!」



「援護は任せてください」


弓を構える少年、

“ 神弓”ハル。


矢を放つ。


まったく違う方向へ飛ぶ。


パックスが静かに言う。


「任せるよ」



その横で。

目を輝かせる青年。


「勇者様!!」


新人、レック。

国王推薦で勇者パーティ入り。


「あなたの本を読んで育ちました!」


真っ直ぐな目。


「祖父母は魔族に殺されました!」


パックスは一瞬だけ視線を落とす。

ほんの少し。


「……そうか」


「でも勇者様は違う!」


レックは拳を握る。


「無駄な殺生をしない! 人を守る!」


パックスは小さく呟いた。


「……やめてくれ」



世界一のポンコツパーティと

馬鹿にするものもいた。


“ 大魔道”シャナ

“ 聖女”エルザ

“ 神弓”ハル


三名は勇者パーティ選抜において


圧倒的最下位の成績だったが、

勇者の鶴の一声により

パーティ入りする。


「まさか」

「勇者殿正気ですか」

「とんでもない暴挙だ」


そんな声もあったが

パックスの実績により

次第に声は少なくなっていた。



後日。


戦場。


東門。


予定通り、人族が攻め入る。



魔族側。

最前線に立つのは――


魔王軍四天王。


戦慄(せんりつ)のポワロ。


魔王に仕え五百年。

戦場を統べる参謀。


その存在だけで、人族を震え上がらせる魔族。


その背後に、三つの気配。


激昂(げっこう)のパルス。

残穢(ざんえ)のピサロ。

漆黒(しっこく)のポイズン。


四天王。


魔王軍最強の象徴。



ポワロが口を開く。


「人は脆もろい」


低い声が響く。


「手加減しろ」


部下たちが一斉に頷く。


「急所は禁止。致命傷も避けろ」


一拍。


「予定通りなら、一時間で終わる」


誰も逆らわない。

それが、この男の威厳いげんだった。



やがて。


パックスが前に出る。

ポワロと視線が交わる。


わずかな沈黙。


ポワロが近づく。


「……例の物は?」


周囲に悟られないよう、パックスが差し出す。


一冊の本。


ポワロの指が、それを受け取る。


表紙を見た瞬間。

ほんの一瞬。


表情が崩れた。


「……新刊か」


「はい」


パックスが小さく頷く。

ポワロはページを一枚だけめくる。


止まる。


閉じる。



かつて。


魔王の娘プリンと勇者の婚約を聞いた時。


ポワロは、言葉にできない感情を抱えていた。


怒りとも、諦めともつかないもの。


そこへ現れたのが、勇者パックスだった。


「これ、人族のですけど」


差し出された一冊。

エロ本。


ポワロは拒もうとした。


だが。


数秒後。

ページをめくったあと。

静かに言った。


「……勇者パックス」


「私にできることがあれば、言え」



現実。


ポワロが低く言う。


「……勇者パックス」


「また来週、新刊頼む」


パックスは苦笑した。


「ポワロさんも好きですねぇ」



二人は距離を取る。

剣を構える。


ポワロが問う。


「今日は?」


「東門を少し壊して帰ります」


「了解」


いつもの戦い。

そうなるはずだった。


「勇者様ぁぁぁ!!」


その声が、すべてを壊した。


パックスが叫ぶ


「待て」


レックが飛び出す。


「あなたの戦いを見てきました!!」


ポワロが眉をひそめる。


「誰だ?」


「勇者パーティ新人だ!」


レックが剣を振り上げる。


「あなたは無駄な殺生をしない!!」


「待て」


「だから!!」


「待て」


「俺が討ち取ります!!」


一瞬。


ほんの一瞬だけ。

時間が止まる。


「待て!!」



ザンッ。



血が、飛ぶ。

ポワロの体が崩れる。

宙を舞う首。



静寂。



レックがそれを掲げる。


「討ち取りました!!」



ポワロの首。


その目が。


ゆっくりと。

パックスを睨む。



時間が止まる。



パックスは、目を逸らした。


「……違う」



「勇者様!」


レックが笑う。


「勇者様の教え通りです!!」


視線が刺さる。

まだ、見ている。


「……違うんだ」


ポワロの口が、わずかに動く。


「……これが……貴様の答えか……」



ぐったり。



戦慄のポワロ、死亡。



一瞬の沈黙。


その後――歓声。


「勇者様が四天王を討ち取ったぞ!!」


「すげえ!!」


レックが誇らしげに立つ。



「え?勇者がポワロ様を?」

「話がちがうくね?」

「和解は嘘だったのか?」


ざわつく魔王軍



パックスは動けなかった。


ポケットの中で、スマホが震える。


取り出す。

画面を見る。


パックスの指が、止まる。


(……なんて送る)



数秒。



打つ。



グループチャット


人と魔族の和解大作戦



パックス

すいません

新人がポワロさん殺っちゃいました



激昂(げっこう)のパルス

やばっ



漆黒(しっこく)のポイズン

奴は四天王最強……



残穢(ざんえ)のピサロ

貴様!裏切ったのか!卑怯者が!

殺す、今すぐ殺してやる!

さぁ魔王様ご命令を!



既読が、一斉につく。



一瞬。


沈黙。



魔王

スタンプ(ぴえん)



「……え?」



残穢(ざんえ)のピサロ

メッセージを取り消しました



パックスは空を見上げた



───


後日。


西門。


激昂げっこうのパルスが、豪快に笑っていた。


「おい勇者!」


巨大な斧を肩に担ぎながら、酒瓶を振る。


「今日も持ってきてくれたんだろ?」


パックスは苦笑しながら懐を叩く。


「ええ、もちろん」


瓶を渡す。

パルスはそのまま一口あおった。


「くぅっ……やっぱりこれだな!」


喉を鳴らす。

満足そうに笑う。



この男は、単純だ。


強さと、酒。

それだけでいい。

だからこそ。

ウイスキー1つで、心を許した。


戦場のど真ん中で酒盛り。

後方ではレックが身を乗り出す。


「勇者様、あれは……」


「下がってろ」


パックスは即答した。


一拍。


「今日は穏便に終わらせる」



斧と剣が軽くぶつかる。

演技のような戦い。


「もっと来いよ勇者」


「これでも抑えてますよ」


軽い笑い。

いつも通り。


のはずだった。


その時だった。

後方から、聞き慣れない発音。


「……ᚷᛖᛏᚾᛟᚲ ᚾᛟᚲ」

「ᚨᛒᛋ」

「……ᛉᛖᛏ」


“ 大魔道”シャナだった。

小さな体が震えている。


だが。

その口から紡がれる言葉は。

聞いたことのない音。

意味を持たないはずの響き。


だが。

空気が、歪む。

パックスが振り向く。


「……おい?」


言葉が続く。


古い。

あまりにも古い。

世界に残っていないはずの言語。



大気が軋む。

空間が、ひび割れるように揺れる。

シャナの目が、光る。


禁忌古代魔法。


“ 絶”


音が、消える。

空間が、消える。


そこにいたはずのパルスが。


存在ごと。

消えた。


「……は?」


パックスの声が遅れて出る。


静寂。


酒瓶が、地面に落ちて転がる。


「……え?」


パックスはシャナを見る。

さっきまで、水鉄砲を出していた少女。


シャナは、自身の魔力を感じながら。


「……覚醒しました!!」


パックスは、ゆっくり空を見上げた。


(……なんで今)


「……帰りたい」



北門。


残穢ざんえのピサロが走る。

速い。

とにかく速い。



この男は、忠義だ。


魔王の強さを、誇りとしている。

だからこそ。

それを語った勇者を、受け入れた。


「見えるか、人間ども!」


残像が幾重にも重なる。

兵士たちが混乱する。

パックスも目を細めた。


「……さすがだ」


撤退を口にしかける。

その瞬間。


「任せてください!」


“ 神弓”ハルが弓を引く。


「無差別流星群!!」


空に放たれた矢。

数百。

無秩序に降り注ぐ。


しかし、

当たらない。

誰にも。

すり抜ける。


「……当たらないな」


パックスが呟く。


ピサロが笑う。


「遅い!」


避ける。

避ける必要のない攻撃を。


その先に。


一本。

矢が。

刺さる。


「……は?」


時間が止まる。


ピサロが、自分の胸を見る。


崩れる。

そのまま、倒れた。


静寂。


ハルが嬉しそうに。


「……当たりました!!」


パックスは目を閉じる。


(……やめてくれ)


「……帰りたい」



南門。


漆黒のポイズンが爪を振るう。


「これが我の毒だ」



この男は、欲だ。


地位。

名誉。

それを餌に、繋いだ。


パックスが大袈裟にのけぞる。


「ぐっ……!」


少しヒリヒリする。


それだけだった。


「効いたか?」


「……ええ、それなりに」


軽いやり取り。


――まだ、戻れる。

そう思った。


「勇者様!!」


レックが叫ぶ。


「危ない!!」


「いや別に――」


言い終わる前に。


シャナ、ハル、レック。


三方向からの連携攻撃。


ドン。


ポイズンが吹き飛ぶ。

動かない。


「……え?」


パックスは立ち尽くした。

エルザが駆け寄る。


「大丈夫です!」


消毒液を取り出す。


「ヒリヒリ、消しますね!」


「……ありがとう」


パックスは空を見上げた。


(……全部、壊れた)


そして。


魔王城。


門が開く。

そこにいたのは。


圧倒的な存在。


魔王。


空気が、変わる。

重い。


兵士たちが足を止める。

震える。

本能が拒絶する。


レックが前に出る。


「こいつが……魔王……!」


剣を握る。


「倒す!!」



突撃。


ハルも矢を放つ。

当たらない。



魔王が、腕を振るう。


それだけで。

レック、ハル、シャナ。

まとめて吹き飛んだ。



「……小賢しい」


パックスだけが残る。

その時。



頭の奥に声が響く。


『パックス』



魔王の声。


念話。



『我は長く生きすぎた』


『人を殺めすぎた』


パックスは、何も言えない。


『我を殺せ』


『英雄となれ』


喉が、詰まる。


『プリンを……頼む』


パックスの手が震える。


エルザが剣に触れる。


「……いきます」


淡い光。

聖魔法。


パックスが踏み込む。


剣を振るう。

初めて。


魔王の身体に

傷が入る。



「……やっぱりか」


右へ回る。

死角。

懐。


(聖魔法がなければ通らない)


(右目は見えていない)


(心臓は――)


踏み込む。


「……全部」


剣を突き出す。


「あなたに教えてもらったことだ」



心臓を貫く。

魔王の体が揺れる。


その時。


「待ってください!!」


レックが、立ち上がる。

足は震えている。

血で汚れた顔。


それでも。

前を向く。


「……なんだ」


パックスの声は、低い。


「分かりませんか!?」


レックの声が、裏返る。


「魔王が……泣いてる!!」


静寂。


パックスが、視線を向ける。


魔王。


巨大な体。

胸には、剣。

血が流れている。


その顔。


確かに。

涙が、流れていた。


「……ああ」


短い返事。


レックが、叫ぶ。


「だったら――」


言葉が詰まる。

息が荒い。


それでも、絞り出す。


「和解……できるんじゃないですか?」


誰も動かない。


「これ以上、血を流して……」


声が震える。


「何になるんですか!!」


その声は。


戦場に、響いた。

兵士たちが、顔を上げる。


魔族たちも、動きを止める。

レックが、一歩踏み出す。


「俺のじいちゃんも、ばあちゃんも……」


歯を食いしばる。


「魔族に殺されました!!」


空気が、張り詰める。


「だから、俺は……」


拳を握る。


「ずっと、魔族は悪だって思ってた!!」


涙が、落ちる。


「でも!!」


叫ぶ。


「勇者様は違った!!」


パックスの肩が、わずかに揺れる。


「誰も殺さない!!」


「誰も死なせない!!」


声が震える。


「それでも、戦ってた!!」


一歩。

また一歩。


「俺……」

息が詰まる。

「それが、正しいと思ったんです」



沈黙。


「だから……」


周りを見る。


人族の兵士。

魔族。


「もう、やめませんか?」


その一言。


カラン。


誰かの剣が、地面に落ちた。


一人。

また一人。

武器を、手放す。


魔族側でも。


槍が、落ちる。

爪が、下がる。

誰も、動かない。


ただ。

立っている。

血の匂いの中で。


レックが、震える声で言う。


「戦争って……」


涙が、止まらない。


「勝つためだけに、やるんですか……?」


パックスは、何も言えない。


魔王が、かすかに息をする。

苦しそうに。


レックが続ける。


「僕……」


声が、震える。


「間違ってますか?」


長い沈黙。



風の音だけが、通る。

パックスは、目を閉じる。



(……ふぅ)


ゆっくりと、目を開ける。


そして。


「……いや」


静かに。


「正しいよ」



~完~


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