第2話 波乱の始まり
第一章は獣人の村編です!
第2話 波乱の予感
「高ーい!」
「もうっ……レストワちゃん。暴れちゃダメだよ」
レストワを背中に抱えながら、真紅の髪を高めのサイドで結んだ俺の妹のクラリーセ・ノワールが言った。そのクラに抱えながらわー!と喜んでいるのはレストワ・パドーラ。金色の髪を持つ、15歳の町娘だ。そして、俺はエルヴィン・ノワール。クラの双子の兄だ。俺たちは今、魂狩りに向かっている。俺とクラは死神だ。そして、死神は、数日間に1度、魂を食べないといけない。魂を食べないと、体に不調が起こり、熱等を出しやすくなる。
「……あったぞ」
「あの色……人の……?」
「人間の私には魂すら見えないよ」
レストワには見えていないが、目の前にある魂は人を表す赤色をしていた。降り立つと、そこには、男性の死体があった。
「これは……」
「し、死んでるの……?」
「魂が浮いてるし、確定だね……」
怯えるレストワをクラが抱きしめて落ち着かせる。その間に俺は死体の確認をした。ちぎれかけた首は噛み付かれた痕があった。この近辺に人の首を噛みちぎれるような動物やモンスターは居ない。ここら辺の森は比較的、穏やかな気候にある。という事は……
「……獣人」
ぽつりと呟くと、クラが反応を示した。
「獣人族、確かここら辺に住んでる種族だよね?」
そう、獣人族。獣の耳と尻尾を生やした死神と同じ異種族の1種族。力強い顎の力や鋭い牙を持っている種族だ。
「……温暖で人を殺すのが禁止されてる獣人が殺したとなれば大事だな。……取り敢えず行ってみようか。獣人の村に」
「うん。……あっ、そうだ、レストワちゃんはストロベリー・ノワールに帰っててよ。これからは危ないかもだし」
クラが優しくレストワに言う。レストワは黙りこくったままだ。人の死に関わったことが無いレストワにこの現場はあまりにも悲惨だろう。だが、クラの申し出にレストワは首を横に振った。
「やだ。私も一緒に行く。だって、何かあったら、エルヴィンとクラちゃんが守ってくれるもん」
「人任せな奴だな……」
呆れる俺をよそにクラは心配そうだ。
「でも……本当に大丈夫?今なら戻れるけど……それに、お父さんとお母さんが心配するんじゃない?」
クラの心配の言葉にレストワはいつもの元気っ子の顔で答えた。
「大丈夫だよ!ママとパパには、暫くストロベリー・ノワールに泊まるって言ったから!」
なんて勝手な事を言っているんだ!ため息を吐く俺に対して、クラはめちゃくちゃ納得していた。
「……はぁ、もういいか、行くぞ」
「うん」
「はーい!」
ー
「なんだか、薄暗いね」
レストワは周りを見渡す。
「獣人の村が近づいてる証拠だ。ここは獣人の森って呼ばれてるな」
カンテラを持ち先導している俺は言った。周りは薄暗く、獣人の森で見れる特有の青の果実により、森は青く淡い光に包まれている。なんだか、お化けでも出そうな雰囲気だ。暫く歩き続けていると、やがて、青い花で彩られたアーチが見えてくる。そのアーチをゆっくりとくぐった後だった。
「誰だ?お前たち」
目の前に、ツギハギのフードを着た青髪褐色肌の獣人の少年だった。手には青色の装飾が施された剣が握られており、俺に向けられていた。クラは初対面の人に怯え、レストワと俺の後ろに隠れている。
「俺は、エルヴィン・ノワール。死神だ。魂狩りをしていたら、獣人に殺されたであろう男性の遺体を見つけた。その確認をする為に来たんだ。怪しい者じゃない」
「…………」
少年は値踏みするかのような視線を向けてくる。そして、ふと少年が口を開いた。
「お前、男か?」
「……?そうだけど……」
何言ってるんだこいつ。容姿と声で分かるだろ。
「エルヴィンは男の子にしては声高いと思うよ。あと、髪も長いから、人によっては女の子に見えるかも、あと、身長も低めだし」
レストワ、最後だけ余計なお世話だ。
「この獣人の村には、男の争いは決闘で決めるという決まりがある」
「つまり、村に入りたきゃ、決闘して俺が勝てって事か」
そうだ、と少年は頷いた。剣を少年が構えると、俺も鎌を構えた。
「なぁ、戦うんだから、君の名前を聞いてもいいよな?俺から名乗って不公平だ」
「………………ガイスト・シュヴァルだ」
ガイスト。なるほどな。俺はしっかりと鎌を持つ。
「レストワ」
「はい!なに?」
「審判してくれ」
そう言うと、レストワは頷いて俺とガイストの真ん中に立つ。
「じゃあ……えっと、最初に倒れた人が負けって事で…………始め!」
一気に俺は駆け出した。ガイストも同じだ。浮遊してガイストの後ろに回り込んで、鎌を振るが、剣で受け止められ、流される。逆に剣を振られるが、後ろに後退して避ける。それから畳み掛けるようにガイストは斬撃を浴びせてきた。正直、耐えるので精一杯だ。少し斬撃が弱まった所で後退する。その時、俺の髪を結っていた黄緑色のリボンが切れ、俺の髪がはらりと解けた。
「……っ」
俺の髪はそこそこ長い。髪が邪魔で動きづらい。そのまま斬撃を食らわせられるかと思ったが、ガイストは動かなかった。何故かずっと俺を見つめている。なんだかよく分からないけど、チャンスだ!俺は地を蹴ってガイストの首元に鎌を当てた。
「……はぁ」
なぜため息を吐く。あ、負けたからか。というか、あの時動かれてたら、やられてたのは俺の方だったな。運が味方してくれたのだろうか。
「……俺の負けだ。エルヴィン、お前の勝ちだ。村に入るのを許してやる」
なんだ?こいつ、凄いちょろちょろ見てくるんだけど……どうして、レストワは笑ってクラはニヤニヤしてるんだ?……なんなんだこいつら。
その後、俺たちはガイストの案内の元、村長の屋敷へと向かった。どうやらガイストは村長の息子なんだとか……。村だと権力があるようだ。ガイストの案内で村長の部屋の前にくる。
「親父、客だ」
「……入りなさい」
一瞬の沈黙の後、そんな声が聞こえ、部屋に入る。部屋には、髭を伸ばした貫禄のある男性が座っていた。ダンディな感じだ。俺も将来はあんなかっこいい大人になりたいもんだ。
「初めまして。私はポルター・シュヴァル。この村の村長だ」
ポルターは深々とお辞儀をする。几帳面な人なんだな。慌てて俺もお辞儀を返す。椅子にかけるよう言われ、クラとレストワと一緒に座る。
「さて……今回はどのようなご要件で?」
早速本題か。
「魂狩りをしていた際に、首を噛みちぎられた男性の遺体を見つけました」
「ほう……」
「それで、この森に人の首を噛みちぎれるような生き物は顎の力が強い獣人族しか居ないと思い、訪ねて来ました」
急に殺された人の死因は獣人にあるなんて言われたら流石に怒られるだろうか?理由はしっかりしてると思うんだけど……怒鳴られる覚悟だったが、ポルターは静かにじっと聞いてくれた。
「成程……理由は分かりました。ただ、獣人の村の獣人は人を殺しては行けないという掟があります。その掟を守らない獣人がこの村に居るという事になってしまいますね」
ため息混じりにポルターは言う。この日は、ポルターが手配してくれた宿で1夜を明かした。
ー
「きゃあああああああ!!!」
朝、悲鳴と共に飛び起きた。寝間着のまま宿の外に出て、悲鳴の元へ向かう。そこには、首がちぎれた遺体があった。




