女性党の躍進
この選挙の要が中央区と南区である事は、どちらもわかっていた。
中央区は誠心治安管理社と町議会を擁する行政・経済の象徴であり、南区は外からの住民が真っ先に訪れる女性だけの町の玄関的存在。東西北区にも門はあるが、一時期入町希望者の九割が南門から町に入っており、現在でも八割近い。
それだけに南門は中央区以上に女性だけの町の顔と扱われやすく、両党の党首も中央区以上に足を運んでいた。
と言うか南区での事前の世論調査が
Q:次回の選挙で投票する予定の政党はどこですか
A :民権党 40.3(%)
女性党 37.6
まだ決めていない 11.5
無回答 10.6
と大激戦そのものであり、20%以上の層がどう動くかで全勝も全敗もあり得る区になっていた。
「お待たせしました。まずは南区からです。
1区ですがいきなりの大混戦です。ほんのわずか民権党がリードしていますが100票も差がありません、未だどうなるかわかりません!」
そしていきなりのこれだった。テレビ中継が入っている民権党も女性党もモニタを食い入るように見つめ、後ろではよその区の当選を祝っていたり祈っていたりする。
「2区は…ああ民権党優勢です。民権王国の西区の影響を強く受けた2区は民権党がこのままで行くと取ります。
4区は逆に女性党有利です。ここはお互い予想通りと言った所でしょうか。
そして5区。ここは…ああ民権党がリードしています!現町長の正道党事件の対応を評価したのか民権党がリードしています」
5区の開票率50%の時点で民権党6割。
文字通りの玄関と言うべき場所が民権党有利。
民権党2:女性党1:混戦1。
だがテレビ局がテレビ局らしくためを入れた所で3区を振る事はわかっているので、民権党本部も女性党本部も誰も反応しない。
「そして3区ですが、おっと女性党がわずかですが有利!こちらも100票差前後ですがどうなるか!」
そして3区女性党有利の報が出ると、両党とも予想通りざわつく。
3区と言うのは各区とも中央に当たりここでの勝敗がどう出るかによって全体の色をも決めるような区であり、それを東区に続き女性党を取るとなるとかなり印象も変わって来る。例え1区を落とし比例代表で負け小選挙区2勝3敗比例代表1-2だとしても女性党の勝ちか引き分けとか言う事になりかねないほどだ。
その比例代表でも民権党と女性党の得票数は開票率50%を越えてなお50票も差がなく、両党の比例1位候補に当選確実が付いただけ。
この上なく楽しい筋書きのないドラマであり、見ている分には実に面白いドラマだった。
そんなドラマは次のそれで一幕を迎える—————。
「そして最後、中央区です」
そして最後、最も重要な中央区。
ましてや中央区の3区は誠心治安管理社と町議会がある区であり、選挙法案で逆に議員選出を辞めるべきではないかと言われたほどだった。いっその事三十九人と言う中途半端な数の方が多数決を取りやすいし良いのではないかと言う意見もあったが中央区だけ四人と言う座りの悪さと人口比から来る一票の格差問題もあり、結局は中央区も5区に分けられる事となった。
1・2区は民権党優勢、4区は女性党優勢。現町長は民権党。と言う訳で3区は民権党有利とも言われていた。
しかし。
「まず3区からです」
勘のいい視聴者は察したかのように背を伸ばし、テレビにかじりつく。
テレビを見る時は部屋を明るくしてなるべく離れて見ろと言う注意などガン無視するかのように、お行儀のよろしいはずの女性だけの町の住民が動いた。
「おっとこれは、民権党ピンチです!現在、開票率50%ですが女性党がリードしています!現在民権党に150票の差をつけており投票率の極めて高い3区とは言えこれはかなり予想外の展開です!」
予想通りであり予想外である声と共に、スタジオがざわつく。
すぐさま民権党本部に中継が飛ばされうつむく党首の姿が映され、女性党本部に切り替えられたと思いきやちっとも表情を変えない党首の顔だけ映してそのままスタジオに戻る。
これに対していくら女性だけの町でも面白くない絵面は撮れないのだと馬鹿にする向きもあるが、同時に評価もされている。そしてその現状を正す気は、民権党にも女性党にもない。誰も争点としていない。
「続いて1区ですが、民権党有利ではありますが僅差です。これはどうなるかまだ予断を許しません。
2区はやはり民権党がかなり有利です。当選確実はまだですがこのままで行けば議席を取れそうです。
4区はやはり女性党が押しています。東区の議員たちも含めかなり熱心な応援もあり民権党は苦戦です」
そして2・4区が予想通りである一方で1区でも女性党有利とまでは行かないにせよ真っ二つ状態である事にスタジオが3区ほどではないがざわつく。民権党の支持基盤である西区に接しているにもかかわらず民権党劣勢気味と言うセンセーショナルで予想外な話は実に刺激的であり、住民たちもこの勝敗の決まる機会を楽しんでいた。
「最後に5区です。
あーここもかなり激戦です。事前情勢でも2ポイントの差もない僅差でしたがその事前情勢でリードしていたはずの民権党が押されています。どうなるか最後まで分かりません」
そして5区に対してもそんな月並みな言葉しか出せないような差であり、視聴率はさらにうなぎ登りになる。
それこそどんな業界に関わる人間でさえも実現できないようなエンタメが、そこにある。
不謹慎ではあるが第三者としてはそんな物であり、JF党に次ぐ過激派政党とである正道党が消え穏健な二政党による政権選択選挙と言う穏やかなそれによる戦いは、傍から見ている分には実に面白い。
いっそ外部に放送権でも売ったらどうかと言う職員もいたが、実現はしていないと言うかそんな事を言った職員が左遷されたとも言うが詳細はわからない。そしてCMになり、CMを出している業者のアピールも進む。その枠を勝ち取った企業にとっては文字通りの大サービスタイムだった。
CM明け。
トイレに行っていた視聴者たちが目を剥くような声がいきなり放たれる。
「あっと、北区で動きがありました!5区で女性党候補が一気に逆転しています!」