深夜の決着
「あっと、北区で動きがありました!5区で女性党候補が一気に逆転しています!」
第一次産業と言う、この町では比較的高所得層の多い地域である人間の多い北区。高所得層が保守的とは限らないが、自分たちの地盤を守りたいと言うのは不自然ではない。
女性党とて第二次・第一次産業優先と言う方針は変わっていないが、それでも女性党が勝利すれば自分たちの特権に近い仕事が他人にも与えられると言うのは変わらない。
専門家としての沽券。自分たちこそが女性だけの町を支えているという意地。
最近では第二の女性だけの町への出張と言うか出向も増えているし人手不足なのはわかっているが、それでも自分たちの意地を見せたいはずの人間が多いはずの北区をしてこれだった。
「北区と西区は民権党が強いと言われていましたが…」
「どうも女性党の政略が功を奏しているかもしれません」
「政略と言いますと」
「女性党は当初から西区を捨て、北区も比例一人とこの5区の勝利を狙っていました」
「4区じゃないんですか」
「4区は3区の議員さんの影響力が強く元々当て込んではいなかったようです。実際東区の1区も民権党が優勢ですし」
「民権党は…」
「政権与党として少し油断があったのかもしれません。ましてや民権党はそれこそ町中を回らねばなりませんでしたから」
政治評論家と言う肩書のくっついている、外の世界から来たと言うその女性の言葉は実に興味深い物だった。
党利党略と言えば聞こえは良くないが、それでも正しい意味で選挙戦を正確に戦っているのは女性党だった。
そして。
「女性党、北区比例代表で1議席獲得です!民権党は北区独占はなりませんでした!」
「女性党が東区2区で当選確実が出ました!5区もかなり女性党が押し、ああ女性党が取りました!」
「南区4区でも女性党が取りました!」
優勢だった区や得票の4分の1も取れば議席が取れる比例代表とは言え次々と女性党が議席を取って行く。
民権党も北区1区、西区5区、南区2区と議席を取っているが、万歳三唱の声が明らかに小さい。
現状、当選確実は民権党が北区の1~4区と西区の全部、さらに中央区と南区の2区。
一方女性党は東区の2~5区と中央区及び南区の4区。
さらに比例代表では民権党が西区独占へと驀進し北区も勝利は確定的、他3区でも最低1議席の確保は堅い。
女性党は東区独占は難しい情勢で西区はゼロ議席の可能性が高い—————
と並べると民権党優勢に聞こえるが、民権党の候補たちに笑顔はない。
「現状激戦区は…」
「北区5区に南区の1・3区、中央区の1・3・5区及び南区・中央区の比例代表3議席目です」
「南区の5区は」
「5区はどうでしょうか…ああ民権党がかなり有利になっています。ここは女性党もかなり力を入れていましたがやはり正道党事件が今でもかなり影響力を持っているようです」
午後10時現在、民権党の当選確実は小選挙区11議席と比例代表8議席、女性党の当選確実は小選挙区6議席と比例代表4議席。
残る11議席の内北区比例代表は民権党が女性党の3倍の得票を得られる情勢ではなく2対1で固まりそうであり、東区1区は民権党優勢である。
要するに残る9議席が問題だが、その中で現状民権党が唯一威張れそうなのは南区の5区ぐらい。
だがここはかつての正道党事件で入町管理局の職員が四文字名を背負って死刑になった不祥事もありその事件を解決した水谷町長への支持が厚くその分民権党への支持も大きい場所であり、女性党もそれほどまで期待していなかった。
要するにそういう場所でしか勝てていないのだ。
人口が人口だけに1票2票が重くなり、160人の議員に向いていた票がどこに行くかどちらも落ち着かない。事前の議席数通りならばとか言う今となっては繰り言に過ぎない言いぐさを両党とも口にし、祈りを捧げている。
やがて「予想通り」であった東区1区と北区比例区が決まり、これにより民権党の半数である20議席の獲得が確定。五分五分ならば町長の分だけ民権党が有利であるから政権の維持は出来る事からして、民権党の「敗北」はなくなった。
だが民権党からしてみれば戦前200分の117議席を持っていた事から、5分の3に当たる24議席は取りたい。女性党もまた16議席は取りたいし、そこがお互いの勝敗ラインだった。
残る9議席の争いを見守るべく、民権党・女性党本部の議員もキャスターも力を振り絞る。
気楽だったのは当選を決めた議員と、逆に当選の見込みがなくなった比例区3位の人間たちだけだった。
そして、午後10時20分。
「当選確実出ました!中央区1区、民権党が取りました!」
開票率77%にして、やっと当選確実。
万歳三唱が鳴り響き民権党の多数が確定した瞬間だった。
それでも、民権党本部に笑顔はない。
まるで喜ぶと言う事自体が悪であるかのように、唇を噛み締める。
改めて政権与党と言う名のかじ取りを迫られる事への不安か。それとも目標であるあと4議席獲得への不安か。
だがそれでも、とりあえずは支持者は安堵する。自分の支持した政党が今後も政権を取ってくれるのだという安心感と自分の投票が政党を勝たせられたと言う満足感。これがJF党と正道党の事件を通過した住民の偽らざる気持ちであり、女性党支持者でさえも同じ気分になっていた。
そしてそれで疲れて寝てしまった住民からすれば次の日に知らされる真実は、甘美でもあり苦渋でもあった。
「中央区5区の結果が出ました!開票率80%、女性党が取りました!」
「南区1区、開票率82%で女性党の当確が出ました!」
「南区5区…ああここは民権党が取りました!」
午後10時40分、一気に当選確実の文字が並ぶ。民権党は1議席、女性党が2議席。消化試合と呼ぶには緊張の糸を誰も切れさせないまま、じっとモニタを見据える。
いずれにしても民権党には元から有利だった南区5区しか取れない時点で楽観的ではなく、とても勝者とは思えない顔になっている。
—————果たせるかな。
「南区3区、女性党が勝ちました!」
10時50分、開票率87%の時点で250票差。もはや逆転はないと見なされての「当選確実」宣言。
これにより南区小選挙区は民権党の2勝、女性党の3勝。仮に比例代表で民権党が勝ったとしても3区を抑えている女性党の力は強い。南区と言う女性だけの町の玄関が、女性党により占められる事となるのだ。
とどめのように
「北区5区、波乱です!女性党が取りました!」
西区ほどではないが民権党優勢だった北区ですら、女性党が1議席とは言え勝っている。
これが何を意味するかなど、もはや意味は明らかだった。
そしてそのままダラダラと時間は流れ、勝敗についての振り返りが行われたり行われなかったりし、午後11時45分。
「南区比例代表、当選確実が出ました!女性党です!」
最後の当選確実であり、選挙戦が終了した瞬間だった。開票率98%まで行ってやっと当確が出るほどの激戦が終わったのだ。