72 人を惑わす能力
「私、何にでも変化できますわよ。例えば、5才くらいの男の子とか」
そういうと、椅子から立ち上がったメオは一瞬にして、ブロンズヘアの男の子に変化する。
「仙人のようなおじいちゃんとか」
その言葉と共に、可愛らしかった男の子が、腰の曲がった杖をついた老人のような姿になる。
「トラとか、小鳥とか」
老人が、トラ、小鳥、豚、亀、とんぼに変化する。
「ルートロック殿下とか」
その瞬間、服装まで今着ている服が再現できるのか、ルートロックが鏡でも見ているかのような状態になる。
「はははは。それはすごいな。双子なのか鏡なのかわからないくらいそっくりで、ちょっと驚いたぞ」
「ありがとうございます」
褒めてもらったことを嬉しく思ったメオは、今度はアラマンダのそっくりに変身した。
「メオ様……ご冗談もほどほどにお願い致します」
「あら、失礼いたしました」
一瞬でメオは絶世の美女の姿に戻ってしまう。
「メオ様、ありがとうございます。つまり何にでも化けられるということですね?」
「そうですわ」
アラマンダは、聖獣を召喚する時に猫の神様についての文献をいろいろと読んでいたので、それについても確認してみることにした。
「メオ様は、猫の神様でございましょう? 書物で読んだことがあるのですが、金華猫とか化け猫という類いも遠い親戚だったりするのでしょうか?」
アラマンダは、シーダム王国で読んだ書物だけでなく、日本にいた時の森野かおりとしての知識も交えて、何か関わりがあるのか興味があった。
(妖怪の類いと遠戚だと質問して、メオ様のご気分を害さないと良いのだけれど)
アラマンダの心配をよそに、メオは嫌な顔をすることなく正直に答えてくれる。
「金華猫や化け猫は確かに、猫としての括りは同じですけれど、私とは全く関係がございません。彼らは妖怪になってしまった猫と考えていただいた方がいいかもしれませんね。まぁ、私の力の数億分の一くらいでしょうが、彼らができることは私も当然できますわ」
アラマンダは、静かに頷く。
(妖怪にはどんな能力があったかしら? 彼らの能力は、神様であればそれくらいは簡単にできてしまうと考えておいた方が良いということね)
アラマンダは、メオ様の変化を見て金華描や化け猫を思い出してしまっていた。メオは神様だけれど、生物学的に見ると、同じような関係かもしれない。だから、気になっていたのだ。
「メオ様。確か、金華描は人を惑わすことができると書物で読んだのですが、その能力もメオ様はお持ちなのですか?」
「うふふふ。そうかもしれないわね。でも、そんな能力使ったことはありませんわ。そんなまどろっこしい能力で人を惑わす前に、別の事で対応できることがほとんどでしょう?」
「確かに。メオ様は知識が豊富で能力も素晴らしいですので、そんな方法を使わなくても良いのかもしれませんね」
「そういうこと!!」
どうやら、メオは出来る能力が高く知識も豊富なので、いろんな事ができるけれど無理にその力を悪用したりはしないのだと理解することができた。
「それで……メオ様が美しい女性になっているのは、もしや……」
勘の良いルートロックは、メオが人型になっている理由を早くも察しているようだ。
アラマンダは、学院でメオと一緒に過ごそうと思っていた姿が予想以上の仕上がりだったため、驚きながらも胸の内をルートロックに打ち明ける。
「えぇ、この美女の姿で私と共に学院に通っていただこうと思っておりますが、いかがでしょうか」
「はっ! ははははは」
ルートロックは、アラマンダとメオの考えが意表を突き過ぎていたので、大きな声で笑い出す。
「すまない、すまない。なかなか良い案だと思うよ。まさか、この美女が聖獣だとは誰も思うまい」
ルートロックは、自分の考えの範疇を超えた内容だったため、しばらく笑っていたが落ち着いてくると、アラマンダとメオの作戦に同意してくれる。
「でも、メオ様。学院内で先ほどのように……食べ物にがっついてはいけませんよ」
「御免あそばせ。ついつい魚型マドレーヌを見てしまうと、自分を抑えることができないようですわ」
メオは、どうやら好物を目の前にすると演技を忘れてしまうようだ。
「よし、許可しよう。メオ様がアラマンダの傍にいて、尚且つ隣国の王子の様子もわかるのであれば安心だしな」
「ありがとうございます!」
アラマンダは、ルートロックがメオの美女姿での登校を許可してくれたので、美女メオの手をとって「良かったですね」と言葉をかける。正確に述べるのなら、ルートロックが反対したとしても、聖獣メオを止めることはできないだろうから、美女メオが学院に出没をするのは防げないだろう。
「でも、メオ様。メオ様は能力をお使いにならなくても……美しい女性なので、きっと人心を捕らえて離さない、心を惑わす存在になってしまう未来が見えるのですが……」
「あぁ、私もそんな気がしてならないな。大丈夫だろうか。学院中の男性が釘付けになるかもしれないな」
アラマンダとルートロックは夫婦で、同じ未来が見えているようだ。
「ご安心ください、殿下。私の存在により、アラマンダ様に余計な虫は寄ってきませんから。私が全て引き寄せておきますゆえ、アラマンダ様もゆっくり勉学に励んで下さいませ」
「メオ様、お気遣いありがとうございます」
「ははは、確かに光栄な計らいですね。ありがとうございます、メオ様」
二人はもう一度、メオにお礼を述べる。
一言も言葉を発さずに、見守ってきたサルフ宰相はこの様子をただ静かに見ていた。
(本当に美女の話題で持ち切りになって問い合わせが王城にきてしまったとしたら、大変じゃないか!)
「殿下。美女が学院に通っているって本当ですか?という問い合わせが増えそうで対応に苦慮しそうなのですが……」
「サルフ宰相。それは上手いこと躱してくれ。そなたの腕の見せ所じゃないのか?」
「……かしこまりました」
サルフは頭痛の種が増えたことを、重く受け止めながら王子の到着に備えるため晩餐室を後にした。




