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60 ユイン王子の治療

 ファイ国では、国王陛下の弑逆を目論んでいた第一王子が捕まり、貴賓用の寝室に戻ってきたアラマンダにはやらなければならないことがある。


 瀕死の状態で、猫の神様メオの『空間魔法』に緊急避難させているユイン第五王子の治療がまだ残っていた。『空間魔法』のおかげで、時間を止めてはいるけれど、治療をすぐに行わなければいけない。


 (第五王子のユイン様の治療を行うためには、指輪に隠れているメオ様の力が必要不可欠だわ)

 アラマンダは貴賓用の寝室の寝台が血で汚れないように清潔な白い布を何枚も重ねて敷く。


(よし、これで準備はいいのかしら……)


「メオ様、どうでしょうか? 足りないものはございますか?」

 清潔な布も沸かしたお湯も寝台の横に準備してある。


「アラマンダ。ユイン王子を我の空間魔法から出した瞬間に血が流れ出すと思うから、心するにゃ。我の治癒魔法で傷口はすぐに塞ぐことはできるけれど、失った血を補うことはできないにゃ」


(そうなのね。この世界には輸血という方法が確立していないのかもしれないわね。ユイン王子の血液型がわかれば輸血できるのかしら)


「ちなみに、メオ様。ユイン様の血液型と同じ人間がわかったりしますか? 同じ血液型の人を集めておけば、横に平行して寝かして……その人の血液だけ少量で構いませんのでユイン様に転移させたりってことができたりますか?」


(注射針とか輸血用の道具がそろっていないなら、メオ様の力で血液のみ転移することも可能かしらと思ったのだけれど……)


 アラマンダは前世の記憶の医療ドラマを思い出して、そんな神業が神のメオ様ならできてしまうような気がして聞いてみる。


「他者の血液だけ転移……う~む。理論上はできそうだにゃ。でもやったことがないからできるかどうかはわからないにゃ」


(……そうよね、輸血するにしても投与速度もあるし、感染症の問題も出てくるわね。メオ様にお願いしたとしてもその方法が正しいかもわからない。リスクが伴うのならば無理に挑戦するのをやめて、今のこの世界の医療で救える命なら救う……くらいの気持ちの方がいいのかもしれないわね)


 前世の記憶は役にも立つけれど、この世界にそぐわない時もある。

 アラマンダは、今は前世の知識に頼って輸血を試みるのはやめておいた。


「メオ様、ありがとうございます。血液の転移方法は今回は止めておきます。傷口だけを塞いでいただいて……あとはユイン様の回復を信じましょう。……それと、万が一の為に第三王子のノア様を廊下にお呼びしておいても宜しいですか?」


 アラマンダはノア王子に、負傷したユイン王子をこちらで預かっているとそれとなく説明はしたが、もし手遅れで命が救えそうにない時は、最期はノア王子に看取ってもらったほうがいいかもしれないと考えた。


「そうだにゃ。ノア王子は廊下に待機してもらって、治療が間に合わなかったら……最期を見届けてもらったほうがいいと思うにゃ」


 いきなり貴賓用の寝室でノア王子の死体が出てきたら、アラマンダにあらぬ疑いを再びかけられてしまう。アラマンダがユイン王子の命を必死に救おうとしているということだけでも、誰か見届けてもらう必要があった。


「わかりました。ノア様をお呼びしてから……ユイン王子の治療を宜しくお願いいたします」


お読みいただきありがとうございます。

この章(~第64話)で連作短編ストックがなくなります。

この章以降は更新速度が落ちてしまいますが、お待ちいただけると幸いです。


宣伝になってしまいますが、拙作の連載中「孤独な聖女は溺愛されて封印を解く」も宜しければお手にとっていただけると嬉しいです。こちらは、男女入れ替わりの物語になっております。

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