天使の羽根はなぜ白い【相楽蓮太郎1】
特段好きじゃないけど、別に嫌いでもない人って、いるじゃん。誰にでもそういうビミョーな関係の人がいて、時々反応に困ったりする。まぁ、それが肉親っていうのは、ちょっと珍しいのかもしれないけど。
例えば、誕生日に家でくつろいでいたらそいつが突然押しかけてきたらどうする?僕はとりあえず追い返すね。だいたい、無表情で「誕生日おめでとう」って言われても何も嬉しくない。ただ追い返すのは可哀相なので、少しからかってから追い返してやった。
例えば、自分の交遊関係について全くとんちんかんな妄想を恥ずかしげもなく決め付けられたらどうする?あいつの目は腐ってると思ってたけど、まさかあそこまで腐っていただなんて。一体どこをどう見たら僕らが仲良さそうに見えた?理解不能だよ。
特に兄である事を尊敬している訳でもなく、特筆すべき事が何も無いことを罵っている訳でもない。結局、僕にとって相楽荷太郎という人間は血が繋がっているだけの、よくわからない存在だった。
ため息をつくと、斜め左に座っている雅美ちゃんは一瞬喋るのを止めたが、すぐに口を開いて続きを話し初めた。ここに、未だ僕らの事を仲良し兄弟だと思っている奴がいる。
「またお兄さんのことパシリにして!たまにはお兄さんの気持ちも考えて兄孝行したらどうですか?……って店長、聞いてます?」
昼食を食べ終わった雅美ちゃんは、自分で淹れたお茶を飲みながらそうコメントしてきた。にぃぽんが犬を連れて来たとき一番喜んでたのは雅美ちゃんなんだけどな。
返事をするのが面倒だったから、雅美ちゃんの眼鏡を取り上げて天井すれすれまで放り投げてやると、彼女はキャッチしようと慌てて腕を伸ばす。
「何するんですか!壊れたら弁償してくださいよ!」
予想通りの言葉で予想通りに憤慨した雅美ちゃんが可笑しくて少し笑った。その笑みを挑発と受け取ったのか、彼女はさらに腹を立てた。
外で自転車を停める音がした。どうやらリッ君が帰ってきたようだ。店に入ってきたリッ君に、雅美ちゃんがさっそく僕の愚痴を言い始めた。
「聞いてよ瀬川君!店長ほんと酷いんだよ!?私は間違ったこと言ってないのに!」
間違ったことを言っていなかったから何も言えなかったのか。それともにぃぽんを話題にするのが本当に面倒臭かったのか。
兄孝行の仕方がわからないとかではない。だいたい兄とも思っていないんだから、兄孝行もクソもない。
でもまぁ、雅美ちゃんに免じて「友達」くらいには格上げしといてやるか。