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第4章「誰も知らない、りりあの世界・前編」

拙い文章にもかかわらず、ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

本日は第4章「誰も知らない、りりあの世界」の前編をお届けします。


春彦のあたたかさに触れ、りりあは小さな勇気を胸に、新たな一歩を踏み出そうとしています。

その決意と、少女の精一杯の想いを、どうか見守っていただけたら嬉しいです。

窓から差し込む朝日が、今日はやけに眩しく思えた。

それは、りりあの心を照らすように、力強く輝いていた。

「正直に生きてほしい。パパもママも、ずっと君の味方だから——」

春彦の一言に胸を打たれ、自分のふがいなさに涙をこぼした昨夜。


——逃げたくない、守りたいものがあるから。


昨夜までの、か弱い少女に別れを告げ、

固い決意を胸に、登校するりりあだった。


その頃、美沙は昨日のことで気まずさを感じていた。

りりあを見送るその瞳にも、ある決意の色が滲んでいた。


* * *


いつもと変わらない教室の風景、しかし確実に違うものがそこにあった。

一筋の光が、後で蠢く陰に差し込もうとしていた。


「……あの、清美ちゃん。…お話があるの」


「あら~、飛星さんじゃないの♪」

今日の清美は、いつにも増してご機嫌な様子だった。

「……放課後、昨日と同じ場所で待ってる……」

それだけを告げて、りりあは自分の席へと戻っていった。


「なんすかねー、アイツ?」取り巻きの亀井が鼻を鳴らす。

「ふふふ、さあ?またお金でも持ってくるんじゃないかしら♪」

教室中に軽蔑交じりの嘲笑が小さく響いていた。


* * *


夜の訪れを告げる柔らかな光が、校舎を茜色に染めていく放課後。

りりあは再び体育倉庫の裏手に立っていた。


「飛星さん、ちゃんと来てあげたわよ。ご用件は何かしら?」


りりあは大きく息を吸い、まるで何かに縋るようにスカートの端を握りしめ——

「……昨日渡したお金、返してくださいっ!」


その言葉に、笑顔を見せていた清美の目がピクリと痙攣する。

その表情を見る、亀井と岩谷にも緊張がうかがえる。

「……何を言ってるのかしら?まったく意味がわからないわ」

「……あの、昨日パパが言ってたの。“30枚と3枚は違う”って。えっと……」

「だから、この3枚と……昨日の30枚を、交換してください!」


清美が本当にりりあの言葉の意味を汲んでいたかどうかは定かではないが、

しかし、それを確かめる必要もなかった。


「ふぅん…そう…でも、このバッグを買うために使っちゃったから……無いわ」


この言葉の違和感に、りりあは困惑した。

「……え?でもそれ、クリーニングのおかねじゃ……」

思いがけないりりあの鋭い指摘に、清美の自尊心が欠ける音が聞こえた。


「そうよ!クリーニングには出したわ!でも余ったの。だから使っただけ。もらったお金をどう使おうと、わたくしの勝手ではありませんの?」

「そーだそーだ!」亀井と岩谷が援護射撃を入れる。

理不尽な数の圧力にも、りりあは一歩も引かず、言葉を返した。

「でも!パパがっ!パパとママが大切なものだからっ!」


——その時だった、清美の口元が歪む。

「……さっきから“パパ、パパ”って……あなた……

もしかして……おじさん相手にそういうお金の稼ぎ方でもしてるんじゃなくて?」

「ええっ!?!?!?」

亀井と岩谷の吃驚が、静かな倉庫の裏手に響いた。


「……?え?それって……なに……?」


りりあの表情には言葉にできない混乱が滲んでいた。

そう、まだ恋という感情さえ知らないりりあには届かぬ言葉だった。


「うわぁ~~大スクープじゃん!!飛星がヤバいことしてるってさ~!」

亀井と岩谷が大声ではしゃぎ始める。

「なんて……汚らわしい…そんな見た目で。だから大金を……」

清美の見下す視線がいつにも増して鋭く、そして冷たく、りりあの心に突き刺さる。


「まぁ、でもせっかく持ってきたのなら、もらって差し上げますわ♥」


そして、清美はりりあの手に握られた三万円を奪い取った。

「あっ、あぁっ!!」

必死に手を伸ばすりりあを無視し、清美はくるりと踵を返す。

「じゃあね、ありがと飛星さん」

「返してぇっ!!」

その後ろ姿に、りりあは勇気を振り絞って食ってかかる。

パパとママのために、そして自分のために——


「清美さんに気安く触るんじゃねぇよっ!!」


亀井の怒声とともに地面に投げ出され、りりあの身体はその場に沈んだ。

視界が揺れ、音が遠のき、突き刺さるように冷たい風が胸に大きな穴を開けていく。

そして、空っぽになった心が折れる音がした。


「ふん……そんなに殿方が欲しいのなら、わたくしからご紹介いたしますわ」

夕日の逆光に照らされる清美の姿は、細くゆがんだ目だけが鈍く光っている、美しくも恐ろしい異形の影。

呆然と見上げるりりあの目には、もはや人の姿には見えなかった。


「せいぜい、楽しみにお待ちになって♥」


甲高い嘲笑が、あたり一面、重く、冷たく闇に飲み込んでいく。

真っ赤な夕日だけが、それに抗うように煌々と燃えていた。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。


清美たちの悪意の前に、完全に心が砕かれてしまったりりあ。

無垢でやわらかな世界は、静かに、けれど確実に濁り始めていきます──。


次回【第4章「誰も知らない、りりあの世界・後編」】は、【6月1日(日)18時頃】を予定しています。

皆さま、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

※この作品は第13回ネット小説大賞応募作品です。

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