Do you remember me?【相楽花音2】
「なぁ来夢、明日暇か?暇だったら久しぶりに兄ちゃんと一緒に……」
「暇じゃない」
バタンとドアを閉めて店長室を出て行く来夢。私はため息を一つついて、落胆している兄に声をかけた。
「またフラれてしまいましたわね」
からかうようにそう言ってみたが、兄から反応はない。椅子に座ってうなだれている。全く、情けない兄ですわ。
兄が妹の来夢を遊びに誘うこと七回。一緒に買い物に行こうだとか、映画に行こうだとか、遊園地に行こうだとか、いろいろ言ってみたが成果はゼロ。今日なんて言い終わる前に断られてしまう始末だ。
と、生きる屍と化していた兄が、何やらぶつぶつと呟きだした。よく聞こえないので耳を近づけてみる。と言っても、私は窓際の椅子に座っていて、お兄様との距離は三メートル弱あるので、近づけたところであまり意味はないのかもしれないが。
しばらくぶつぶつ呟いたあと、兄はガバッと顔を上げてこちらに顔を向けた。突然の生還に私はビクリとする。
「なぁ……、来夢っていつから俺のこと"お兄"って言わなくなったんだ?」
「え、さあ……?」
そう言われれば、来夢も兄のことを"お兄"と呼んでいた時期があった。それがいつから、実の兄のことを"店長"と呼ぶようになったのだろう。まぁ、私のことは今も"お姉"と呼んでくれているので、あまり気にはしていないが。
「俺なんかしたのか……?なんか来夢に嫌われるようなこと……」
「たぶんただの反抗期ですわよ。そのうちまた喋ってくれるようになりますわ」
励ますようにそう言ってみたが、兄は納得しなかった。疑わしそうにこちらを見ている。
「それはねぇだろ。だってお前反抗期なんてなかったじゃねぇか」
「私は素直な子供でしたもの。それに、私とお兄様は割合歳が近いですし、一般的に見れば仲のよい兄弟だったのではありません?」
といいますか、お兄様と喧嘩したら蓮太郎さんに会えなくなるから不満があっても我慢していたのですわ。私が一人で朱雀店に行くと、必ず蓮太郎さんはお出かけ中。そのうち避けられているのだと悟ったが、そうなると頼りになるのは兄しかいない。私にとって兄との不仲は死活問題なのだ。
そんな私の心の内を知らずに、私に好かれていると思っているお兄様、なんて憐れ。
妹なんて、イケメンでかっこよくてスポーツができるくらいの兄じゃないとそうそう好きになどならないものだ。
「お前が素直だったかはさておいて、まぁ確かに……。つまり歳が離れてんのがダメなのか?」
「思春期ですわよ。来夢も一応女の子ですのよ」
「そんなことはわかってる。来夢は世界で一番かわいい女の子だ」
「わかってないじゃありませんの……」
私の呟きに「?」を浮かべる兄。ほとほと呆れますわ。
来夢だっていつまでも小さな妹ではないのですよ。来夢はもう高校一年生。立派な大人ですわ。
それをいつまでもかわいいかわいいと言って子供扱いするから……。私のことは早くから気にかけなくなったくせに。
といいますか、もう一人の妹の前で片方の妹が世界一かわいいと言いますか。へぇそうですか。
「お兄様と話していると疲れます。私もお昼をいただいてきますわ」
それだけ言ってさっさと部屋を出る。店長室にぽつんと残ったお兄様は何を考えるのでしょう。
こんなにかわいい妹が二人もいるのに、全く呆れたお兄様!