第1話 プロローグ
はじめまして、篠宮すずやです。
本作は、
「命を救うことしかできなかった医者が、“命を守るために戦う”と決意したとき、最強になる」
そんなテーマで描く、医療×バトル×覚悟の物語です。
異常事態に陥った世界。
戦う力を持たないはずの医者・神城レイジが、
命を繋ぐ“メス”を、命を守る“武器”に変える瞬間――
その覚悟と信念を、物語に込めました。
医師としての視点。
現役ゲーマーとしての戦術脳。
そして、絶対に守りたい“誰か”の存在。
命を救うことしかできなかった男が、
“戦う”ことを選んだとき、彼の物語は始まります。
ぜひ最後までお付き合いください。
空が、裂けた。
蒼穹に走った黒い裂け目から、異形の咆哮が響きわたる。
その瞬間、世界は静寂を失った。
人々は悲鳴を上げ、町中が恐慌と化す。
まるで終末のワンシーンのような地獄絵図が、眼下に広がっていた。
総合病院も例外ではなかった。
割れた窓、崩れ落ちる天井、泣き叫ぶ患者たち――
“命を救う場所”が、一瞬で“戦場”へと変わっていく。
⸻
「ピピピピッ……!」
胸ポケットのピッチが激しく鳴る。
神城レイジは階段を駆け降りながら、震える指で通話ボタンを押した。
『先生! 今どちらに?! 病院内に……謎の生物が侵入してきました!』
声の主は、看護師のかなめ。
レイジと同じ時期に入職し、何度も一緒に現場を乗り越えてきた仲間だった。
「わかった、すぐ向かう。かなめ、今どこだ!」
⸻
逃げ惑う患者たちの間をすり抜け、廊下を駆ける。
突如、目の前の壁が崩れ落ちた。
立ちはだかったのは、自身の二倍はあろうかという巨体。
鋭く湾曲した四肢、金属のような皮膚、赤く輝く眼。
人でも獣でもない、明らかな“敵”。
(マズい……ここで逃げたら全滅だ)
「かなめ!」
廊下の奥、息を切らした彼女の姿があった。
レイジは一瞬だけ迷い、すぐに決断する。
「俺が時間を稼ぐ! みんなを連れて、早く避難しろ!」
「で、でもレイジ先生っ──」
「いいから行け!」
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恐怖はあった。だが、それ以上に手が勝手に動いていた。
人々を守ることが、医師としての本能だった。
相手の動き、間合い、反射神経。
全身から放たれる殺気と威圧に、心が軋む。
(今まで見てきたボスのパターンに似てる……!)
レイジは**現役の“ガチゲーマー”**でもあった。
培った反応速度、リスク回避の勘、状況判断力。
そのすべてを総動員して、異形に立ち向かう。
⸻
だが、現実はゲームのようにはいかなかった。
攻撃が通じない。
急所を狙っても、異形の構造は人間とは全く違っていた。
(骨格が違う……内臓も……神経の走り方すら……わからない!)
全力の一撃が、金属のような外皮に弾かれ、レイジは壁に叩きつけられた。
呼吸が止まり、意識が霞む。
(……なんっで!ここで、終わるのか……)
⸻
幼い日の記憶が、脳裏をかすめる。
火葬場の匂い。
事故で両親を失い、祖父母に育てられた日々。
医師になると誓ったあの日。
(まだ……恩返しもしてないのに……)
そして、直前の記憶――
避難する直前、振り返ったかなめの声が耳に蘇る。
「……レイジ先生、死なないでください。私はまだ……っ」
(最後の言葉、何だったんだ……思い出せない……)
でも、そこに確かに“想い”はあった。
誰かに必要とされていた。
その一言だけで、胸の奥に残った火が――再び、燃え上がった。
⸻
轟音とともに崩れる壁。
倒れた救急カートから、医療機器が床に散乱する。
その中で、レイジは手術用のメスを見つけた。
手が、自然とそれを握る。
命を救うための道具を、今は命を守るために使う。
深く息を吸う。
全神経を、目に注ぐ。
視界が変わった。
怪物の体が、まるでMRIのように、輪郭と内構造を伴って浮かび上がる。
⸻
(“見える”……違う、“視えている”)
再び異形と対峙する。
これが最後の一撃かもしれない。
メスを握り、首元のわずかな隙間に狙いを定める。
だがそれでも、異形は倒れなかった。
弾かれ、叩きつけられ、それでもレイジは立ち上がる。
何度も、何度も、項を狙い続けた。
──そして。
鋭い閃光のように、最後の一撃が深く突き刺さった。
異形は、崩れるように沈黙した。
⸻
静寂が戻る。
レイジは、血と汗にまみれた手で壁にもたれかかる。
その瞬間――
彼の視界に、青白いウィンドウが浮かび上がった。
【スキル獲得:メディカル・アナライズ】
【対象生命体:解析成功】
【新機能開放──“医療知識を戦術に変換”】
「……遅ぇよ……全く……」
彼はふっと、わずかに笑った。
命を救うだけでは、もう足りない。
だから彼は、戦う。
たとえその身を削ってでも。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
プロローグでは、
「命を救う者」が「命を賭して戦う者」へ変わる――
その“覚悟”の瞬間を描きました。
レイジは、ただの医師ではありません。
現役のゲーマーであり、天才的な観察眼と分析力を持ち、
誰よりも“命”に誠実で、誰よりも“人”を守りたいと願う男です。
ですが、この物語はただの無双譚ではありません。
“命の重さ”と“救えなかった後悔”、
“守るために奪う矛盾”と向き合う、
ヒューマンドラマとしての軸も大切にしています。
戦いの中で、レイジは何を得て、何を失うのか。
そして彼が向かう先にある“本当の意味での救い”とは何なのか。
ここから始まる壮絶な戦いを、どうか見届けてください。
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