68 ルートロック殿下の思惑
アラマンダは案内板を見ながら、場所を一つずつ確認していく。
「アラマンダ様。こちらが講義を受ける教室のある棟になっています。少し離れたこちらが食堂ですね」
フレッドは、コの字型の建物を指し示しながら、何があるか説明してくれる。
(ふむふむ。食堂もあるし、立派な図書室、大きな武術剣術場もいくつか備わっているのね)
「さすがですわね。辺境伯領にはこのような立派な学院はございませんでしたので、とても新鮮です」
アラマンダは、素直に感動したことを言葉で伝える。
「では、順番にご案内いたします」
フレッドに連れられて学院の施設案内をしてもらいながら、アラマンダはどこに何があるのか位置を確認していく。
「ここが食堂です。自分でサービングトレーを取って、レーンに並び好きな食べ物をとっていきます。毎月定額料金なのでおかわりも自由です」
「まぁ、育ち盛りのご令息には魅力的なのではありませんか?」
アラマンダは、自分よりはるかに背の高いフレッドを見上げて、笑いながら聞いてみる。
「そうですね。武術訓練などがあった時には大変助かりますね。バランスの良い食事と栄養を考えられている食事も多いので、不足している栄養素を補いやすい環境は整っています」
(へぇ~、素敵ね。森野かおりの人生でも、大学の学食のメニューを楽しんでいたけれど、それを思い出したわ! 学食と異なるといえば……どれだけ食べても定額制というのが一番魅力的ですわね!)
アラマンダは、記憶に薄っすら残っているの生協の人たちを思い出して、前世の大学の学食でもずいぶんお世話になったなぁとしみじみとした気持ちになる。
「今、この時間はまだお昼前なので人が少ないですが、一番人が多い時間帯に来るとテーブルが満席に近くなりますね」
「では、知らない方のお隣に座ったりしたら、新しい人脈探しも出来そうで良いですわね」
「そうですね。内気な方は苦手かもしれませんが、社交的な性格の方にとっては、人脈と伝手を広げる良い機会だと思います」
(夜会やお茶会以外にも社交的な場があるなんて、面白そうね。私は、領地から積極的に出ていなかったから社交的な部分は……ここで身に着けさせていただこうかしら)
夜会でもなくお茶会でもなく、学院の食堂で社交の練習をするとは思ってみなかったと思い、アラマンダはおもわずクスッと笑ってしまった。
そんなアラマンダを温かい目で静かに見ていたフレッドは、次に履修科目の申し込みの場所に連れて行ってくれる。
アラマンダは、歩きながらガルーム第二王子の事についても尋ねておく。
「フレッド様。ガルーム第二王子殿下が履修されるのは、どのような分野なのですか?」
「はい。今、聞いておりますのは……疫病に関する科目、治水に関すること、土木に関することを希望されているとのことです」
(治水と疫病を学びたいとなると……やはり洪水に関することを学びに来られるということかしら)
「確か、我が国でも洪水はたびたび起こっていますが、隣国のナトラ王国の方が被害がいつも大きいのではなかったかしら?」
アラマンダはここ十年間に起きた近隣諸国の災害についての内容を記憶から引っ張り出す。
「よくご存じですね。そうなのです。シーダム王国も被害が毎年ありますが、ナトラ王国の方が……死者、行方不明者が多いとのことです」
「我が国の問題でもございますから、私も是非学びたいですわ!」
「そうですね、同感です」
フレッドも、どうやら履修したことはないらしい。
(何となくだけれど……ルートロック殿下がなさりたい展望が見えてきたような気がするわ)
ルートロックは、西側のナトラ王国とシーダム王国の間に蛇行しながら流れている川を何とかしたいのだろう。
ナトラ王国の北側の国から始まり、三か国を通る大きな川がある。国際河川だから、一緒に協力体制を築いて取りかからないと洪水対策と治水工事は行うことが難しい。
「さすがですわね。私が貴族学院の生活を楽しみながら、隣国との協力体制を築けるような関係を作って欲しい……そういうことでしたのね」
アラマンダは、ルートロック殿下が言葉にしなかった真意が少し見えたようで、嬉しくなる。
(えぇ えぇ、頑張りましょう。私が辺境伯領に引きこもって、今まで疎かにしていた貴族間の社交を広げ、ナトラ王国のガルーム第二王子とも意見交換をして……お互いの災害問題である治水工事に取りかかるための下準備をして欲しいということですわね)
アラマンダは、左胸をトントンと叩いて、今この場にいないルートロック殿下に「かしこまりました」と合図を送る。
そんなアラマンダの様子を指輪の中から見ていたメオは、
(……また大変なことを始めようとしてるにゃ……始める前にしっかり魚型のマドレーヌ食べさせてもらっておかないといけないにゃ……)
と、自分の力がひょっとしたら必要になるかもしれないから、先払いのお駄賃を要求しようかなと考えていた。




