9 聖獣召喚の儀とは②
次の日。
王太子のルートロックは、側近のサルフに頼んで妃教育の合間に婚約者のアラマンダを執務室に呼び寄せた。
「アラマンダ、妃教育は順調だと聞いている」
「恐れ入ります」
(彼女は優秀ですぐに記憶してしまうから、予定よりも早く妃教育が終わりそうだと報告を受けているけれど、それには触れないでおこう)
ルートロックは、いとも簡単になんでもこなしてしまうアラマンダは素晴らしい女性だと、改めて日々感じていた。
「今日、ここに呼んだのは聞きたいことがあってな。 婚儀の前に執り行う儀式についてだ」
「はい。存じております。 ルートロック殿下、王太子妃となるものは聖獣を召喚してから婚儀を行うって本当でございますか?」
(なんだ……もう既知の情報だったか。側近のサルフが彼女にもう説明していたのだろうか……)
ルートロックはアラマンダに詳細を説明しなくても、すでにどんな儀式を行うか知っていたので少し驚く。
「ああ、本当だ。 王太子妃になる女性は、婚儀の前に聖獣の召喚を行うという儀式があるのだが、ここ数百年、王太子妃となる者で聖獣を召喚できたものは記録を見る限り存在しない」
ルートロックは、自分の後頭部の黒髪をなでながら、成功率の低さについて言及する。
「左様でございますか。 簡単に召喚できるわけではないのですね」
「私は、この『聖獣召喚の儀』をそなたにやってもらいたいと考えているのだが……執り行ってもいいだろうか?」
そこまで、ルートロックが言うとアラマンダはうふふふと笑う。
「ルートロック殿下は、私が失敗して落ち込むことを心配なさっているのですか?」
「いや。そうではないが、そなたの意志を尊重したいと思って、確認の為、聞いてみたのだ」
独断で何でも決めてしまう部分があるルートロックにしては珍しく、婚約者ができたことでアラマンダの考えを汲みたいと思うようになっていた。
「それは、お気遣いどうもありがとうございます。この儀式は創世記に記載されていることなのでしょう?」
王族しか知りえない情報をなぜ知っているのかと、一瞬、ルートロックは目を瞠る。
(なぜ、創世記に記載してあるのだと彼女は知っているのだ?)
「そんなに驚かないで下さいませ。王太子妃となる者は婚約後は禁書庫に入室できますので、創世記に目を通しただけですわ」
「そなたは……あの分厚い本の中に記載されている召喚の儀について、もう目を通したというのか?」
「えぇ。もちろんですわ」
ルートロックは、忙しい王太子妃教育の合間のどこにそんな読書をする時間があるのか、彼女の能力の高さに驚きを隠せない。
(彼女の知識欲には目を瞠る物がある。何でも自ら情報を手に入れてすぐさま知識に変えてしまうのは、誰にでもできることではないからな。あぁ、そんな彼女だから私はすぐに恋に落ちてしまったのだが)
ルートロックは、自分の今まで経験したことがない恋情が、心の底から泉のようにどんどん溢れてくるのを自覚する。
(彼女を知れば知るほど、好きになってしまいそうだ)
ルートロックは、彼女の翡翠色の瞳を見つめながら、感じたことのない湧き出る感情を噛みしめていた。




