7 毒杯を選び取った理由
辺境伯令嬢が崩れ落ちる姿を見た、王宮医師と側近のサルフはアラマンダに駆け寄ると、すぐさま脈をとったり、飲み込んだ毒を特定しようとする。
すると、崩れ落ちたアラマンダが突然笑い出す。
「うふふふふふふ」
「ア、アラマンダ嬢!! 大丈夫なのですか?!」
サルフは慌てて、アラマンダの身体に問題がないのか彼女の顔色を確認する。
アラマンダは顔にかかった亜麻色の髪を、優しく払いのけて心配してくれているサルフに笑顔を向ける。
「えぇ。無事生きておりますね。それにしてもルートロック殿下、私……初めての口づけなのにいくら何でも長すぎますわ。おかげで腰が抜けてしまいましたもの」
「ははは。それは、すまなかったな。アラマンダ嬢があまりに魅力的だったので、恋に落ちてしまったようだ」
サルフと王宮医師は、何が起こっているのか理解できず、しばらくルートロック殿下とアラマンダのやり取りをただ静かに見守っていた。彼らの真意が全くわからないからだ。
「アラマンダ嬢。そなたは本当に博識なのだな」
「いえ。毒を見極めるのは大事なことですからね。ルートロック殿下のお母様であらせられる王妃陛下は毒が原因で崩御されておりますから、王太子妃にも毒の危険性が及ばないかと危惧されております殿下の心情は察しているつもりですわ」
「まさか、毒の無毒化を指示してくるとは、思っていなかったがな。てっきり、死に至る毒以外を選んで服毒すると思っていたんだが、まさかあの組み合わせで選んでくるとは思っていなかった。一本取られたな」
「光栄でございます。どうしてもルートロック殿下と乾杯をしてみたくなったのです。一緒に乾杯をした殿下がどう行動するのかも、私自身、確認させていただきたかったのです」
サルフの頭から、未だ疑問符が消えることはない。
(どういうことだ?)
その訝し気に見つめるサルフに気が付き、ルートロックは種明かしをするようにアラマンダに伝える。
「私は、辺境伯ということもあり、たびたび隣国から毒が持ち込まれることがございます。ですので、幼い頃より毒の判別ができるように訓練しており、毒も定期的に摂取しているので、毒に対する耐性があるのです。ルートロック殿下がご用意された死にいたる毒は二つの毒を混ぜ合わせることで中和して無毒化することができるのです。……それが、先ほど、ルートロック殿下に手渡した身体が痺れてしまう毒なのですが、私が死に至る毒を服毒したら、ルートロック殿下がどうして下さるのか、つまり私を王太子妃として認めて下さるのか知りたくて、わざと中和する毒を殿下にお渡しして乾杯を懇願したのです。私が毒をあおったあと、その盃の中身をそのまま私の口に流し込んで下さればよかったのですが、まさか……あそこまで情熱的な口づけをしていただけるとは……想像しておりませんでしたわ」
「ははは。それだけアラマンダ嬢が欲しくてたまらなくなったのだよ。驚かせてすまなかったね」
「殿下も毒を中和して無毒化するのに適した条件が36度で、しっかり攪拌する必要があるということをご存じだったのでしょう? だからあんなにも激しかったのですね……」
「しっかり、二液を混ぜた方が効果が高いだろう? 無毒化するなら徹底的にする必要があるからな」
王太子のルートロックとアラマンダは、二人で手を取ってほほ笑み合っている。
(単なる口づけではなくて、二液を攪拌して36度になるようにしてからアラマンダ嬢はそれを摂取したのか……)
サルフは先ほどのルートロック殿下のとっていた行動の意味を理解する。
「未婚の女性に口づけをしたのだから、もちろん責任をとる必要があるな」
ルートロックのこの発言で、王太子妃はアラマンダに決まったということを告げている。
(臣下としては、喜ばしいことなのだが、本当にさっきのは肝が冷えた)
サルフは、やっと決まった王太子妃の存在を嬉しく思う反面、毒を用いた妃選考会が目の前で行われたことで、心臓がまだドキドキしている。
(それにしても、好みを何も伝えないルートロック殿下がここまで、心を許せる女性に出えて本当に良かった……)
この奇想天外な行動を起こす二人のおかげで、この王国は安泰になるだろうとサルフは確信した。
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