56 解毒薬
(確か、先ほどの騎士は国王陛下は呼吸困難に陥っていた……と言っていたわよね。他の症状は、爪先の変色……と白目の充血。意識混濁。あとは舌に赤い斑点)
どういう毒かしら。
アラマンダは首をかしげる。シーダム王国で採取されたり手に入る毒でもこのような症状ができる物がない。
(このファイ国の毒かしら? でも、それなら医師にもすぐ解毒できそうよね?
「ノア様。ちなみに王宮医師の見解では、どの毒だと推察しているのですか?」
「……それが、ムソウ茸というキノコ類の毒に似ているとのことですが、ムソウ茸の毒を摂取しても舌の赤い斑点が出ないそうです」
「そうなのですね。ムソウ茸はシーダム王国にもございますから、初めに呼吸困難をお聞きした時はムソウ茸の毒を疑っていたのですが……」
アラマンダの頭に一つの仮説が浮かび上がる。
「すぐに国王陛下の毒が解毒できないように二つの毒を混ぜた物を使用したかもしれません」
(私が王太子妃の選考会で行ったのは、毒液を二液で攪拌することで中和することができた。……ということは、逆に二つの毒を混ぜて、解毒を遅らせて死に至らしめる確率を上げるということもできるかもしれない)
「確かに……その可能性はありそうですね」
ノア王子も毒が混合されている物かもしれないと理解を示してくれる。
「ノア様。まず、ムソウ茸の毒の解毒薬は王宮であれば常備されているのではありませんか? それで呼吸困難の症状を先に緩和させてみましょう。その間に二つ目の毒の特定をした方が良いかもしれません」
「わかりました。医師と相談してみます」
アラマンダは、追加で提案してみる。
「ムソウ茸と……この王宮にある他の毒を少しで構いませんので、持ってきていただけませんか? 私はシーダム王国の毒以外の知識があまりございません。私の知らないファイ国の毒の特性が書かれた資料などもお持ちいただけると助かるのですが」
「かしこまりました、準備してこちらに運びいれたいと思います」
ノア王子は、アラマンダの考えを尊重してくれる人のようだ。塔にいても国王陛下の命の灯火が消えないように最善を尽くす姿を見てそう感じた。
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ほどなくして、ノア王子が再び塔の扉を開けて入ってきた。
手にはたくさんの資料と少量の毒の入った小瓶をいくつも持っている。
「重たいのに、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそご協力いただき感謝申し上げます」
「それで……国王陛下はムソウ茸の解毒薬をお飲みになったのでしょうか?」
「ええ。私は第一王子に禁じられていて国王陛下の寝室に入ることはできないのですが、医師にお願いいたまして、先ほど解毒薬を飲ませたら呼吸は楽になったようです」
アラマンダは、第一王子が王宮医師まで懐柔して解毒薬を飲ますことすらしないかもしれないと、考えていたがそこまでの手は回していなかったようだと、ほっと胸をなで下ろした。
「私はムソウ茸の毒耐性はあるのですが、それを少量接種してみて他のこれかもしれないと疑わしいもう一つの毒を摂取してみたいと思います」
そのとんでもない発言を聞いて、ノア王子は目を瞠った。
「いや、他国の王太子妃殿下にそのようなことはさせられません。私もムソウ茸には耐性がつけられておりますので、その実験は……私の身体で行ってください」
「いえ。ノア様もこの国の王子でいらっしゃいますから、それは了承致しかねます」
「私は第三王子ですし、万が一のことがあっても替えがききますから……」
確かに、王子というものは誰かに何かがあったときの為に多めに子供を産んでいるという事実はあるけれど、そんな悲しいことは言わないで欲しいとアラマンダは思う。
「ノア様。ノア様はお一人なのです。替えなどききませんよ。誰もあなたにとって代わることなどできはしません。ひとまず、どちらが被験者になるかはおいておいて、今は二つ目の毒がどれなのか目星をつけるのが先決ですわ」
「そうですね。わかりました。では、私はもう一度、解毒薬を飲んだ後の国王陛下の経過を医師に確認してまいりますので、毒の特定をアラマンダ王太子妃殿下にお願いしても宜しいでしょうか」
「かしこまりました」
ノア王子は立ち上がると、再び国王陛下の元に急いで走っていった。




