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69 学院の防犯

 アラマンダが学院の下見を行った日の夜。


 いつものように夫婦の寝室に夜遅く静かに入ってきた王太子のルートロックは驚いた。


「あれ? アラマンダ。まだ起きていたのかい?」

「殿下。お疲れ様でございます」


 ルートロックは浴室から出てきたばかりでまだ髪の毛が乾ききっていない状態だ。


 寝台に腰かけて書類に目を通しているアラマンダの横に、湯上がりの色気を出したままルートロックがポスンと腰を落とすと、石鹸の良い香りがアラマンダの鼻孔をくすぐる。


「こんな夜遅くまで、何を調べていたんだい?」


 ルートロックは学院に下見に行ったアラマンダが、遅くまで起きているとするならば学院に関することで何か重要なことに気が付いたに違いないと察している。


 内容によっては自分も動く必要が出てくるから、アラマンダが何に興味を示して、調べ物をしていたのかとても気になった。


「あのですね……今日、貴族学院に行って少し気になったことがあるのです」


(魔石を使った防犯対策って、前世にはない仕組みだし素晴らしいとは思うのだけれど……)


 アラマンダは、不審人物が簡単に学院内に侵入できてしまう問題点を見つけて、どうするのが最善なのか改善策を模索している。


(私があれこれ悩むよりも、殿下のご意見を聞いたほうが早く解決策が浮かびそうよね)


 アラマンダは、自分の夫であり王太子であるルートロックが切れ者だということはよくわかっているので、彼に話を聞いてもらうことにした。


「学院の門では、防犯対策として魔石のピンバッチを用いることで個人情報を認証して、危険がないのか確認しておりますでしょう? フレッド様にもし制服がピンバッチごと盗まれたらどうするのかお聞きしたのです」


「確かに盗難は起こり得るかもしれないな。それで?」


「貴族学院に盗難の被害を伝えればすぐにその魔石の情報を書き換えて、門を通過できないようにできるとおっしゃっていました」


「そうだね。私が貴族学院に通っている時からそのシステムを用いているな。変更はされていないと思う」


 ルートロックは、自分自身が貴族学院に通っていた時のことを思い返してみた。


「でも、それだと少し危険が残っているような気がします」


 ルートロックはタオルで髪の水分を吸い取りながら、ずっとアラマンダの話を聞いていてくれる。


「例えばですよ? ピンバッチだけ盗まれたとします。……そうですね。学院からの帰り道に何者かに襲われて……ピンバッチは奪われているけれど制服は着たままだとします。でも、万が一、一瞬でも意識を失っていたとして……その間にピンバッチだけ、似ているレプリカ、つまり偽物とすり替えられて交換されてしまったとします。そうすると、ピンバッチを無くしたことはすぐに気が付きませんよね? しかも何者かに襲われて怪我で数日学院に来られないとします。犯人は制服を学院の卒業生からもらっておいて……、それを着用して強奪したピンバッチで登校してきたら、簡単に門の中に……学院の中に入れてしまうと思いませんか?」


「確かに、可能だな」


「それだけではありません。他の例えですが、誰かに……脅迫されたり暴力を振るわれたとして制服ごと貸すように言われて……被害者が怖くて貸してしまったとしたら、誰でも学院に入ることができてしまいます」


「ふむ。それも可能だな」


(もっと別の方法で個人が特定できるようにしておかないと、不審者が入ろうと思えば学院内に入って、ナトラ王国のガルーム第二王子に危害を加えることもできてしまいますよね)


 アラマンダは、前世の記憶の知識から、今のシーダム王国でできるのかはわからないけれどルートロックに提案してみたい内容がある。


「ルートロック殿下。顔を認証する魔石か……魔術か……そういった物はございますか?」


(前世の時は、カメラで顔認証すれば門をくぐることができる機械があったから……それをしておいたら、もっと防犯性能が向上すると思ったのだけれど……そういう類いの物ってこの世界にもあるのかしら?)


 ルートロックは顎に手を当ててしばらく考え込む。


「顔を認証できるような魔石か……確かにそれができれば、不審者が学院の中に侵入する確率は下がるだろうな」


「えぇ。そうなのです。まぁ、貴族学院に通っている生徒自身が何か事件を起こす可能性もあるので、それは防ぐのは難しいとは思うのですが……」


「確か、魔法陣で名前と顔を先に認証させておいて一致しなければはじくことができる……という物があったはずだな。それならば、アラマンダが心配している顔認証システムは構築できそうだ。ただ……常に学院の門に展開させたままとなると……相当な魔力が必要になるから、王宮の魔術師だけでは、魔力が足らないだろうな……」


「そうなのですね……」


 二人はアラマンダの指輪に向かって、今の会話を聞かせるようにもう一度、同じ会話を行う。


「魔力があればな……アラマンダの指摘してくれた魔法陣が学院の門に展開できるのだがな……」


 チラッ


 ルートロックはアラマンダの指輪に視線を送る。まだ何も反応はない。


「そうなのですね……膨大な魔力が必要なのですね……どうしたらいいでしょうか……」


 チラッ


 アラマンダも指輪に向かって、左手を頬に当てて心底困っているという表情を作ってみる。


「溢れ出るほどの魔力があればなぁ……顔認証システム搭載の魔法陣があればアラマンダも安心して学院に通うことができるのになぁ……」


 ルートロックがそこまで言い終わるかどうかという時、アラマンダの指輪からメオの手がひょこっと出てくる。

 肉球をルートロックとアラマンダに見せながら、手しか出していないけれど、メオの鳴き声が指輪の中から聞こえた。


「にゃ~」


(まぁ! メオ様。身体は出していないですけれど、わかったわかったとおっしゃっていただけましたわ!)


 アラマンダはルートロックと視線を合わすと、二人の会話を聞いたメオが協力してくれることになったことがわかり、思わずプッと吹き出した。


「メオ様。ありがとうございます!」


 アラマンダは、指輪から前足だけちょこんとのぞかせている、猫の手を優しく撫でると肉球をぷにぷにと触ってお礼を伝える。どうやら、まだルートロックの前で人語は話したくないらしい。


 メオはもう一度「にゃ」と小さく返事をすると再び指輪の中に戻って行った。


(あれだけ指輪の中は退屈だとおっしゃっていたのに、今ではすっかり住み慣れて快適なのかしら?)


 ”住めば都” 

 アラマンダは前世の言葉がぴったり当てはまるわねと思い、再び静かになった指輪を眺めていた。

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