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38 毒の研究

 

「もうすぐ帰らないといけない時間なんだ」

「そうなのね」


 王太子であるルートロックが自分で会話を切り上げて帰るように、護衛の方も急かすことなくまだ離れた場所から見守ってくれている。


「……最近、母上が亡くなったんだ。それで……この地にきたら何か情報が手に入って、薬が作れたのかなぁと思って来てみたんだ」

「そうなのですね……」


 身長は成長期なのか伸びて青年のようなのに、顔つきはまだ少年のように見えるルートロックは母親を思い出しているようだった。


 アラマンダは、本の中で

『ルートロック王太子は母を亡くして、心を慰めるために少し王都を離れた』

 としか書いていなかったと思い出す。


(本に詳細は書かれていなかったけれど、亡くなったお母様を偲びながらこの地にやってきていたのね……)


 アラマンダは、ルートロックにうまく声をかけることができない。

 名前もお互い聞いていないし、本来ならば今目の前にいるこの青年が王太子殿下とは普通気が付かないはずだからだ。


(ここは……ずっとお互い名前を明かさずにいた方が良さそうね。私がこの世界に来たのがルートロック王太子殿下の為ならば、これから縁は続いていくはずだもの……)


 アラマンダはそう結論づけて、ルートロックとは名を明かすことなく別れることにした。


「また、機会がございましたらお会いしましょうね」

「そうだね。今日は……石の投げ方を教えてくれてどうもありがとう。今度やる時は、負けないように練習しておくから」

「楽しみにしておりますわ」


 その約束は果たされなかったけれども、アラマンダはルートロックにまた会う日の為に、その日から毒についての書物を漁ることにした。


(今日、出会ったルートロック王太子殿下は何もおっしゃっていなかったけれども、王妃陛下は先日、毒を盛られて崩御されたと耳にしたわ。確か、隣国から持ち込まれた未知の毒で解毒薬がなかったから、倒れてからも苦しんで亡くなったようだと……お父様はおっしゃっていたわね)


 今日、王太子という立場であるルートロックがこのヘルムント辺境伯領にいたのは、病で亡くなった母親の治療薬を探しにきたわけではない。

 ルートロックは、母親を苦しめた毒の成分を特定して、その毒に対抗する解毒薬を作って、今後も同じ毒で失ってしまう命がないようにしたいと思ったから、この地に足を運んだに違いない。


(ということは、東の国から持ち込まれた毒ということまでは特定できているのね……)


 ルートロックの心に少しでも寄り添うことができるように、アラマンダも多少は毒に慣れる訓練を行ってきていたけれど、より一層「毒」について調べることにした。


 できればアラマンダ自身でも解毒薬が調合できるくらいにはなってから、ルートロック王太子殿下にもう一度会いたいと心に誓い、ヘルムント辺境伯領でできるだけの知識を学んで行くことにした。


 ■■■


 あれから六年。


 アラマンダは十六歳になっていた。ルートロックは二十三歳になって賢王になるだろうと離れた領地まで名声が聞こえてきていた。


 アラマンダはその後、ルートロックが王太子として成し遂げた施策を耳にすることはあっても、十歳の時以降、直接会話をする機会はなかった。


 この六年で、アラマンダがルートロックの手助けを陰ながらできたとするならば、王妃陛下を苦しめ、死に至らしめた毒の解毒薬を、ヘルムント辺境伯領で開発し成功することができたということだろうか。


 もちろん、解毒薬に関する内容を論文にまとめて国王へ奏上したのはアラマンダだった。

 アラマンダはルートロックの気持ちが少しでも軽くなるように、少しでも心穏やかに過ごせてもらえるように影ながら研究を続けて結果を残していた。


「あれからルートロック王太子殿下にお会いしていないし、私が幸せにすると決めたのだからやはり王太子妃候補に名前が載らないことには始まらないわよね」


(森野 かおりとしての前世でも、学生時代には恋人はいたけれど結婚するまでには至らなかった。

 そんな私でも、王太子妃候補に選んでもらうにはどうしたらいいかしら)


 アラマンダは幸い、ルートロックに決まった婚約者がいないことに心から安堵していた。


(せっかくルートロック王太子殿下の存在がトリガーとなって、この世界に来たのだから、自分の役目を果たしたい。そう思っていたのに、まだルートロック王太子殿下との接点は六年前の湖畔で遊んだことくらいしかないのよね……)


 ルートロックとの接点がないまま、月日が流れてしまっていることに頭を悩ませていたアラマンダに朗報が訪れた。

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