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開票速報

「いよいよですね」


 締め切りの午後8時だ。






「北区です」


 いよいよ、始まった。

 

 各選挙区はおおむねひし形になっており北の先っぽが1区、中央部が西から2・3・4区、南の先っぽが5区となっている。

 北区で言えば2区は西区、4区は東区、5区は中央区(および西区東区)との結びつきがあり、西区で言えば2区は北区、4区は中央区(および北区南区)、5区は南区とのつながりが強いと言う事だ。



「1区です。民権党がかなり優勢です。まだ当選確実は出ていませんが現状かなり優勢です。

 2区です、ああここは当選確実が出ました。民権党が議席を獲得しています。

 3区です、ああここもですか。民権党が現状で8割近い投票数を獲得、ここはいわゆる岩盤支持層だったようです」


 次々と出る民権党勝利の報告。


「4区です。ここは民権党がリードですがまだ女性党にも可能性はありそうです」

「5区です、ここは女性党がかなり健闘しています。現状民権党がリードではありますが票の差はわずかに40票弱。この後どうなるかわかりません」


 そして4・5区の不穏な気配。



 女性だけの町の人口は、だいたい二十万人。

 それを五区に分けたのだから大体一区当たりの人口は四万人であり、選挙権を持つのはそのまた八割ぐらいである。投票率もまた低くないとは言え100%と言う事もなく前回の町長・町議会のダブル選挙でだいたい70%程度であるから、投票率70%だとして実際に投じられる票数は一区を五つに割った一小選挙区辺り4500票である。実際に当選確実が発表された3区の候補も、開票率10%の時点での得票は370票しかなかった。

 4500分の40<1%である以上、情勢はまだ何とも言えないのだ。



「そして比例代表の方ですが、現状民権党が優勢ですが3議席獲得は難しいと思われます」

「この点も議論に上がっておりましたね」


 この女性だけの町の拘束名簿式比例代表制で用いられるドント方式とは、各党の得票数を1、2、3…で割り多い方から順に議席を当てはめて行く方式である。


 例えばA党が7500票、B党が7000票の場合A党は2議席、B党は1議席となる。

 しかしA党が12000票、B党が4002票であったとしても、A党は同じく2議席しか取れない。

 3議席全てを獲得するには相手政党の3倍と言うか75%以上の得票を得ねばならなず、それゆえに「勝者が2議席、敗者が1議席」と言う形になりやすく意味が薄れるのではないかと言う批判が少なくなく、1票でも多く取った方が全取りにすべきではないかとかそもそも比例代表の議席を増やして小選挙区を減らすべきとかいっそ全町を対象にすべきとかいろいろな意見があったが結局はこの形で落ち着いた。

 比例代表制の導入には総選挙でない限り議員不在の事態を起こさないようにするためと言う事で満場一致だったのだがどうしても細かい所になると時間がかかるのはどうにもならなかった。



「で、北区の比例代表は」

「現状は開票率40%程度で民権党が6000票、女性党が3700票です」

「このままだと民権党の全勝は難しそうです。女性党はこの北区では確かトータルで2議席の獲得を狙っていたようで、小選挙区のどちらかで勝てば可能な情勢です」

「わかりました。次は西区です。

 1区です。民権党が7割近い得票率であり、これはもう…あ今出ました、当選確実です。

 2区です、ここも当選確実が出ました。やはり民権党が議席を獲得しています。

 3区…ああここは女性党が候補を立てていません。民権党党首の選挙区と言う事もあり無投票当選です。

 4区です。ここも民権党が当選確実です。西区はやはり岩盤支持層と言う事か女性党は大苦戦中です。

 5区です、ここは女性党がかなり健闘していますがそれでも民権党が現状6割以上獲得、このままですと西区は民権党の全勝となりそうです」


 そして混戦の区もあれば、一方的な区もある。西区はJF党時代でも民権党支持者が多かったほどの民権王国であり、女性党は候補を立てる事さえしなかった区さえもあった。


 だから

「比例代表でも民権党が8割以上の票を獲得しており、このままですと西区8議席は全て民権党の物となりそうです」

「女性党は当初から西区については5区と比例代表だけに絞っていたような状態ですね」

 比例代表でも民権党が強かった。


 


「はいこちら民権党本部です」

「現状はまだ楽観はできません。目標議席数に届くか怪しい以上、しばらくは祈るより他ありません」


 それでも、民権党本部に笑顔はない。とりあえず党首の当選が決まり一同ほっとしてはいるが、党首の顔は冴えない。

 その顔こそ、まごう事なき現実だった。




「次は東区です。

 1区は民権党が優勢ですがまだ楽観はできません。現状民権党が55%と言った所でありまだ逆転もあり得ます。

 2区です。ここは女性党がかなり優勢です。当選確実とまでは行かないにせよ既に6割以上の得票を獲得しています。

 3区は、ああ出ました!女性党初の当選確実です!女性党は今日初めて当選確実が出ました!

 4区は女性党が既に当選確実になっています。さすがは女性党党首、選挙戦も楽勝でした。

 5区もまた差は大きくありませんが現在は女性党優勢です。民権党はこの東区、1・2・5区を中心に攻めましたが正直不振です。


 そして比例代表ですがここも女性党が有利です。現状3議席の獲得は難しいと思われますがこのままで行けばとも思えます。ああ既に女性党1位候補に当選確実が出ています」


 果たしてと言わんばかりに、東区で告げられる女性党連勝の報道。

 東区は女性党の岩盤支持層と言う訳でもないが、富裕層とは言えない東区の住民は女性だけの町の拡張や第二の女性だけの町への出稼ぎ労働の拡充を求めており民権党の内向的な政策に反発していた。それをかつて利用したJF党の問題もありそこから十年ほどは五分五分であったが現在は女性党の支持基盤となっており、民権党もアナウンサーが言った3区と比例代表の1議席での4:4が最高の結果だと思っていた。だが現実は得られて2議席である。

 民権党党首の渋い顔も、むべなるかなと言った所だった。

 



「民権党がまさか政権を失うとか」

「そうなったら私は今まで以上に大勢の人間を引き連れる事になるのかな、まあいいけど」


 西区では薫と静香と言う名の婦婦がそんな風に心配し合いながらもテレビを見ていた。

 イベントの少ない女性だけの町において選挙は一大イベントであり、投票に行って外食するとか言う事も珍しくなかった。すやすやと寝息を立てる薫子を横目にテレビにかじりつく二人のような住民たちのおかげで、その日の視聴率はとんでもなく上がっていた。

 



「さてCMの後は南区、そしていよいよ中央区です」

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