8 聖獣召喚の儀とは①
知的でルートロックの策略を逆手に取って自らの手で幸せを呼び込んだ、ヘルムント辺境伯の一人娘、アラマンダ=ヘルムント。彼女が王太子妃に決まり、婚約を無事に終え、あとは婚儀を迎えるだけになった。
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「ルートロック王太子殿下。お尋ねしたいことがございます」
側近のサルフは、婚儀前の確認事項としてルートロックの執務室で事務作業を行っていた。
「ルートロック殿下。先代も先々代も失敗してしまいましたが……」
「サルフ……何の事だ? えらく歯切れが悪いではないか」
途中まで言いかけたのに、声が尻つぼみになっているサルフにルートロックは笑いながら、先を促す。
「恐れながら、婚儀の前に『聖獣召喚の儀』を行う習わしがありまして……」
「あぁ、創世記に記されている召喚の儀だろう? それがどうした? 魔法陣に問題でも起きたのか?」
ルートロックはサルフが何を躊躇っているのか、皆目見当もつかない。
「ここ数百年、王太子妃になられる方はこの『聖獣召喚の儀』を執り行っておりますが、何も召喚できておりません。それでも、ルートロック王太子殿下はこの儀を執り行いますか?」
「ふっ。 なんだそんなことか」
ルートロックは、やっとサルフの言いたいことを理解し苦笑する。
時間をかけて行うのにも関わらず、何も召喚できないこの儀式を本当にやる意志があるのかと確認しているのだ。
「別に失敗してもいいではないか。王太子妃となる者が何も召喚できなくとも、私がすでに聖獣を召喚できているのだから特に問題はないだろう? 時間はかかるが、創世記に記載されている婚儀前の手順であれば何かしらやる意義があるに違いない」
「左様でございますね。それでは近日中に儀式を執り行えるように取り計らっておきます」
そういうとサルフは、執務室を後にした。
(創世記に記載されていることはやっておくべきだ。 何かしらの恩恵を受けられる可能性もある。 やってみてダメなら納得だが、万が一、聖獣召喚に成功できれば、この国は更に強固になるだろう。しかし、その恩恵が何だったのかは……思い出せないな。 後ほど創世記を禁書庫から探し出して目を通しておくか)
ルートロックは、深夜遅くに禁書庫内で、王太子妃がなぜ『聖獣召喚の儀』を行うようになったのか、言い伝えと、手順、そしてその意味を確認しておいた。




