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37 初めての会話

「よし。今は、森野 かおりの人生を考えても無駄よね。この十年はアラマンダとして生きてきたのだから、今はこのアラマンダの生を生き抜くことに集中しましょう」


 王太子であるルートロックを目にしたことで、記憶が流れ込んできたのだから「ルートロック」という存在が、この世界で生きるための記憶を呼び起こすトリガーの役割を果たしたのだろうとアラマンダは考えた。


「ひょっとして、私がルートロック王太子殿下を幸せにしたいと望んだからこの世界に来たということはないかしら? だとするならば、私のやるべきことは一つ。ルートロック王太子殿下をお支えして幸せにすることだけだわ!!」


 アラマンダは、自分のやるべき道が見えてきて、目の前の世界が明るく広がっていくのを感じた。

 記憶の流入が落ち着いて、混乱していた頭が整理されていくと頭痛も薄れてきているのがわかる。


(私は、ルートロック王太子殿下に会う為に、この世界に来たに違いない)


「じゃあ、今、やるべきことは……ひとまず、青年の彼に会って話してをみることからよね!」


 そう思ったアラマンダは、ゆっくりと湖面を見つめ続けているルートロックに近づいていった。


 よくよく周りを見渡すと、離れた場所に護衛の方も控えているのが確認できる。

 今は、王太子のルートロックに一人の時間が必要だと思って、護衛の人たちは少し離れた場所にいるのだろう。

 アラマンダは、幸いにも今は十歳の子供なのでそんなに警戒されることもなく、普通に通りすがる子供を装って声をかけてみることにした。

 ルートロックの服装は商人の子供のように、仕立てはいいけれど王族とは一見してわからない服装をしている。


(お忍びでこの地にやってきているのね。であれば、私から声をかけても失礼には当たらないはずだわ)


 王族としての訪問なら、アラマンダの身分からは決してルートロック王太子殿下に話しかけることはできないけれど、今のお忍び状態ならアラマンダから声をかけても問題ないはずだと結論づける。


「こんにちは。今日は風がとても心地よい日ですわね」


 アラマンダの近づいてくる足音に気が付いていたようで、ルートロックは小さな声で「そうだね」と答える。


(とても、覇気のない声だわ。何か用事があって、この地にいらしたのだったかしら……本の記載内容は思い出せないわねぇ)


 アラマンダは、記憶をさぐってみるけれど、彼がこのヘルムント辺境伯領を訪ねている理由がどうしても思い出せない。


(まぁ、いいわ。子供らしく遊べば気分も晴れるかもしれないわ)


 そう思ったアラマンダは、地面に落ちていた平べったい石を見つけて、湖面に向かってそれを投げる。

 いつも石で水切り遊びをしているので、最近は五回ほど湖面をはねさせてからポチャンと湖底に落ちるようなレベルまで上達してきた。


 もう一度、石を湖面に向かって投げる。

 今度は三回跳ねた後、ポチャンと水の中に沈んでいってしまった。


「あら、失敗だわ」

 そういうと、次に投げる為の手ごろな大きさの石はないかと地面に視線を持っていく。


「ねぇ、この石はどう?」

 どうやら、ルートロックも水切りに挑戦するのか手の平に一つ石を持っていた。


「これは、ダメよ。丸すぎるわ。もっとこう……平らな石じゃないと水切りできないのよ」

「わかった」

 ルートロックが別の石を手に取った。


「あぁ、その石ならいい感じね。跳ねやすいと思うわ」


 そう言うと、ルートロックは無言でその石を湖面に投げる。


 ポッチャン


「あら、残念。もっと横から滑り込ませるようにして投げたらいいですよ」


 そんなやり取りを繰り返しているうちにルートロックも石で水切りが二回ほどできるようになった。


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