71 美女とマドレーヌ
メオが貴族学院の門にある魔法陣を強固にした日の夜。
アラマンダは、ルートロックと晩餐室で共に食事を取りながら、貴族学院の魔法陣への顔認証と個人情報の上書きがほぼ完了したと話をしていた。
「残念ながら、本日欠席をしている生徒もおりましたので、全員の登録はできておりませんが、登録作業は順調に進みましたわね」
「あぁ、とても早く事が進んでとても助かった。ありがとう、アラマンダ」
ルートロックはアラマンダに礼を述べる。
「アラマンダ。メオ様にも直接お礼を述べたいのだが、指輪から出てきてくれるだろうか」
ルートロックは、多大なる貢献をしてくれたアラマンダの聖獣メオに、直接礼を述べたいと食事がデザートのみとなった段階でアラマンダに聞いてみた。
「メオ様ですか? 少々、お待ちください」
(どうしましょう。今は指輪の外にいらっしゃるのだけれど……)
アラマンダは、心の中で「メオ様~、お越しください~」と叫んでみる。
残念ながら、指輪の中にいないのだから反応するはずもない。
「あのう……今は、指輪の中にいらっしゃらないので、今すぐには難しいかと思います」
「そうか。それは残念だな。直接、お礼を述べたいと思い、料理長にお願いをして大好物の魚型マドレーヌをたくさん焼いてもらったのだが……」
ルートロックがそこまで言いかけると、晩餐室の扉をノックする音が聞こえる。
「殿下、失礼致します。招待されたと名乗る女性が、参りましたのですが本日はそのようなご予定はなかったはず。何か心当たりはございますか?」
たまたま居合わせたのか執事長と共に、サルフ宰相が晩餐室に現れる。
「いや? そんな予定はないし、知らぬ。不審者なら追い返せ」
ルートロックがそう伝えたが、アラマンダはこのタイミングで晩餐室にやってきた女性に心当たりがある。
「ルートロック殿下。恐れ入ります。もしかしたら私の知っている者やもしれません。一度、こちらにお通しいただいても宜しいでしょうか?」
アラマンダは予想が当たっているような気がして、ヒヤヒヤしている。この狙ったタイミングで尋ねてくる者など一人しか思い当たらない。
「ん? アラマンダの知り合いか? それは、失礼した。サルフ、ここまで案内を頼む」
ルートロックが言い終わるや否や、サルフが返事をするよりも先に執事長とサルフの横から見た事もないほど美しい女性が颯爽と現れる。
(あ……やっぱりですわね)
「お食事中のところ失礼致します。殿下」
白く輝く髪をたなびかせて、翡翠色の瞳をゆっくりとルートロックとアラマンダに向けて微笑んだ美女は完璧なカーテシーを取る。
「あのう……殿下……こちらは……」
アラマンダはどうやってこの美女の正体を説明しようか、迷ってしまう。
(私が間に立って、紹介するべきよね? でも、本当のことをお伝えしてもいいのかしら?)
なぜならメオ様は今まで、ルートロックの前で人語で会話するのを避けていたようだし、一度も直接言葉を交わしたことがない。それにもかかわらず、人の姿に変化したら普通に人語でルートロックに話しかけているからだ。
(メオ様。もうルートロック殿下と普通にお話しても構わないという解釈で宜しいのですよね?)
アラマンダはメオ様が、人語を解禁したのでもう普通に会話をして良いのだろうと判断する。
アラマンダは、大きく深呼吸をして一気に美女の名前を告げる。
「ルートロック殿下。こちらは……メオ様でございます」
「……メオ様?」
さすがのルートロックも、少しの間、思考が停止していたのか、聞き間違いだと思ったようで、アラマンダの言葉を復唱してみた。
「ええ。メオ様です」
「……聖獣の?」
ルートロックは女性に対して不躾だとは理解しているが、頭の先から足の先までどこからどう見ても人間にしか見えない女性を再度、確認する。
「ルートロック殿下。私の魚型マドレーヌはいずこでございますか?」
さらりと流れるような白髪を揺らし、瞳をランランと輝かせて可愛らしく小首をかしげた美女が、ルートロックに催促する。
「あぁ……間違いなくメオ様だな」
「うふふふ。そうでございましょう」
「ひとまず、マドレーヌを運んでもらおう」
サルフと執事長も目を白黒させながら、美女の前にマドレーヌを山盛りに置く。
(サルフは、聖獣の名前がメオ様だとご存じのはずだけれど、執事長はいきなり現れた絶世の美女にマドレーヌを山盛り用意しろと命じられて、困惑されていらっしゃるのね)
アラマンダは執事長の心情を察する。混乱するのも理解できる。
「美女とマドレーヌ」
一見、ちぐはぐな組み合わせだからだ。
ルートロックは、執事長を下がらせて宰相のサルフにはその場に留まってもらう。
後で、ルートロックが説明したとしても「百聞は一見にしかず」だと言うのだから、状況を直接見てもらった方がサルフも理解できるだろうと判断をした。
「メオ様。本日はお力添えをいただき誠にありがとうございます」
「ん~」
メオ様は、口いっぱいマドレーヌを詰め込んでいるし、今は食べることに夢中らしい。
「アラマンダ。申し訳ないのだが、説明をしてくれないだろうか」
「はい」
アラマンダは、学院に通っている間に指輪の中で生活するのかどうするのかメオに尋ねてみたことを伝える。そして、聖獣メオが出した結論は、人間としてアラマンダと共に学院に通うというものだった。
メオが全てのマドレーヌを食べ終わるまで、ルートロックとアラマンダは静かに待つことにする。
「ご馳走さまでした。とても美味しかったですわ」
メオは、どうやら満足してくれたようだ。
「メオ様。私も質問があるのですが……メオ様の能力の一つとおっしゃっておりましたが、その……美女以外にも変化できるのでしょうか?」
(聖獣としてのメオ様の能力を見せていただいたのですから、どのような能力かお聞きしてお聞きしておきたいですわ)
アラマンダは、美味しそうにお水をコクコクと飲み干すメオに質問を投げかけた。




