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36 「孤高の王」

「はぁはぁはぁはぁ」


 アラマンダは、自分の前世の名前を思い出す。


(森野 かおり 34歳。片田舎の小さい家具工房のショールームで栗やヒノキで作られたテーブルや、椅子の販売をしていたはず……そうだ。工房の蔵の中にあった古い本を読んでいたんだったわ)


 アラマンダは、ズキズキと痛む頭を右手で押さえたまま、流れ込んできた記憶の整理をする。


(森野 かおりは独身だったけれど、それなりに楽しい人生を歩んでいた。成人後に亡くなるには早すぎるけれど両親は他界してしまったから、自分のことだけを考えて生きていたはずなんだけれど……)


 アラマンダは、十歳のアラマンダとしての記憶と森野 かおりとしての記憶が混ざり合い、混乱している。

 でも、森野 かおりとして最期に何をしていたかという記憶は鮮明に思い出すことができる。



(そうだわ。仕事の休憩時間に蔵で見つけた古本があるよって職場の方が声をかけてくれたのよね。それを手にとって読んでいたはずよ。森野 かおりとして最後に読んでいたのは……えっと……『孤高の王』というフィクションだったはず。その本の内容は孤高の王が伴侶を得る事もなく、王国と民のために尽くして病で倒れて……その時に私は「彼が王として一人でいる道よりも少しでも手伝って、幸せにしてあげたいわ」なんて呟いたのよね。そして、いつの間にか森野 かおりとは別の世界に来て……アラマンダとして生きてきたんだわ)


 でも、何かがひっかかる。なぜ、急に前世を思い出したのか。きっかけがあったはずだ。

 そして、アラマンダはもう一つ重要なことを思い出す。


(ここは、読んでいた本「孤高の王」の中の世界だわ!! 私、前世で読んでいた古本の中に……入り込んでしまったの?!)


 アラマンダは、「孤高の王」の挿絵で、一人の青年が湖畔にポツンと立っていたページがあったことと、今、目の前の風景が重なっていることに気が付いた。


「え! じゃあ、あの青年が孤高の王? 名前は……ルートロック・シーダム。そうシーダム王国の王太子殿下だわ!!」


 間違いない。読んでいた時に出てきたモノクロの挿絵だけれど、その構図と全く一緒だ。

(……でも、彼は王太子なのよね……なぜ、こんな辺境伯領にいるんだっけ……)


 アラマンダは、森野 かおりの時に読んだ本の内容を思い出そうとするけれど、思い出せない。本も最後まで読まずに、ルートロック王太子殿下が国王になって、その後、病で伏せている部分までしかわからない。その後、彼は死んでしまったのだろうか。


(私自身、森野 かおりの生涯がどうなったのかわからないわ)


 この本の世界が無事にお話として終われば、元の世界に戻れるのかもしれない。でも、ひょっとしたら、本を読んだまま急死してもう肉体は無いのかもしれない。


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