75 【挿話】メオへの恋情
ガルーム第二王子とナトラ王国の護衛二名が貴族学院に登校した初日のこと。
門の前で、ナトラ王国の王子の学院生活を補佐する為にアラマンダとフレッドは展開されている魔法陣の上に個人情報と顔認証を登録させてほしいと伝えた。
ナトラ王国からやってきた三人に順番に魔法陣の上をゆっくり通って欲しいとお願いをしてから通過してもらった。
(にゃ? 何か知っている気配とは思っていたけどにゃ……)
魔法陣の上を通ったナトラ王国の三人のうち、一人にバグが発生したことを瞬時にメオは察知する。
(なるほどにゃ。あいつは偽名を使っているのかにゃ)
護衛の一名が偽名を使っていることを理解したメオは、仕方がないと偽名のまま魔法陣の上を通過できるように魔法陣の登録を上書きしておく。
(まぁ、偽名を使っているけれど……悪さをする為ではないなら良しとするにゃ)
メオは、何食わぬ顔でアラマンダとフレッドともに自己紹介を済ませて、数日はアラマンダの後ろについてナトラ王国の三人と行動を共にして過ごしていた。
■■■
数日後。
ナトラ王国の護衛の一人、ムガタと名乗る男性が制服姿も可憐なメオに声をかけて来た。
「メオ様。恐れ入りますが、あちらでお話することはできますでしょうか」
ムガタは、学院の庭園に設置してあるベンチを指し示した。
「……はい。構いませんわ。アラマンダ様も、今はガルーム様と打ち合わせ中のようですし、見える範囲でしたら構わないのでしょう?」
「はい」
アラマンダとガルーム第二王子は、治水事業を両国でどう行ったら良いのか地図を広げて、講義後に話し合っている。ガルーム王子のすぐ横にある窓の外にあるベンチに来て欲しいとのことなので、何ら問題はないだろう。
メオとムガタは、一本の木の下にぐるりと円形で作られているベンチまでやって来て、話を始める。
メオはベンチに座り、ムガタはメオの方を見つめたまま立っている。
「メオ様……。私のような者が話しかけるのも大変恐縮なのですが、お久しぶりでございます。ずっと、あなたにお会いする日を心待ちにしておりました」
メオは、すぐさま自分とムガタの周りに防音の結界を展開させる。
「ムガタ様……前にお会いしたのは三百年ほど前かしらね」
メオは、声色は美女のまま会話を続ける。猫の姿ではないから女性らしい言葉で話そうと思っているのだろう。
「ええ。ちょうど298年前です」
「相変わらず素晴らしい記憶能力ですわね」
「ははは。メオ様限定ですよ」
ムガタがぴったりと何年前か返事をするので、メオは少し驚いた。その表情を見て、ムガタは嬉しそうに微笑み返す。
「メオ様は、もうすでにレベル9999を超えていらっしゃるのですね。さすがでございます」
「いいえ、ムガタ様も相当レベルが上がっていますわよね。先日、魔法陣の上を歩いた時にとても懐かしい魔力だなぁと感じましたもの」
メオが、ムガタの魔力を褒めるとムガタは頬を赤く染める。
「お褒めにあずかり光栄にございます。いつもメオ様の後ろ姿を追いかけておりますが、なかなか追いつくことができません」
「私などを追わなくても、他にすぐれた者がおりますでしょう?」
(以前から、我の真似をよくしたり本当に健気なやつにゃ……)
メオに対しては、ムガタはいつも熱い想いをぶつけてくる。一途な性格なのかもしれない。
「いえ。私の中ではメオ様が一番なのです。愛してやまない存在なのです」
「そうですか。ありがとうございます」
メオは軽くお礼だけを述べておくことにした。
神々の中でも恋愛をして、夫婦になる神もいる。ひょっとしたらムガタも伴侶を求めているのかもしれない。
「ムガタ様……あなたは男神でございましょう? でも、私は男神でも女神でもありませんの。性別はありませんから、もし良き伴侶を探していらっしゃるのでしたら私は不向きですわ」
(今の女性の姿で言っても、説得力が欠けるけれど仕方がないにゃ)
「メオ様に性別が存在していないことは百も承知です。それでも、何百年経とうと想いは変わりません。別に伴侶になって欲しいとかではなく、ただお慕いだけすることをお許しいただければそれで充分なのです」
「……それは、構いませんよ」
(心の中で慕うだけなら、別に問題はないにゃ。変な懸想をしたりさえしなければ問題ないにゃ)
メオは、害がないなら好きにしたら良いと思って、慕うことは構わないと伝える。
「メオ様! ありがとうございます!! 再び、こうしてあなた様の傍に近づくことができるなんて思っておりませんでした!!」
話をしている内に興奮したムガタは、片膝をついてベンチに腰かけているメオの手を取り唇を手の甲に寄せた。
ビリビリッ
メオは、学院で取るべき行動ではないので電気を走らせて威嚇するが、さすがに相手も神様だけあって電気が流れようとビクともしない。
「あ~、素晴らしいピリピリ感ですね。ありがとうございます」
「ムガタ様。ここは学院ですのよ? 早くお立ちいただけますか?」
「申し訳ございません。お慕いしても構わないとおっしゃっていただいたので、興奮してしまいました」
悪い神ではないけれど、ちょっと極端すぎる。
ムガタは慌てて立ち上がるとニッコリ微笑んで、ベンチに座っているメオに手を差し伸べる。
「さぁ、では戻りましょうか。メオ様」
「……はい。そうですわね。ガルーム王子もお待ちでしょうし、戻りましょう」
仕方がなく、差し出された手を掴んで立ち上がったメオは、その後、とてつもなく後悔をする。
その日のうちに、ムガタがメオに求婚していただの、二人とも素敵な雰囲気だっただの、愛を囁きあっていただの目撃していた学院生に噂されることになったからだ。
(ムガタのやつめ……こうなることは、わかっていたのにわざと噂になるような行動をとったにゃ。でも、アラマンダが王太子妃だから我が殿方の姿でうろちょろしても困らせると思って、女性の形になったわけだが、我が男の姿をしていても同じような行動をムガタなら取るかもしれないにゃ)
美丈夫と隣国の護衛の恋だという噂が立たなかっただけ、まだマシなのかもしれないとメオは諦めることにした。




