61 失ったもの
しばらくしてから、ノア王子に状況を説明したアラマンダは、ユイン王子を寝かせる予定の寝台に戻る。
(今、空っぽの寝室にどうやってユイン王子が現れるのかは……他国の王子であるノア様に詳細はお伝えできないけれど、このおかしな発言を何も疑うことなく信じていただけて良かったわ)
「よし、準備オッケイですわ。メオ様、ユイン様をここに寝かせて治療を宜しくお願い致します」
「わかったにゃ」
メオ様は、ピンと立っている三角形の耳を前脚でなでつけて、いつものように空間魔法で空中に穴を出現させた。
その穴の中から、ゆっくりとユイン王子の両足が出てくる。
フワッと空中に全身を現したユイン王子をすぐに寝台に寝かせて、メオ様は傷口を塞ぐ治癒魔法をかけてくれた。
空間魔法からユイン王子を取り出してから傷口を塞ぐまで数十秒も経っていなかったけれど、それでもユイン王子の周りの白い布は血で染まってしまった。
(やはり出血が多かったのね……)
メオの作業の邪魔にならないように、寝台から少し距離をとったところで様子を見ていたアラマンダに治療が完了したことをメオは伝えた。
「もう終わったにゃ。傷口は塞がったけれど……正直、命が助かるかは……これから容態を見るしかないにゃ」
「ありがとうございます、メオ様。ユイン王子の血をふき取ってから、ノア様をお呼びしますね」
アラマンダは、少しでも身体についた血と汚れを拭きとってからノア王子と対面してもらおうと、お湯に浸した布を持って、ユイン王子に近づいた。
「!!!!!」
アラマンダは、一瞬言葉を失った。
驚きの光景を目にして、思わず叫びそうになった。
メオから瀕死の状態だし、拷問を受けていたところを助けた……とは聞いていたが、こんなひどい状態だったとは想像していなかった。
「……なんて……ことを……」
アラマンダは、痛々しいユイン王子の顔を綺麗に拭きとる。
ユイン王子の綺麗な宝石のように赤い瞳が、えぐりとられてしまっていた。
「片目は失ったけれど、両目をえぐられる前に……救出したんにゃ」
傷口を塞いでもらったけれど、彼の綺麗な瞳ともう視線を合わせられないと思うと、アラマンダは涙が止まらなかった。慰めのつもりなのか、メオも足元でグルッと一周してから指輪にスーッと静かに消えていく。
それでも、気丈に振舞い、泣きながら廊下で待たせているノア王子に声をかける。
ゆっくりと扉を開け、ノア王子に「どうぞお入り下さい」とアラマンダはかすれた声で入室の許可を出した。
「……もう治療は……終わったのですか?」
「……はい。傷を塞いだだけですが……」
「弟、ユインの傍に行っても?」
「えぇ、傷は塞ぎましたが血を多く流していらっしゃるので……まだ危険な状態です」
ノア王子もアラマンダのぐちゃぐちゃに泣いている顔を見て、弟が大変な状態なのだと覚悟を決めて寝台にゆっくりと歩みよる。
「……なんて残酷なことを……」
ノア王子は、異母兄弟にあたる第一王子のしでかした大きな過ちを悔やみ、行き場のない怒りを両手をぎゅっと力強く握り締めることで落ち着かせようとしていた。
アラマンダも、ファイ国における後継者争いがどうなっているのかは、把握できていない。誰と誰が同じ母親から生まれてきているかは把握していない。
ノアの説明によるとユイン王子は正妃が遅くに初めての身篭った子だったらしい。
第一、第二側妃が先に男児を四人産んでいたため、ユインの突然の誕生は後継者争いを加熱させてしまったのだと教えてくれる。
ただ、見た目が人々に忌避される赤い瞳を持って生まれたため、誰もがユイン王子は後継者には相応しくないと決めつけてしまっていたらしい。
それも理解した上で、ユイン王子は目立たないように生きてきたのだと、アラマンダはあの寂しそうな目を思い出す。
この惨事に至るまでユイン王子がここまで疎まれているとは配慮してあげられていなかった。
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