6 崩れ落ちた令嬢
五つの盃を全て確認した辺境伯令嬢のアラマンダは、一つの盃を手にとり翡翠色の瞳を王太子であるルートロックに向ける。
「そうですわねぇ。子は成したいので、こちらの毒にいたします」
「それで、良いのだな?」
「はい」
ルートロックもサルフもその毒を選ぶことはないと思っていた。
アラマンダは毒に対する知識もあるのに……だ。
なんと、アラマンダは躊躇うこともなく「死に至る毒だ」と自分で宣言していた盃を右手に持っている。
「ルートロック殿下も、ご一緒にいかがですか?」
末恐ろしい発言をアラマンダはルートロックに申し出る。
”私が毒をあおるなら、あなたも飲みませんか”と崇高な存在である王太子に向かい発言したのだ。
「ご令嬢からの誘いを無下にはできないな」
その言葉を聞いて、笑いながら返事をするルートロック殿下もどうかとサルフは思う。
(この二人は完全にイカれている!)
「そうだな。では、アラマンダ嬢に私の盃を選んでいただこうかな。どれで乾杯したら良いだろうか」
死に至る盃は一つしかないのだから、あとはどれを選んでも死ぬ危険性はない。
それでも、毒だという事実はかわらない。
「そうですわね。では、こちらの盃をお願いいたします」
そういうと、アラマンダは先ほど身体が痺れる毒だと言っていた盃を手にとり、ルートロックの手のひらにそっとのせる。
サルフはここまできたら、この二人を止めることはできないとわかっている。
アラマンダが死に至ったたら、辺境伯当主に何とお伝えすれば良いだろうかと謝罪の言葉を頭に思い描き、気持ちがどんよりしてくる。
「では、ルートロック殿下。乾杯して下さいますか?」
「そうだな」
二人は高く盃を掲げ、楽しそうな笑顔で見つめ合っている。
(馬鹿な。アラマンダ嬢は最期にルートロック殿下と乾杯をして、その美しい笑顔を見ながら生を終えたいという狂信者に違いない)
そうサルフは考え、この後の惨事を想像どうする。
今更、どうすることもできずに手をこまねいているサルフと王宮医師二人は青ざめた状態で成り行きを見守る。
「では、二人の幸せを願って乾杯!」
「乾杯!」
そういうと王太子のルートロックとアラマンダは一気に盃を飲み干して、最高の笑顔で微笑む。
アラマンダが嚥下しようとするその直前、何を思ったのかルートロックは隣で満面の笑みで立っているアラマンダの腰を左手でグッと引きつけ、アラマンダの顎に右手を添えて深い口づけする。
(馬鹿な!)
サルフは目の前の光景が信じられなくて目を疑った。
ルートロックは死に至る毒を口に含んだ状態のアラマンダに口をつけた。
しかも、すぐにその口を離そうとしない。
(このままでは間違ってルートロック殿下の口にも毒が入ってしまう!!)
サルフは咄嗟に、ルートロック殿下とアラマンダを引きはがそうとする。
しかし、それを察知したルートロックは目だけでサルフを阻止して、その場から動くなと視線を送り、サルフは微動だにできなくなる。
その深い深い情熱的ともいえる口づけは、とても長く感じた。
年若い令嬢のアラマンダの生がこれで終わりを告げるから、敢えて長い口づけを思い出にしてあげているのかとも思える。
そして、アラマンダが口に含んでいたものをゆっくり嚥下した途端、ガクンと床に崩れ落ちた。




