58 空間収納の中
そこへ再び、牢屋の扉を開ける音がする。
「ノア様が戻ってきたようですわ」
「わかったにゃ」
一言、返事をしたメオは、すぐに指輪の中に姿を消した。
「お待たせいたしました、アラマンダ様」
「どうでしたか? 国王陛下のご容態は?」
「おかげ様で、呼吸が楽になったおかげで、少し落ち着いているようです」
「それは良かったですわ。私の方ももう一つの毒の特定ができましたわ。この小瓶の毒に対する解毒薬はございますか?」
アラマンダが手渡した小瓶の中身を見て、ノアは少し動揺したようだった。
「実は、この毒の解毒薬はまだ開発されていないのです……」
(解毒薬が存在しないから、この毒を二つ目の毒に選んだのですね。何て陰険なのでしょう。そこまでして王位が欲しいというのですね)
アラマンダは犯人が、この毒の解毒薬がないからこの毒に奔走されている間に一つ目のムソウ茸の毒で亡くなることを想定したのだろう。
「……困りましたわね……」
アラマンダも手詰まりだった。塔の牢屋にいてはどこにも行けない。
「実はですね。ここで監視を行っている、塔の衛兵を全員懐柔することができたので、この塔にいる衛兵とこの塔の周り一体に配置されている騎士は私の手の者です。だから、ある意味この塔は居心地は悪いですが、あなたを守る環境は整っております」
アラマンダはノア王子の配慮を有難く受け取る。
(私の身も案じて、国王陛下の対応に追われながらも、平行して私の安全も確保してくださっていたのだわ)
ノア王子も、信頼できる人間だと思われる。
周りがノア王子の臣下で固められて、私の安全が保障されているならば物を運び入れることもたやすいのではないかと、アラマンダは一つの提案をする。
「ご配慮いただきありがとうございます。では、この場で私が解毒薬が作れるかいくつか試薬を作ってみても構いませんでしょうか? いろいろ道具や材料を運び入れたりしていただく必要はございますが……あとは火が使える状態だと蒸留作業もできて助かるのですが……」
「……それは本当ですか?! それならば是非、解毒薬の作成にご協力いただきく存じます!! 塔内に火気の扱える場所がございますので、そこまでは自由に出入りできるように、十分安全確認を行い、騎士の配置を行います。すぐに、準備致します!」
前向きに検討してくれているノア王子に、アラマンダは必要な道具、実験器具、材料を記した物を手渡した。
アラマンダは言うべきか悩んだところで、大事な情報をこのノア王子には話して大丈夫だろうと考え打ち明けることにする。
「実は……第五王子のユイン様のことなのですが……」
アラマンダが言いかけたところで、ノアは顔をしかめてギリリと歯を食いしばった。
「私も行方を捜しておりまして、先ほどユインが拷問を受けた場所までは特定できたのですが……彼の行方は分かっておりません。申し訳ありません。大量の血だまりがあったので、まだ命があるのかも……わかりません」
アラマンダは、メオの『空間収納』で時間を止めているユイン王子が予想以上に危険な状態なのだと理解する。そして、ある事実だけを述べることにした。
「実は……現在、私の方でユイン様は保護しております。詳細は言えませんが今はまだ何とか命を繋いでいる状態ですので、落ち着いたら……治療しましょう」
(まさか時間を止めているからとは言えないし、早く治療しないと死んでしまうと思われてしまうのもわかるけれど……これ以上はメオ様の能力に関わることだから詳しくは説明できないわ)
「……ありがとうございます。アラマンダ様が保護して下さったのですね。ありがとうございます。……どうやって保護されたかはわかりませんが……先ほど拷問をしていたであろう人物や周りにいた者が雷に打たれたように倒れたいたので……何か私には理解できないような方法でお助け下さったのだと思っております。深くは追及いたしませんので、ご安心下さい。……そして、弟、ユインを助け出していただき、本当にありがとうございました」
ノア王子は、少し涙を浮かべてユインの息がまだあることがわかると安心したようだった。
(ノア王子も聡い人だわ。これ以上はシーダム王国の国家機密に関わるかもしれないと……追及しないでくれた。有難いわ)
「では、早速、先ほど教えていただいた必要な物を運び入れる準備を致しますので、少々お待ち下さい」
ノア王子は涙を浮かべた顔を見られるのが恥ずかしかったのか、ふいっと顔を背けるとすぐさま王宮の研究施設に器具を取りに向かった。




