35 前世の記憶
「行って参りまーす!!」
十歳になったばかりのアラマンダ=ヘルムントは、このシーダム王国の一番東に位置するヘルムント辺境伯のだ一人娘だ。
ヘルムント辺境伯領は軍事的に重要な地域となっていて、東側に山脈があって険しい山道もあるが隣国へと続く道も整備されているので、隣国から侵略してこようと仕掛けられやすい、トラブルの多い領地である。
アラマンダの父は、東側の国との国境沿いでしばしば起こる小競り合いで家を留守にすることも多く、
「自分の身は自分で守れるようになりなさい」
と、アラマンダにありとあらゆる知識をつけようとしていた。
もちろん、アラマンダも男性と同じ教養を身に着けるのは苦ではなく、むしろ自分には必要なことだと思っていたので、五歳を過ぎたころから父が家にいる時は馬術、剣術を直接指導してもらうようになっていた。
十歳になったアラマンダの休日の過ごし方は決まっていて、馬術訓練を兼ねて一人で領地内にあるルーベ湖に乗りこなせるようになった愛馬で行って、読書をしてから帰ってくるというのが習慣になっている。
■■■
そんないつもの休日。
アラマンダは一人で馬に跨り、革のカバンに飲み物と本を携えて、大好きなルーベ湖に向かう。
どの季節も素敵だけれど、アラマンダは春先の草花が芽吹いてくる時期のルーベ湖の景色がとりわけ気に入っている。
「あ~。今日も風が気持ちいいわね~」
強すぎない風がアラマンダの頬にかかっている亜麻色の髪をサラサラと撫でつけて流れていく。
予定通り湖に到着したアラマンダは愛馬から降りると、いつものように湖畔にある手作りの長椅子に腰を降ろして、しばし読書にふけることにした。
アラマンダが早速腰かけたこの木製の長椅子は、先日、アラマンダの十歳の誕生日に湖畔でくつろげるようにと父親からお祝いとして贈ってもらったものだった。
(うふふふ。この森林の香りも好きだけれど、お父様が自ら削って作って下さったこの木の香りも大好きだわ~。あ~癒される~)
アラマンダは読みかけの本を膝の上に置き、侍女に持たされた水筒から果実水を口に含んで、喉を潤した。
「あら? めずらしいわね」
アラマンダは湖畔でルーベ湖を眺めながら、一人で佇んでいるを青年を見つける。
この湖は人気があまりなく、見かけるとしても商団の荷馬車が山脈を越える前に立ち寄って休憩しているところばかりで、観光にくる人は滅多に見かけなかった。
ドクンッ
胸がなぜか大きく跳ねて、それと同時にひどい頭痛を感じアラマンダは、胸と額を押さえて呼吸を整える。
(な、何? 何かの発作?!)
「はぁはぁはぁ」
突如、見たこともない記憶が頭の中に流れ始めて座っているのにも関わらず、手足がガクガク震え出して椅子からずり落ちそうになる。
(どうしたのかしら。身体が…………この記憶は…………)
!!!!!
アラマンダは膨大に流れ込む記憶を取り戻し、自分の前世を思い出した。




