52 ユイン王子の功績
アラマンダがシーダム王国に戻ってから数日後、再び毒餌の材料を用意してからファイ国に向かうことになった。
「王太子妃殿下が毒を異国に運び込むって本当ですか!」
サルフ宰相が、どうやって運搬費用を捻出したら良いのか、山高く積まれた毒餌の材料を見て頭を抱えている。
しかし、悩んでいた材料の運搬方法も何と、聖獣の猫のメオが一瞬にして解決してくれる。
「まさか、メオ様に『空間収納』の能力があるとはなぁ」
たくさんあった毒餌の材料をドラゴンに括り付けて運搬しようと計画していたルートロックだったが、メオが「にゃ~」と自分で運ぶことを買って出たため、メオに運搬をお願いてみた。
聖獣のメオが耳を前脚でなでつけると、メオの横に人が通れるくらいの穴が浮かび上がった。
(メオ様を見ていたら、前世の猫型ロボットを思い出しましたわ。四次元ポケットみたいな空間をメオ様はお持ちなのですね)
アラマンダも口に手を当てて、初めて見た光景に驚く。
山のように用意されていた毒餌の材料がドンドンと穴に吸い込まれて消えていくからだ。
「メオ様。素晴らしい能力ですわ! ありがとうございます!」
ルートロックもアラマンダも、この空間収納の大きさがどれくらいなのかわからなかったが、ポンポンと消えていく荷物を見ているとまだまだ容量があるように思えた。
「メオ様。もし、ババタが駆除できて食料を運ぼうと思ったら……この中に入れて運ぶこともできますの?」
「にゃ~」
もちろんできるらしい。
(でしたら、運搬にかかる費用は考えなくても良さそうですわね……)
アラマンダが考えていたことをルートロックも考えていたようで、二人で目を合わせてクスッと笑う。
(メオ様の空間収納を目撃されないように、気を付けて取り出さないといけませんわね。こっそり指輪の中に隠れたメオ様から姿を顕現しない状態で出していただこうかしら……)
ユイン以外の王子と会っていないので、第五王子のユインを信用できても他の者はまだ信用できない。
「アラマンダ。気を付けて……何かあればこちらに戻ってきたドラゴンに乗って駆けつけるからな」
「うふふふ。ありがとうございます。そうならないように気を付けますわ」
ルートロックはしばしの別れに、アラマンダの腰を引き寄せて抱擁してから唇を重ねる。
(何事も起こらないと良いのだが……なぜだか胸騒ぎがする……)
ルートロックは国交のない国で、アラマンダがトラブルに巻き込まれないかと嫌な予感がして、なかなか腕の中にいるアラマンダを手放すことができない。
ルートロックの気持ちに気が付いていないアラマンダは、唇が離れてからルートロックの瞳を見つめて、「行って参ります」ととびきりの笑顔を向ける。
アラマンダも、聖獣メオの存在がなるべく知られないように指輪にメオ隠してから、ルートロックの聖獣ドラゴンに乗って再びファイ国に向かい、午後にはファイ国の地に降り立った。
■■■
ファイ国に到着したアラマンダは、すぐさまユインが用意していた王城の端にある小屋を借りて、毒餌作りに取り組み、餌が出来次第、ユインに各地に配布してもらう。
毒餌の欠点は、毒を食べたババタがそのまま死骸となって放置されてしまうので、毒餌の置いた場所を記録してもらい、毎日、ババタの処分を行う必要があるため、毒餌の補充も兼ねて巡回も行ってもらった。
アラマンダは並行して殺虫剤も作ってみる。人間には害が及ばない毒を用いて、毒の材料から抽出した液体を希釈して薄めたものをカインに渡した。
アラマンダが到着して数日後には毒餌の効果と、前回訪問した時に提案した灯火に引き寄せる方法、
、空から殺虫剤を散布する方法を併用しながら行うことで、ババタの駆除は効率良く捗っていた。
徐々に駆除するババタの数も減っていくのを感じられるほどにはなっている。
シーダム王国から持ち込んだ毒餌の材料を全て作り終えたあと、アラマンダはユイン王子にシーダム王国に帰国することを伝える。
「シーダム王国のおかげで早くババタの大量発生に対応することができて、被害が拡大せずにすみそうです。アラマンダ様が一度、シーダム王国に帰られてから国王陛下が正式にお招きしてお礼がしたいと申しておりますので、ご夫婦でこの地にまた来ていただきたく存じます」
「かしこまりましたわ。そのように伝えておきますね。……ババタ問題が収束してきましたので、食料支援についてまたルートロック殿下と相談してファイ国に戻ってきたいと思いますわ。ところで、今回のババタの早期解決はユイン殿下の行った施策としてファイ国の国民には伝わっているのでしょうか?」
アラマンダは、第五王子であるユインの立ち位置を少し、心配していた。
(『出る釘は打たれる』、前世の森野かおりだった時のことわざを思い出したわ。恐らく第一王子たちは、失敗しそうなこの問題をユイン王子に押し付けて、彼の失敗を狙っていたのかもしれないけれど、それが反対に、ユイン王子の大きな功績になっているのだとしたら……何か起こるような気がして心配だわ)
「ご配慮いただき痛み入ります。えぇ、今回のババタの問題は、ババタが大量発生した時に第一王子が『第五王子のユインが対応する』とお触れを出しているので、私の功績になっているようです……。食糧難で餓死する国民を救えるのなら、少々、私自身の派閥の風当たりが強くなっても構いませんよ」
「そうなのですね」
(ユイン王子は、国民思いの素晴らしい王子ね)
アラマンダは、素晴らしい王子がシーダム王国から離れた国、ファイ国にいることを嬉しく思う。
「私は、明日一度シーダム王国に帰りますわ。次回、改めて国王陛下に謁見できればと思いますので宜しくお願い致します」
こうして、ファイ国のババタ大量発生による被害拡大は収束に向かって行った。それと同時に第五王子のユインの名がファイ国に知れ渡って行ったようだ。
あとは、二国間の関係をどうするかという問題と、食料支援についてはシーダム王国のルートロック王太子に判断を仰ぐ必要がある。アラマンダは自身の役目であった、ファイ国での毒餌作りに貢献するという役割を無事に終えることができた。
あとは明日、この地を立つのみ…………
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